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カテゴリ:あれこれ アラブ世界
日本におられる皆様は、夏をどのようにお過ごしでしょうか? ヨルダンも昨日からいよいよラマダン (断食月) が始まり、熱風と熱波に耐えながら、さらに1ヶ月間のラマダンを乗り切らねばなりません。かなり暑い日が続いていましたが、この熱波は今週いっぱいで少し収まるとも聞いています。 さてラマダン中のヨルダンの様子は、オンタイムでアップしていけたらと思っております。とはいえ、私が断食するわけではありません。が、断食中のムスリムたちに感情移入してしまう。午後8時ごろ、太陽がすっかり沈みきった頃にやっとお食事にありつけるムスリムたち。この時間を迎えると、思わず拍手してしまいますよ。 さてそんな今日は、ヨルダンにいる私の友達を少しご紹介したいと思います。エステルとリナとダニーの3人兄弟。一番年上で25歳のリナ、24歳のエステル、そして16歳の男の子ダニーです。父親がヨルダン人なので、彼らの国籍はヨルダン人。でも母親がシリア人であることからシリアに住んでいた期間のほうが長く、自分たちはシリア人だと言い切ります。どうしてもヨルダンにはなかなか馴染めない様子。 そんな彼らと知り合ったのは私がヨルダンに来て間もない5年前。アラビア語が全然話せなかった私は、彼らとコミュニケーションをとる術 (すべ) がなく、それはそれはシャイなこの3人兄弟とはお互いに微笑み合うのが精一杯で、それ以上はどうあがいても会話になりませんでした。 そんなこんなで、私はその後レバノンに引っ越し、彼らはシリアへ引っ越し、離れ離れになった時期が約2年間。今回私がヨルダンに戻って来た時、彼らもヨルダンにいることを知ってビックリしました。聞くところによると、俗にいう「アラブの春」がシリアにも波及して銃での撃ち合いが始まった1年前にシリアから引き揚げてきたそう。彼らはホムスに住んでいましたが、ホムスは今回のシリアのゴタゴタで、一番争いが激しい場所の一つでもあります。 シリアからヨルダンにいわば避難してきましたが、持ち物もなく、仕事もなく、本当に簡素な生活を余儀なくされています。アンマン市の中でもかなり貧しい地区に当たるアシュラフィーエに住みながら、仕事を探す日々。父親は家族の扶養をほぼ拒否している状態でしたので、父親がいないに等しい一家の収入は、エステルとリナの安月給にかかっています。が、仕事が見つからない。夫婦仲が悪いことも関係して、シリアとヨルダンとを行ったり来たりするうちに、末っ子のダニーは学校の勉強についていけなくなり、すっかり諦めてしまったよう。 そんな弱い立場にある人たちに対して、ヨルダンの社会はとても厳しいのです。お金がなければ何もすることができません。車を持てない家庭では、ちょっと出かけるにもタクシーが必要。タクシーに乗るためにはお金がいる。日本円にすると大した額ではありませんが、ヨルダン人には手痛い出費です。 家賃と食費もままならない状態で、彼らにできることはただただ家にいることだけ。仕事の面接に出かけますが、なかなか思うような仕事は見つからず、エステルとリナはほぼすべての時間を家で過ごします。母親は毎日スークで安い野菜を買っては一生懸命料理をし、ダニーはブラブラと近所の男の子たちとたむろうか、中古で購入したテレビゲームをする日々。 ヨルダンにいながら、死海にさえも足を延ばしたことがないのです。これがヨルダンの現実。まぁヨルダンに限らずどの国でもそうなのでしょうが…。いわゆる弱者には誰も助けの手を差し伸べません。でも母子(ははこ) 4人でシッカリと結束し、とても仲が良い兄弟たち。 やがて私のアラビア語も彼らとコミュニケーションがとれるくらいに進歩し、彼らの置かれた状況を理解できるようになってからは、何とか力になりたいなぁと思っていました。家を訪ねて一緒に食事をしたり、電話で話したり、色々と接触を取るようにしているのですが、私のかねてからの願いは彼らを外に連れ出すこと。