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カテゴリ:読書・小説 雑誌
二章
一年後の出会い 平成十三年の秋、源次郎は、知人の村瀬に会うため、列車で宇都宮へ向かった。駅に着いた源次郎は、川沿いの道を、村瀬宅に向かって歩いた。途中に小さな公園があり、ブランコや、滑り台が設置してあった。砂場では、小さな子供が遊んでいた。秋風も肌寒く感じるというに、子供は元気だなぁと、源次郎は呟いた。しばらくして、村瀬宅に着いた。 出迎えてくれたのは、村瀬の妻だった。村瀬は、作業小屋で何か作っていた。源次郎は、ソファーに座って村瀬が来るのを待っていた作業を終えて「笹山さん、良く来てくれましたね。ありがとうございます」と言いながらソファーに腰を下ろした。村瀬は笹山コーポレーションの元社員である。建設現場で事故があり、作業員を死なせてしまったのである。 その責任を取って、会社を辞めたのだった。村瀬の家で一日過ごした源次郎は、夕暮れの駅に向かって歩いていた。源次郎が公園脇の細い道を歩いていると、公園の中にあるベンチに一人の若い女性が悲しそうな顔をして、ベンチに座っていた。 源次郎は、女性の様子が気になっていた。 年齢は二十代後半から三十代半ばくらいで、髪は短く細身で小柄な女性である。 源次郎は一年前に、不慮の事故で若くしてこの世を去った娘と、ベンチに座っている女性が、源次郎の目に重なって見えていた。 源次郎は、女性が座っているベンチに歩み寄り「お嬢さん、横に座ってもいいですかな」と言った。女性は、小さくうなずきながら、小さな声で「はい」と言った。 源次郎は腰を下ろしながら、「歳を取ると、長道を歩くのが辛いですなぁ、歳は取りたくないですね・・・」と言いながら、ベンチに座った。しかし源次郎が話しかけても、女性は下を向いたままで、何も話そうとしない。源次郎は女性が持っている一枚の写真を見た源次郎は写真を見て驚いた。女性が持っている写真に、息子裕一が写っていたからである。 なぜ、この女性が裕一の写真を持っているだろうと思った。源次郎は女性が持っている写真の事が気になっていた。 「お嬢さん、良かったら、少し話をしてもいいですかな」と言った。女性は写真を見ていた。「お嬢さん、何を悩んでおいでかな、良かったら、この年寄りに話してくれませんか。 美しいお嬢さんに、悲しい顔は似合わないですぞ」と言った。すると女性は源次郎が言った言葉に「この写真の男性は、私の大事な人なのです。将来、結婚の約束もしています。彼の事を、父に話そうと思っているのですが父は頑固な人で、反対されたらと、思うと悲しくなって・・・」と言った。 源次郎が「私にも、息子と娘が居ました。息子に好きな女性がいると聞かされれば、その場で反対するかも知れませんね」と言った。 女性は「お嬢さんは、ご結婚されているのですか?」と言った。源次郎はベンチから立ち上がり「娘は一年前に亡くなりました。不慮の事故でね。親として何もしてやれなかったと、悔やむばかりで・・・」と話した。源次郎の話を聞いて女性は「ごめんなさい、知らなかったとは言え、悲しい事を思い出させてしまって、許してください」と言った女性の目に光るものがあった。 源次郎と女性はベンチに座り「お嬢さんを見た時、娘の姿と重なって見えたのですよ、気にしないで下され」と言った。女性は源次郎の冷たくなっている手を握り「本当に御免なさい。許してください・・・」と何度も頭を下げていた。源次郎は、この女性の素直で優しく、礼儀正しい姿を見て、この女性と裕一が交際するのであれば、許しても良いと思ったのである。源次郎は駅に行く事も忘れていた。しばらくして源次郎は、ベンチ立ちから上がり、駅に向かって歩き始めた。源次郎は裕一に携帯電話で、町のレストランまで迎えに来る様にと、連絡をしたのだった。源次郎は持っていた小さなバックをベンチに置き忘れている事も知らずに駅へと歩いていた。 しばらくして、バックを持っていない事に気付いた源次郎は、引き返そうと振り向いた。 すると女性が息も荒く駆け寄って「バックをベンチに忘れていましたよ、手から離しては駄目ですよ・・・」と言った。この時源次郎は、自分の娘に言われている様な気がしていた。「有難う、バックを持っていた事を、すっかり忘れていました。助かりました、有難う」と女性に頭を下げた。 「先ほどは、失礼な事を聞いて御免なさい、気を悪くしないでくださいね」と優しく言った。源次郎は空を見上げて、「お嬢さん、空を見てごらんなさい、星が輝いてとっても綺麗ですぞ」と言った。