日本の健康保険制度を守りたい
アメリカで2010年に導入された健康皆保険制度「オバマケア」は思惑通り進んでいない。オバマ前大統領は、だれもが加入できるようにと「 メディケイド」(貧困者・障害者向け公的保険)の受給要件を緩め、保険会社が病気を理由に加入拒否することを禁止したり、民間保険にはあらかじめ妊婦医療や内視鏡検査等を入れるよう義務付けるなどした。保険料はかなり上がった。また保険に入らない人には罰金を科した。それまで月々の保険料を支払う余裕がなくて無保険だった人が、毎月の掛け金の1部を政府が補助してくれることになり、やっと民間の保険に加入できた。日本と違うのは、政府が社会保障制度として責任を持つのではなく、民間の保険会社が介在して健康保険制度が成り立っていることだ。社会保障制度として国が医療に責任を持っているのではなく、民営化して利潤追求の保険会社や製薬会社によって健康保険制度が成り立っているのだ。利潤追求が第一目的であるために、国民の福祉や健康とはかけ離れたものになっている。実際には、いざ使おうとすると、免責額は3,000ドル(30万円)もかかることがわかり、結局保険証があっても医者かかれないなら、罰金の方が安いだろうと解約して再び無保険者に戻った人が多い。実際は夢のような公約とは、全くかけ離れていたのである。そのため、新規加入者は伸びず、オバマ前大統領は、大金を投じてオバマケアの販促活動を始めた。保険のことなどまるで分からない市民を5時間の講習を受けただけでナビゲーターに仕立てた。1人加入すれば58ドル(5,800円)である。もし仮に1日5人に売れば290ドル(2万9,000円)になる。この金額は時給700円の人が1週間働いて得る金額とほぼ同じだ。保険の仕組みについて全く理解していない人でも、パソコンの画面に相手の個人情報を入力していくと、大体の保険料が出てくるようになっている。しかしあるナビゲーターは次のようなこと話していた。「皆保険に加入できて喜んでいたし、私自身も高額コミッションがもらえて助かりました。でも何ヶ月かするうちに、だんだんうんざりしてきました。最初は弱者救済をしているつもりでしたが、よく考えたら自分のしていることは民間保険のインチキブローカーと一緒じゃないか」この保険に加入すると、実際にはかかれる病院のリストが前よりずっと減らされています。オバマケア保険は治療費の支払い拒否が3割もあるので、診察してくれる医師自体が見つからない。また薬は保険適用から外されているものが多く、自己負担の世界だったのだ。人によっては、保険料は政府が補助してくれても、実際には病気になると、免責額が高かったり、薬が保険から外されていて、治療を諦めざるを得ない仕組みになっている。なんということか。病気のあるなしにかかわらず手ごろな値段の保険を提供し、年間保険料を平均3,500ドル(約35万円)も下げると約束したオバマケア。実施してみたら、その約束は全てひっくり返る欠陥だらけの法案だった。この法案は、オバマ大統領の政権に入り込んだ医療保険会社が書いた法案であったという。保険会社が今までよりもっともっと儲かる法案に仕立ててあったのだ。また、世界一高いアメリカの医療費を毎年グングン押し上げている最大の原因は「薬代」である。アメリカは日本と違い、政府は薬価交渉権を持っていない。オバマ大統領がそれを放棄したという。だから製薬会社は自分の薬に好きな値段をつけ放題なのだ。がん治療薬は1粒10万円。盲腸の手術は200万円が当たり前の国なのだ。アメリカの国民皆保険の制度は日本とまるっきり違う。日本では今のところ、まだ定額の保険料を支払えば、全国どこの病院でも3割負担で見てもらえる。 家族は扶養家族として同様の医療を受けられる。30万円の免責額があり、その範囲内の治療費は全額自己負担というアメリカとは違う。これは政府が国民の医療に対して責任を持つという社会保障制度であるからである。アメリカという国は国民の命に関わる医療や介護については、規制緩和され、民営化されている。いまや国民の健康を守る医療や介護は強欲な保険会社や製薬会社の餌食にされているのである。製薬会社や保険会社は利潤を最大限にあげることを目的としている。製薬会社や保険会社は多額の政治献金をして政府の中枢に潜り込み、自分たちの都合の良い法律を作ってきたのである。その結果、製薬会社や保険会社はどんどん利益を積み重ねてきた。犠牲になったのは、アメリカの大多数の国民である。オバマケアが始まる前の方がまだマシであったのだ。この強欲なアメリカの製薬会社や保険会社は次は日本に標準を定めている。高齢化が進む日本では、現在の健康皆保険制度をなし崩し的に形骸化すれば、ビジネスチャンスとしては100兆円に上ると試算している。その利益を我が物にするために日夜研究を重ね、日本政府に徐々に譲歩を迫っているのである。政府は徐々に解放の扉を開いている。農業を破壊したやり方とよく似ている。ここにきてそれは加速されている。安倍総理は2013年12月に国会を通過した「国家戦略特区」でこの医療介護の分野に外国人投資家のビジネスチャンスを広げるという。今後高齢化が進み、日本の国民皆保険制度が維持できないことを見越して、民営化して政府の負担を減らそうとしているのである。アメリカのハゲタカのような製薬会社や保険会社に日本を売り渡そうとしているのだ。日本の多くの国民や中小企業はもうどうなってもいいのだろう。グローバル戦略で世界と戦える多国籍企業を応援しないとこの国は持たないといわれる。私たちは、日本の健康保険制度は将来どのようになっていくのかについて、そして今のアメリカの健康保険制度がどのような状態に陥っているのか知る必要があると思う。将来取り戻しのつかない状況になって、知りませんでしたでは済まされない。未来永劫我々の子孫代々に悪影響を及ぼすからである。それでは子孫に申し訳ない。森田理論学習では、事実をよく観察し、現実や現状を知ることが大切であるという。そのためには命をかけて現状を告発し続けている堤味香さんの著書を1冊でも読むことをお勧めしたい。「ルポ 貧困大国アメリカ」 「ルポ 貧困大国アメリカ2 」 「沈みゆく大国アメリカ」「沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ!日本の医療」 「政府はもう嘘をつけない」 「政府は必ず嘘をつく 増補版」「社会の真実の見つけかた」森田理論学習では欲望を暴走させてはならないと学んだ。今、世界の流れは強欲な投資会社と多国籍企業がすべての富をわがものにしようとしている。人によっては、欲望の暴走が行き着く所までいった時に、初めてポスト資本主義の社会が始まるのだという人もいる。それまで抑圧や収奪を許し、99%の人々が貧困にあえぐ状況を放置してもよいのか。この暴走を許すことは、すべての人が心豊かで安心できる社会を根底から否定するものであるということ肝に銘じておきたいと思う。