適度なストレスや不安を歓迎する生き方
過度のストレスや不安は人間を死に追いやることがあります。しかし適度のストレスや不安は人間に生命力を目覚めさせて、生きる力を与えてくれます。今日はストレスや不安を歓迎する生き方について考えてみたいと思います。世界一の長寿村と言われているコーカサス地方は山あり谷ありの過酷な自然環境です。寒さや暑さの寒暖の差も身体に襲いかかります。しかし、ここでは80代は若手と言われています。多くの人が集まる酒盛りの席では末席に坐ります。100歳を超えた人がたくさんいます。115歳くらいで畑でポックリというのが多いという。どうしてそんなに長生きができるのか。ほとんどの人は農業に従事しています。イモやトウモロコシ、果物や野菜、香草、乳製品を作っている。我々から見ると、過酷な環境のなかで、厳しい労働をしているように見えます。彼らにとっては、生きるために毎日必死に農作業に取り組んでいる。我々にはストレスと思えるようなことをそれほど深刻に捉えていない。生きていくために当然のこと、あたりまえのこと、必要なことだと考えている。つまりストレスと上手に付き合っているということになります。さて、重力に立ち向かって二足歩行している人間は、筋肉や骨格が鍛えられます。宇宙空間では重力によるストレスから解放されますが、筋肉や骨は急激に衰えていきます。老人で寝たきりになった人も足の筋肉がやせ衰えて、しばらくするとトイレにも行けなくなります。さらに動かなくなると、頭の働きが悪くなりボケが始まります。足腰の筋肉の衰えは脳の働きに連動しています。これは廃用性萎縮現象と言われるものです。ストレスや不安がなくなると人間の心身に大きな悪影響が出てきます。動物行動学のケーニッヒという人が、青サギをたくさん飼っていました。食べ物を十分に与えて飼ってみると、最初はどんどん増えていくそうです。ところが、あるところまで増えていくと、そのうちだんだんと減ってきて、そして最後には絶滅したという。同じような実験はネズミでも行われていて、環境を整えていくと、最初は一時的に増加するのですが、やがては減ってしまう。卵を産んでも返さないとか、子どもができても餌をやらないなどのことが起きてくる。環境が整いストレスがなくなると、子育ての意欲が骨抜きにされるということです。子孫繁栄はどうでもよいことだと考えるようになるのです。それよりは今の自分たちの生活をより豊かにすることに専念するようになるのです。日本は少子化と言われています。これは先進国に共通しています。原因としては、子どもを産んでも養育費や教育費がかかりすぎる。自分の生活もギリギリなのに、結婚や子育ては無理だ。また、子育ての自信が持てないのに子供を作ることは無謀なことだ。子ども育てる楽しみよりも、今の何不足ない自分たちの生活を維持発展させたい。自分の代で終わっても、それは仕方ないことだと考えている。ストレスや不安を回避して、刺激や快楽を追い求めるようになると、一見楽なようですが、生きる意味を見失ってしまう。しだいに活力を失い、生きていても心の底から楽しむことができなくなる。あくなき刺激や快楽の追及によって、巨大なローマ帝国は崩壊したと言われています。今こそ人類は過去の悲惨な歴史に学ぶ必要があります。適度なストレスや不安を抱えた生活は、人間がより人間らしく生きるために、必要不可欠なものではないでしょうか。