人間関係は「淡く長く」を心がける
五木寛之氏が心掛けている人間関係は「淡く長く」だそうです。「兄弟姉妹は他人の始まり」といいます。冷たい言い方ですが、つい生じる甘えを自覚するうえで、とても意味のある言葉だと思います。兄弟姉妹でも他人であると思えば礼節も尽くさなければなりません。そうしていると、密接なつながりを実感する瞬間があるものです。心の底から感謝の気持ちが湧き上がります。夫婦の関係もそうです。もともと生まれも育ちも違う人間が一緒にいるわけです。いくら長く一緒にいようともそれぞれがよく分かっていないことがあって当然なのに、いつの間にかわかっているはずだ、わかって当然だ、となってしまう。肉親だから助け合うのは当たり前、夫婦だから愛し合うのは当然だという前提になってしまうと、そこに欲が出てきます。でも他人だと思えばそんな欲は出てきません。友人関係でも同じことが言えます。困った時に友達に助けを求めても、他人なんだから助けてくれなくても当たり前です。ところが、思いがけず手を差し伸べてくれたとしたら、それはほとんど奇蹟と言っていいようなことでしょう。そう考えて、「なんてありがたいんだろう」と思う方がいい。ですから私は、この人はすごく好きだ、友達になれそうだと思うと、かえって気をつけて、距離を保つようにしてきました。親しくなるのはいいのですが、少し距離を誤ると、どうしても甘えが出てきてしまう。荘子は「君子の交わりは淡きこと水のごとし」と言いました。水のような付き合いでないと長くは続かない。人との交流というのは川のように流れていくほうがいいのです。そして遠くからお互いのことを思いやり、見守っているといった付き合いが一番良い友情の形ではないかと思うのです。大切に思う人ほど、他人であることを忘れない。親しき中にこそ礼儀あり。親しさの距離を間違えないようにしましょう。(ただ生きていく、それだけで素晴らしい 五木寛之 PHP研究所 30ページ)この人間関係の極意は、森田理論の「不即不離」の人間関係のことですね。必要な時に、必要に応じて、必要なだけの人間関係を心がける。時、場所、環境が変われば付き合う人がどんどん変化していく。コップ一杯の人間関係作りを目指していると、失敗する確率が高くなります。コップに少しだけの人間関係作りを心がけている人は、人間関係の悩みが少なくなるだけではなく、困った時の相談相手を数多く持てることになります。