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大福の日日是好日

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プロフィール

大福16

大福16

2005年12月19日
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カテゴリ:楽しい人々
私は以前、アミューズメント・パーラーのスタッフだった。

・・・ま、早い話が、パチンコ屋の店員だったわけだ。


パチンコ屋はすごい。

欲望と現金が渦巻き、夢と現実が交錯し、喜怒哀楽の人間模様が曼荼羅のように広がる特異な世界だ。

店内には射倖心を煽る大音響が流れ、客の吐き出す煙草の煙はさながら地獄の溜め息のようである。


現金こそが正義。
ドル箱を積み上げるのがステータスの証。
かように投機的興奮を呼び起こす店内は、相対性理論によって外界とは時間の流れが違う。

更には、近年広まる「禁煙」なんかクソ喰らえ、副流煙でも何でも来いの治外法権が罷り通っている。

それが我々店員の働く職場である。


私の勤めていた店はそこそこ大きな店でパチンコ・スロット合わせて700台強を有する。

お客さんも多くて土日祝日は空席の待ちのお客さんが出るほど。
いつも満員御礼の優良店であった。


組織としては、ニ交替なのでAチーム、Bチームがある。
各チームには、リーダー(1人。例えていうなら課長)を頂点として、その下にサブ・リーダー(2人。同課長代理)、チーフ(2人。同係長)、メンバー(10人強。同平社員)、アルバイト(約10人)という完全なるヒエラルキーが存在していた。

因みに、リーダーとサブ・リーダーは支配者階級に属し、メンバーとアルバイトは無産階級であった。
何を隠そう、私も完全な無産階級だった。


その上には、「店長(同部長)」という天上人がましましたが、店長は地域の3店くらいを統括している人物なので、滅多に店には現れない。


リーダーはスーツ姿だ。
主に事務所で仕事をする。

サブ・リーダーは制服組のトップとして、無産階級とは一味違ったお洒落な制服を着用している。
そして、事務所と現場(ホール)の半々で仕事をする。


支配者階級の仕事は管理職の名に相応しく、まさしく「管理」だ。
稼働率の動向とか、設定の具合とか、出玉の動向とか、不正行為が行なわれていないかとか、店員はちゃんと働いているかとか、その他各種データの集計・分析をしている。
すなわち、事務と現場の双方を管理する。

また、店内には至る所に設置された監視カメラがある。
そして事務所にはそれを映し出す8×10個のテレビモニターがズラリと並び、店内の様子を詳細に伝えている。
因みに、常時録画しており、ズームアップも可能だ。
デ・ニーロ主演の『カジノ』なんて問題にならないくらいのモニター数である。

支配者階級は、真剣な表情でよくこの画面を眺めていた。
一人若しくは一集団の不正行為によって、時には数百万円の被害が出るであろうし、現金商売は人の流れによっては急激に売り上げが増減する。
彼らは冷や汗を流す思いでいつも仕事をしていただろう。


対して無産階級の我々は、常に熱い汗を流していた。

パチンコ屋の店員は、意外と仕事が多い。

そもそも原則として、一つの“島”を一人が管理することになっていた(島=両側にパチンコ台が並ぶコースのこと)。


そして、仕事内容としては、玉交換、プリペードカードの販売、満杯になったドル箱を台から下ろし空の箱を差し出す、台表の玉詰まりの解除、台裏の玉詰まりの解除、クレーム受付、両替、食事休憩のカード発行、席を確保したまま戻ってこないお客の呼び出し依頼、灰皿掃除、テーブル拭き、各種報告などなどだ。

これらは単品で見ると別段騒ぐまでもない。
他愛もないものばかりだ。
問題は、これらの仕事が、自分の管理している“島”の客約40人から「一斉に」発注されることだ。


この時、お客さんは、指示の発令に「呼び出しボタン」を用いる。
これを押せば、台の上部がピカピカ光り、店員が飛んでくるという仕組みだ。
店員が到着して対応する。
もう一度ボタンを押せばランプは消える。

少し説明する。
この「呼び出しボタン」は台の上部に付いている。
ボタンの少し上には、ご丁寧に「御用がございましたら何なりとお気軽にお呼び下さいませ」というプレートが付いている。

更にご丁寧なことには、何か御用があると、本当に何なりとお気軽にボタンを押して店員を呼ぶお客さんがいるということだ。


具体例を挙げると、こういうことである。

我々が、あるお客さんの指示により、満杯になったドル箱を三段重ねで運んでいる時がある(かなり重たい)。
別のお客さんは文字通り両手が塞がった我々に対し、(時には目の前で)容赦なく「呼び出しボタン」を押して「空箱持って来い」だの「こっちも玉交換頼む」だの「プリペードカード頂戴」だの「玉が詰まっているから直せ」だの「玉が出ないぞ」だの「飯食ってくるから食事中のカード出せ」だの「台を移動するからちょっとこのドル箱持って来い」だの実に様々な要求をしてくる。


そして、「呼び出しボタン」を押すと、お客さんの台の上部がピカピカ光ると同時に、島の両端上方に付いているランプもピカピカ光る。

このランプのお陰で、背後でランプが点けられてもすぐに分かる。
また、島の外にいる店員にも分かる。
ランプに気付かない時は、隣の店員が教えてくれることもある。


が、しかし、ここで重要なことは、島の両端上方でピカピカ光っているランプはまた、事務所のモニターにもバッチリ写っているということだ。

この呼び出しランプが常時点いているようだと、
あそこの島はお客様に対応できていない
   ↓
あそこの島はお客様を待たせている
   ↓
あそこの島を管理しているヤツは仕事ができないヤツだ、