ヨルダン人でありながら、自分の国のことを全然知らないなんて、もったいなすぎる! それに人生の中で最も感受性の強い10代後半から20代を、家でほとんど過ごすなんて…残念で仕方ありません。 そしてこの度彼らをムジブ保護区と死海に連れ出すことに成功! なんせ外に出るということがない彼ら。まずムジブと死海行きを説得するまでに時間がかなりかかります。それから心配なのはお金のこと。すべてこちら持ちであることを説明しても、今度は遠慮してなかなかOKが出ません。そんなこんなでしたが、最終的にすべての難関をクリアして、死海にたどりついたのでした。 実はヨルダン人のほとんどが金づちで、泳げません。外慣れしていない彼ら。ダニーなんて、最初は水に顔も付けられないくらいでした。リナは泳げないのでなかなか水の中に入りませんし、入ってもプールの縁にへばりついて、しばらくはまるでタムシのようでした。エステルはこの3人兄弟の中でも一番勇気があります。さすが次女! 深いところで泳ぎたいと意欲満々ですが、何せ泳げないので、やはりプールの縁にへばりつきながらそろそろと移動している状態。 どうなることやらと思っていましたが、彼らなりに非常に楽しんだようです。ダニーは、サルト出身のイケ面のお兄ちゃんに出会って、徹底的に泳ぎ方を指導してもらい、何と最後には泳げるようになっていました! この3人が家の中では見せたことがない笑顔になっていたのがとても印象的でした。今度はなかなか水から出ようとせず、帰ろうと言い出すのが可哀そうなくらい楽しんでいる3人。 そんな3人を見ながら、誘ってよかった、来てくれてよかった~と心から思いました。これからもどんどん誘っていきたいと思っています。ただ私の悩みは、3人分を出すとなると私を合わせて4人分の入場料が必要で、お金持ちしか楽しめないシステムになっているヨルダンではかなりの出費になること…。これさえクリアできたら、もっともっと誘えるんだけどな~と残念に思っています。 こんなヨルダン人の友達は、私にとってとても大切です。こうしたヨルダン人の顔は、メディアではほとんど報道されることがないかと思います。中東と言えば、撃ち合い、殺し合い…というイメージ。ごく普通の人々が命を愛しながら、一生懸命生きている様子はなかなか外に伝わりません。何かと誤解されがちな中東にいて、アラブの人たちと時間や人生の一部を共に過ごし、彼らの素顔をじかに見れるのは私にとってとても貴重な経験だと思っています。 そして何より、若いアラブたちにいろいろないい経験をしてほしい。たくさんいい経験をして、たくさんいいものを見て、豊かな人間になって豊かな人生を送ってほしい、と思っています。それは実はここヨルダンではとても難しいことなのですが、それでも何もしないよりは、何かをしたほうがいい。私にできることは限られていますが、できる限りこれからもエステルやリナやダニーのようなアラブたちに関わっていきたいと思っています。 さて、この日の死海は夕日がとてもきれいでした。 そろそろ帰ろうか~? と声をかけると「レーシュ(なんで)?」という返事。いやー、楽しかったようです。家に帰った時の3人の顔がいつもと全然違うので、お母さんがとても喜んでいました。今回は置いてきぼりだったお母さん。実はお母さんも行きたかった!! お母さんも死海を見たことがなかったのです。というわけで、数日後にも再び死海を訪れることになりました。 さてこの様子は、実はテレビ(NHK BS1) で放映されることになっています。放送の予定は、8月24日。「アジアで花咲け! なでしこたち」という番組です。ヨルダンのことを是非もっとたくさんの方に知っていただきたいと思っています。皆さまも是非観てくださいね。 ヨルダンツアーのことなら:http://picturesque-jordan.com/
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最終更新日
2012.07.22 14:56:02
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