源次郎の言葉に女性も空を見上げ「きらきらと輝いて綺麗ですね」と言った。源次郎は女性に「お嬢さん、笑顔がとても素敵ですよ、その笑顔を忘れなで」と言いながら、星空を見つめていた。 源次郎が「まだ、私の事を話していなかったね。私は、笹山源次郎と言います」笹山源次郎は、篠山コーポレーションと言う建設会社を一代で築き上げた人物で、息子の裕一を後継者として、前線から離れている。しかし、笹山源次郎の人柄は、財界・大手銀行。ゼネコン企業にまで知られている人物である。 「お嬢さんは」と言った。「私は、朝倉真奈美と言います。真奈美と呼んでください」と言ったが、笹山源次郎と聞いて、もしかして裕一さんのお父様ではと思ったのである。 真奈美は、朝倉伸一郎の一人娘で、伸一郎は笹山コーポレーションのライバル会社でもある。アジア建設の企画部長としてアジア建設には欠かせない存在の人物である。 真奈美も大手企業の事務職に勤めている。 源次郎は「真奈美さんとおっしゃいますか。これも何かの縁、この年寄りに少し付き合ってくださらんかの」と真奈美に言った。 真奈美も源次郎の事を、優しくて礼儀正しいとても感じの良い人と思っていたのである。 源次郎は、真奈美がバックを届けてくれたお礼もかねて、食事に誘ったのだった。しかし真奈美は迷っていた。真奈美の様子を見ていた源次郎は「真奈美さん、私の様な年寄りと食事をするより、写真の人と食事がしたいでしょう」と言った。 この時、裕一がレストランで待っている事など、真奈美は思っていなかったのである。 「いいえ、そんな事は・・・」と源次郎に言った。「じゃあ行きましょう。歳を取ってもお腹は空きますからね。真奈美さんも夕食はまだでしょう?さぁ行きましょう」となかば 強引に真奈美を誘ったのだった。 そして二人は、レストランに向かって歩き始めたのだった。レストランの駐車場の前まで 真奈美は立ち止まった。そして一台の車を指差して、「あの車は、裕一さんが乗っている車と同じ車です」と言ったが、周りも暗くてナンバーまでは確認する事は出来なかったのである。源次郎が「他の人が乗っている車でしょう。似た車は幾らでもいますからね」と真奈美に言った。そして二人は、レストランの中へと入った。真奈美は裕一の姿を見て、「裕一さん?裕一さんがなぜここにいるの?どうして?」と源次郎を見ながら言った。 裕一が「お父さん、迎えに来たよ。実は父から電話で、レストランまで迎えに来るようにと言われて、迎えに来ました。だが、真奈美さんと父が一緒にいるとは思いませんでした父からの二度目の電話で、私の写真を持っている女性がいる、どうしてかと聞かれましたその時、真奈美さんと分かりました。私の写真を持っている女性は、真奈美さんだけす」と裕一が真奈美に言った。 三人は椅子に座り、オーダーした後、食事を始めたのだった。 裕一が「お父さんの友人が、この町にいたなんて、知らなかったよ。お父さんの友人のおかげで、こうして三人で食事をする事が出来て良かった」と言った。源次郎は真奈美を見て「真奈美さん、気分でも悪いのかな、それとも気になる事でも」と言った。真奈美は源次郎と裕一に「はい、散歩にいくと言って出かけたものですから、帰りが遅いので、両親が心配しているのではと思いまして」と二人に言った。 源次郎が「心配しなくても大丈夫ですよ。裕一からご自宅へ電話させましたから」と言って「裕一、真奈美さんのご両親に連絡をしたのか」裕一は「はい、お父さん、ご両親には連絡しておきました。だから心配しないでいいですよ、真奈美さん」と言った真奈美は裕一の言葉に安心したのか、食事を始めたのだった。源次郎は、真奈美が裕一を見た時の目が輝いていた事に。裕一の事を心から好なのだと思った。そして二人は、交際してどの位経つのか聞く事にした。 「裕一、真奈美さんとお付き合いして、どの位になる」と聞いた。「もう、一年になります」と裕一が答えた。 源次郎は「真奈美さん、裕一は、ご両親とお会いしましたか」と聞いた。裕一は真奈美の両親とまだ会っていなかったが、真奈美の家によく電話をしていた。真奈美の母親とは何度も電話で話をしていた。裕一が源次郎に言った。「お父さん、真奈美さんのご両親とは会っていません。真奈美さんのお母さんとは電話でよく話をしています」源次郎は裕一と真奈美の両親が会う事を望んでいた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年06月13日 06時36分25秒
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