変化と動きの中でバランスをとっていく
森田理論では「不安や恐怖」の感情はそれだけを見て問題視してはならないといいます。不安や恐怖は、欲望との相互関係の中でしか解決はできない。また不安はそもそもそういう相互関係の中でしか存在しえないものである。だから不安や恐怖だけをことさら取り上げて、意のままにコントロールしたいというのは自然の法則に反する行為です。不可能を可能にしようと無駄なエネルギーを使い続けると、最後には、ヘトヘトに疲れて、惨めな結果になってしまいます。この考え方は、森田理論では精神拮抗作用といいます。森田理論の要となる考え方です。森田先生は、精神現象は常にある意向が起これば、必ずこれに対抗する反対の観念が起こって、我々の意志の行動が抑制されている。プラスがあれば必ずマイナスがある。これがコインの裏と表の関係にある。宇宙の営みも同様の原理で動いております。太陽を中心として、その周りを地球や火星等の惑星がものすごいスピードでまわっています。この流動変化の中で、太陽の強大な引力と惑星が動き回っている遠心力がバランスよく釣り合っています。その調和は見事というしかありません。その結果多くの惑星が存在すること自体を許されているのです。その太陽は一カ所にじっとしているわけではありません。太陽系は天の川銀河の輪の中心から3分の2ぐらいのところにあり、3億年かけて猛スピードで銀河系を回り続けているのです。その天の川銀河は、隣にあるアンドロメダ銀河と猛スピードで接近しており、遠い将来この2つの銀河は合体する運命にあるそうです。このことは、すべての物質はそれ自体が単独では存在しきれない。持ちつ持たれつ、他のものとの相互関係の中でこそ、はじめて自分の存在が許されている。その関係性を無視して、自分の意のままにコントロールしようとすることは人間の思い上がりだと思います。人間がその方向に向かえば必ず大きな惨禍に見舞われる。そういう自分と他者の関係性が分かれば、そのなかでどううまくバランスをとって生活していくのかが問われてきます。調和、バランスを崩さないように、絶えず注意を払いながら、注意深く前進していくことです。これ以外に別の生き方はないものと思います。ここでは不安を取り去るために、ことさら不安だけを取り上げて対処しようとすることは片手落ちではないのか。不安を止揚するためには、生の欲望とのバランスの調整の中にこそ宿っているのだということを分かっていただきたいと思います。ここでもう一つ重要な点があります。宇宙の現象と一緒で「不安や恐怖」の感情は一カ所にとどまっているものではないということです。諸行無常で常に流動変化しているものであるということです。どんなに大きな「不安や恐怖」の感情であっても、時間の経過とともにどんどんと変化していくものであるということも大切な視点だと思います。