事実にできるだけ近づくということ
村上和雄先生のお話です。社会を見る場合でも、生物を見る場合でも、自分だけ、あるいは自分の所属する共同体や国だけを見ていては、相対的な目を養うことはできません。一旦自分から離れて、相対的な視点から自分を見ていかないと、自分や自分の所属している共同体や自分の国というものはよく分からないわけです。そのために一番いい方法は、場所を変えてみることです。自分についてわかりたいと思ったら、自分を他者の中に置いて、いわば外からの視点で客観的に眺める必要があります。例えばこんな話があります。日本で不登校になった日本の子どもの話です。ケニアに住んでいる村上さんの弟さんがその子をアフリカに連れて行きました。現地の様子を見て、その子どもは大変ショックを受けました。現地では、ある学校の校長先生が生徒たちの点呼をとり、授業料を払っていない生徒は帰ってくれと教室から追い出します。すると、追い出された子どもたちは学校へ行きたい、勉強したいと、校門にしがみついて泣くのだそうです。その光景に、日本で不登校のその子どもはびっくりしました。自分は、学校に行ってくれと親が泣いて頼んでいるのに、学校なんか行くものかと行きませんでした。ケニアの子どもと逆です。同じ学校にいかない子どもがいるといっても、その理由はまったく異なります。その子どもは、猛烈にスワヒリ語の勉強を始めました。それと同時に、教科書を無償で配布するトラックに乗り込み、スタッフと一緒にケニアの奥地にある学校に向かいました。すると、行く先々で全校をあげて歓迎してくれます。それまで自分のやった行為で人を喜ばせることなど一度もなかった彼は、そのことに感激します。その体験によって、彼は変身します。これは環境が変わったことが大きく作用しています。日本にいれば、ご飯を食べるのも、学校へ行くのも当たり前です。それがいかに恵まれていることなのか分かりません。しかし、アフリカには、ご飯もまともに食べられないし、学校に行きたくてもいけな子どもたちがたくさんいます。それは、話として人づてに聞いたり、テレビで見ているだけでは実感できないことです。それを現地で体験すると、やはり人間が変わるのです。現地に足を運び、直接現実に接することは大きな影響力を発揮します。(望みはかなう きっとよくなる 村上和雄 海竜社 101ページ参照)この話は現地に足を運び、直接事実に接することは、人の考え方を変える力を持っているということだと思います。私たちはいちいち事実を確かめなくても、頭で判断すれば、すべてのことが分かり、何も問題は起きないと思いがちです。本当にそうでしょうか。たとえば、昔日航機が群馬県の山中に墜落したことがありました。この飛行機はそれ以前に伊丹空港で尻もち事故を起こしています。ボーイング社で後部の圧力隔壁を修理していました。その修理が不十分だったため、後部トイレの開閉に問題が出ていました。その原因を十分に確かめないで、あいまいにしたままで運航していました。過去の尻もち事故を見直して、再度点検修理に出していたらこの惨事は防ぐことができたかもしれません。この場合は事実の取り扱いを軽視・無視したことが事故の原因となりました。問題や事件の原因を見誤った場合は、対策を立てて行動しても、どんどん横道にずれてしまいます。努力はほとんど無駄になってしまいます。最後には万策尽きて投げやりになってしまうことになりかねません。そうならないためには、面倒でも、時間がかかっても、現地に自ら足を運び、事実に真摯に向き合うことが大切になります。手間を惜しんで、安易に先入観、決めつけ、思い込みなどで、事実を捏造して行動することは間違のもとになります。取り返しがつかなくなります。神経質性格者の場合、それがマイナス思考、ネガティブ思考と結びついていますので、特に注意が必要になります。