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テーマ:水泳(1789)
カテゴリ:楽しい生活
真冬のこの時期、突然思い出した水泳大会。
あれは中学1年の水泳大会であった。 中学校では、クラス対抗の“クラスマッチ”なるものがあったが、その競技の一つとして、夏には水泳のクラスマッチがあった。 ただ、スケジュールの都合かどうかは不明であるが、1年次にはなぜか夏休み明け後の9月に開催された。 9月といえば、体育の水泳は終わっている時期だ。 学校側が、わざわざクラスマッチのためだけに、新しい水を入れるのは勿体無いと判断したのか、プールの水は恐ろしく濁っていた。 それはあたかも“バスクリーン”を入れたかのような「緑色」であった。 この場合、水の濁りを誤魔化すため、本当に“バスクリーン”を入れた可能性も否定できない。 ともかく、このような劣悪な環境の下、水泳のクラスマッチは開催された。 ところで、私は水泳が得意だった。 小学生の頃、水泳教室に通っており、一通りの基礎を教わった。 ゆえに、「一応泳げます」という標準的な中学生よりも速く、かつ、長く泳げた。 そんな私が選んだ種目は「50m自由形」だ。 やはり「誰が一番速いか」明確に分かるので、理屈抜きの説得力がある。 また、25mでは短すぎるし、100mでは長いし、50mで終わりという潔さも選んだ理由だった。 我が中学校は25mプールを擁していたので、50m泳ぐには一度ターンする必要がある。 前半遅れていても、後半で追い抜ける可能性がある。 また、ぶっちぎりで1着をとる可能性もある。 水泳のクラスマッチは各種目が滞りなく行なわれ、私の番が回ってきた。 クラスマッチでは急速にクラスの結束力が高まる。 クラスのみんなが応援してくれる。 たまに、クラスの男子よりも他のクラスのカッコイイ男子を応援するという不届きな女子もいたが、幸い私は女子にも人気があった。 そして、スタート台へ登る。 ドキドキ緊張する一瞬。 「位置について。よーい。パーン!」 一斉に飛び込む。ザブーン! ワー!ワー!キャー!キャー! 軽快に腕を回転させ、バタ足をし、リズミカルに息継ぎを行なう。 前半は私が優勢だ。 両隣のレーンとは、半馬身差がついている。 このまま優位を保って、後半でも1位をキープだ。 そして、1着でゴールするぞ! そう思っていた。 やがて、25mの壁が近づいてきた。 そこで、かねてより私はこう決めていた。 “クイックターン”をしようと。 つい半年前まで、小学生であった中学1年生で、クイックターンができる手合いは少ない。 ならば、見た目が派手である、結構格好いい、そして何か凄そうな印象を与えるクイックターンを決めれば、“ただの1着”が“凄い1着”になるではないか。 ※クイックターンとは、壁の直前でクルリと一回転し、壁を蹴った反動で折り返すという技です。 そして、壁の直前でクルッと一回転し、思いっきり壁を蹴った。 “決まった・・・”と自分に酔いしれようとした瞬間、私には悲劇が起こったと、はっきり分かった。 原因は恐ろしく濁った緑色の水だった。 つまり、私が壁だと判断して思いっきり蹴った先に、壁はなかったのである。 私は壁の少し手前でクイックターンをしてしまったのだ。 どういうことになったか、ご想像いただけるだろうか。 水中で一回転し、壁でないところを思いっきり蹴る。 つまり、身体が思いっきり“ピーーーーーーン”と真っ直ぐに伸びた。 手の指先から、足の指先までが完全に一直線になった。 それ以上でも、それ以下でもなかった。 壁を蹴る反動を利用して、勢いよく折り返すというクイックターンの思想は、そこには、ない。 ただ身体が伸びただけ。 (友人の目撃証言によるとあと50cmだったそうだ) 半分水につかった私の耳にもクラスの爆笑する声がハッキリ聞こえた。 伸びた身体のまま、転校手続きはどうしたらいいのだろうか、若しくは、しばらく外国に留学できるところはないだろうか、思案した。 しかし、まずいことには、今、50m自由形の競技の真っ最中であるということだ。 いつまでも伸びたままプカプカ浮いていられない。 仕方ないので、今、自分がなすべきことを考えた。 問題は、25mの壁にタッチしていないのに、身体だけが方向転換してしまっているという事実だ。 その軌道修正からはじめる。 とりあえず、立ち上がって、壁までザブーンと移動した。 そこから、普通に「ぺタッ」とタッチターンして再び泳いだ。 クイックターン失敗でクラスの笑いを誘った私に、もはや順位などどうでもよかった。 もう、私の後ろに人はいないのだから。 その後、クラスの女子からの人気は失墜し、私の地位は凋落した。 ただ、不幸中の幸いであるが、選んだ競技がリレーでなくて、よかった。 この人よりも伸びていたことは間違いない。 私の肘はこの人のそれよりも確実に真っ直ぐだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年12月20日 10時50分15秒
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