という“ダメ店員の三段論法”によって、“無能”の烙印が支配者階級によって押される。

というか無線で怒声が飛ぶ。
「○コース!ランプが点きっぱなしじゃないかっ!!」と。


そこで、忙しくてたまらないときは隣の島の店員に無線で応援を依頼する。

「○○コース、ランプ対応、お願いします」というように。


しかし、無線というものは、当然だが、店員みんなが聞いている。
もちろん、リーダーもサブ・リーダーもみんな聞いている。

ために、無線で応援を頼むのも、度が過ぎると仕事ができないヤツだと思われる。

やはり、自力で対応しなければならない。


従って、店員としては点けられたランプを一秒でも早く消すように努力する。
いや、ランプを点けようと手を伸ばしたところに対応する。
いや、そもそもランプを点ける必要がないよう予め予測しつつ対処する。


もちろん、慣れない内は、完全にパニックになる。
まず、どこのランプが点いているのか分からない。
消しても消しても次々にランプが点く。
一つのことをしている間にもどんどんお客の要求が申し付けれる。


かかる事情により、初めのうちは、ベテランさんと二人で一つの島を管理することになる。
それでも、初めは無我夢中だ。


しかし、一人で任されるようになり、1ヶ月もすればだいぶ慣れてくる。
3ヶ月もすれば落ち着いて対処できる。
半年もすれば、どんなに忙しくても一人でお客さんの要求を迅速に満たすことが出来る。

次に何を言われるか大体予測できるので、対応も早い。
ランプも点いたハシから消していく。

そこの頃になると、「ワーキング・ハイ」だ。
いくら同時にランプを点けられても、瞬時に優先順位を付けてランプを消しつつお客様に対応できる。
完全に冷静で何が起こっているのか、誰が何を言っているのか完璧に把握している。


ランプが消えている状態が正常である。
ランプが点いたままだと落ち着かない。
何でランプが点いてるんだ!?
ランプを消すべし!


かような職場で阿修羅の如くランプ抗争を繰り広げていると、次第に身体がパブロフ化してくる。

何でランプが点いているんだ!?
ランプを消すべし!


それはベトナム帰りの米兵のように未だに私の体に染み付いている。

私は外出中、就中、運転中、急に尿意をもよおすと、しばしばパチンコ屋さんのトイレに駆け込む。
そこで、ランプが点いているのを見ると落ち着かない。
イライラしてくる。


何でランプが点いてるんだ!?
ランプを消すべし!


そして、10秒以上経っても店員が来ないときは、私がそこのお客さんに、空のドル箱を差し出し、満杯になったドル箱を台から下ろす。


意外と律儀な私は「小便だけ垂れ流すのも悪いから、せめてものお礼です」という道義的な理由と、加えて、居ても立ってもいられなくなるという本能的な理由によって、かかる行動に出る。

いきなり私人の私から空のドル箱を差し出されたお客さんは、とりあえず驚嘆の表情で私を見る。
そして、はにかみながら「あ、ありがとう」と言う。
「あ、いえ」と私は微笑み返す。


そのうち、押っ取り刀でそこの店員が現れるが、用件を済ませた私を見て“何なんだ、お前は!?”という顔をしながら「どうもスミマセン」という。

私も負けじと“貴様こそ何やってんだ!?”という顔をしながら、「どういたしまして」と言う。

そして“一層励め”という偉そうな表情をしながら、店を後にする。


ランプを巡る抗争は今でも続いているのだろう。
お客様としては、誰でもいいから、早く自分の要求を満たして欲しいと思っている。

ここに意思の齟齬があるが、店員は対応待ちのお客様がいることはちゃんと分かっている、そして、その島を任された以上、なるべく自分で対応したいと思っている(もちろん、場合によっては無線で応援を依頼する)。
自分の島が忙しいということは、両隣の島も忙しいのだから。


そして、勝手な言い分だが、あるお客様の対応をしている時、別なランプが点くと「分かっている、ちゃんと気付いている。すぐに行くから、とりあえずもう一度スイッチを押してランプを消してくれぇぇ」と心底思う。
というか、目が合っているので、目でランプを消すよう訴えかけている。

この認識は顧客満足の観点からは間違っているのだろう。
店員が一つのチームとなって臨機応変に対応すべきだと思う。
ここで問題としているのは、その「機」ではない場合だ。


常連さんほど、ボタンを押さなかった。
彼らは、こちらの事情を察していてくれた。
彼らは、アイコンタクトか、ジェスチャーで指示を発し、「ランプを消す」という我々の仕事を一つ軽減させてくれた。


もっとも、プロならどんなにランプが付いても瞬く間に対応し、ランプを消すので、問題はない。
したがって、お客様の立場としては、ボタンを押すのにためらいはいらない。
いくら待っても来ない時などは、バンバンボタンを押すべきだ。


しかし、私は店員さんの事情・気持ちも分かるので、仮にお客の立場になったとしてもボタンを押さない。

さらに、類推するに、同様の理由から、ファミレスなどの飲食店でも「呼び出しボタン」は滅多に押さない。
何か、悪いので・・・。
そばを通った時に声を掛けるようにしている。

さりとて、暇そうな割りに対応が遅い時や、気付いているのに気付いていないフリをされたときなどは、ためらいなく押す。


たかが、ランプ(お客様視点)
されど、ランプ(従業員視点)



CRF吉田拓郎の夏休みがいっぱいSF-T(裏玉循環加工セット) 上の呼び出しボタンを押せば、私が消しに参ります。消したら帰ります。



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最終更新日  2005年12月19日 12時26分20秒
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