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山口小夜の不思議遊戯

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2008年06月09日
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               地図上で見る箱根用水の今昔
                  ■第三章 大友右京

 この度の日記の話題は、フリーページの方で既視感のある方もいらっしゃるかと思いますが、『箱根』の本文の日記に載せないのもどうかと思いますので、今回はどうぞお付き合いくださいませ。

 【箱根用水にまつわる不可解な話─その1─】
 
 怖いというか、不可解な体験──このお話、皆さまはどう思われますか?
 小夜子が思うに、山は魔界です。絶対にあなどってはならない領域です。

 さて、このお話は私が中三の時、実際に体験したものです。
 私の通っていた学校は中高一貫教育で、中学から高校に上がる折りは無試験のエスカレーター校でしたが、その条件として中学三年の半年をかけて研究した“卒業論文”の提出が義務付けられていました。

 私はこの論文のテーマに“深良用水”(箱根用水)を迷わず選択しました。
 夏休みを利用して旧家に古文書を見せていただきに上がったりなど、集中的に研究するうち次第にのめり込み、私は深良用水の随道の中に入ってみたいと切望するようになりました。(私は鞍馬天狗の祖父の非常に偏った教育により、幼少の頃から江戸時代のいかがわしい内容のかわら版を読み下せるように指導されていたので、その時代の古文書くらいはらくらく読めるのです)。

 ただし、深良用水は日本三大権現のひとつである、箱根権現の真下を貫通しています。
 権現様とは、つまり女性の大神です。開削の江戸当時も、箱根権現は女人禁制の総本山で、この権現様の御神体を掘り抜くとは何事、と大きなタブーを犯しての大工事でした。主導者であった友野与右衛門が通水成功の後に咎なく切腹を命ぜられ、ひとり息子の与一が手足の指を切られて長崎に流されたのも、そのたたりが遠因だったとも伝えられています。

 箱根用水は、開削工事の時も女性は絶対に入ることを許されませんでした。
 人夫への水、炊き出しなどは必ず入り口で行なわれ、女性が隧道内に入ることはなかったのです。
 このことは、古文書の記述からみても明らかでしたが、私は自分の中の情熱を抑えることができませんでした。
 当時、農林水産省の官僚だった父にも力添えをしてもらい、箱根権現の別当職の方(←快長ではない)、現在でも現役で使用されている深良用水の水配人さんたちに懇願し、歴史上あり得なかった頼みごとに難色を示す人々を説得しましたがもちろん了承は得られず…。
 けれども中学三年生で古文書を読みこなす私に何か思うところがあったのか、最終的にチャンスはただ一度だけ、女性らしい格好をしないこと、立ち止まらず、一時間以内に隧道を通り抜けるだけならばよい、という条件で貴重な貴重なお許しをいただきました。

 私は当日に向けて長かった髪をばっさりと切り、魚屋さんが着るような胸まであるゴムの長靴をはき、ヘルメットにライトを着用して随道調査に臨みました。
 同行していただくのは、水配人の8名の方と地元の農政局の方、そして父です。

 随道の中は真っ暗で湧き水がしたたり、コウモリが無数に飛びまわっています。三百年以上も前のノミとツチの痕もくっきりと、まるで昨日掘削したかのように懐中電灯に浮かび上がってきます。けれども、調査への熱意に燃えた私は、薄気味悪いなどとはつゆほども感じませんでした。

 深良用水の掘り抜き工事についてはいまだ謎が多く、なぜ両側から掘っていって、わずか1mの落差でぴたりと貫通させることができたのか、なぜ発破の技術もないのに、富士山の溶岩流を含んだ硬い岩盤を、たった三年で掘り抜くことができたのか、実は今日でも解明されていないことが多いのです。
 キリシタンバテレンの法を使った、修験者の呪法を使ったなどと幕府から言いがかりをつけられて、友野座が全財産を召し取られた上、厳罰に遭うに至った所以とも言われています。

 とはいえ、今私が目にしているのは、開削以来、女性では誰も目にしたことのない光景です。なんといっても、この隧道を通るのは、女性では私が隧道の歴史あって以来、初めての者なのですから。
 許された一時間はこれ以上ないほどに有意義に過ぎ、私たちは何事もなく通り抜けを完了しました。

 さて、興奮も冷めやらないまま、私たちは帰り支度を整えて、いったん場所を移して調査の首尾を話し合うことにしました。
 この時、私はゴム長靴の下に普通のズボンとTシャツを着ていたため、何事もなく胸まであるゴム長靴を一気に引き下ろしました。すると、その途端、その場にある視線という視線が全部私に集中したのです。誰もが声を失って、私を凝視しています。

 私は彼らの視線の先をたどって、自分の胸元を見下ろしました。
 そして気づいたのです──足から胸まで…細い指を持つ、真っ赤な血のついた女の手形がべったりと無数に付けられているのを。

 忌憚なく言ってしまうならば、血はただの血液ではなく、女性特有のものでした。
 しかしこの時、私は自分とはまったく周期の違う時期であり、しかもなぜ、たった一時間の間に半身にべったりとつけられるほどの血が流され、そのつき方も重力にまったく逆らって胸の方まで染み付いたのか──今考えても答えが見い出せません。
 とにかく胸まで隠せるゴム長靴を履きなおし、私はライトバンに乗せてもらってひとまずは地元の大型スーパーに行き、着替えを買うことにしました。

 私は中学三年生、十四歳でした。この時の私の恐怖、満場の男性の目を前にした羞恥を、女性の皆さまならばわかっていただけると思います。

 この現象を目の当たりにした水配人さんは、今では決して頼み込まれても髪を捧げられても、絶対に隧道に女性を入れることはないそうです。江戸時代よりこれからも、おそらくは私が最初で最後の深良随道に入った女です。そして、その懲罰を山の神からその場でいただいた女です。

 山は魔界です。
 山をあなどってはいけません。山の神は怒り、祟るのです。

 ───

 かような内容の更新をしてから、しばらく経って、私書箱の方に一通のメールをいただきました。
 「山の神様は小夜子さんに祟ったのではなく、同じようなインパクトをもって、小夜子さんへの賭けにでたのです」
 この方は、なんと、深良村の名主さまを先祖に持つ方でした。
 もちろん、姓も同じでいらっしゃいます。

 「小夜子さん。権現様は、女人禁制の禁を犯して隧道を抜けた少女に祟ったのではありません。それは禁忌への警告だったのではなく、少女に箱根用水の越し方の物語を知ってほしい、箱根用水のために流された血に思いを致してほしいとの、強い啓示だったのではないでしょうか」
 このメッセージを受け取ったとき、私はあたかも権現様その人からメッセージをいただいたかのように感激し、ほとんど泣かんばかりにして拝読しました。
 以来、箱根権現とは何か──いかなる意味をもって顕現し、人々に何を望むのか。そのことばかり、考えています。

 実は、来たる6月20日(金)、この方にお会いできることになりました。
 権現様より打診をいただき、夢を見る心地がしています。


 それでは、本日の更新、お楽しみください。
 ■第三章 大友右京
 タイトルに自分でも疑問あり。この老人、隠れ切支丹を自称してはいないのですが──

 
 ◆応援ありがとうございます!
 ご期待ください。
 次回更新は、6月23日(月)●深良村●です。
 名主さまのご子孫の方に語っていただいた模様を、皆さまにご報告できればと思います。







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最終更新日  2008年06月10日 13時02分34秒
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