TREASURE HUNTERS 第9節●金井戸文書●
しかし──この日の小夜の受難は、まだまだ終わっていなかった。 曾祖父母に縁戚、四人の醍古衆が集まった、一族全員での夕餉のときだ。晩酌の杯を手に、曽祖父の秀美が口を切る。 「あー。ところで、皆に知らせることがある。我が家に伝わる『金井戸文書』を鑑定したいという申し込みが、さる国立大の教授からあった」 「おお・・・・・っ!」 居並ぶ醍古衆がどよめいた。 「国立大の教授ならば身元が知れているし、鑑定にも信憑性がある。昨年、不二兄弟なる得体の知れない若者たちにあおられて発掘にいそしみ、結局なにも出てこないまま逃げられたときには、皆も屈辱を感じたとは思うが」 「左様でございますな。あれは不二兄弟などという悪党どもにつけ込まれた、郷末代までの恥でございます」 年長の醍古衆のひとりが、百年は前の口調で言った。 (・・・・・・っ・・・・・・) ひそかに小夜は息を呑む。 不二の名を、彼らがリアルに思い出してしまうのはまずい。醍古衆たちが、ギラリと目を光らせた。 「不二兄弟・・・・・・!」 「あいつらか・・・・・・特に兄貴分のほうは、稀代のサギ師といった風情だった。村中の若妻の尻を追いかけ回す。だが弟も弟だった。うちの娘たちまでが、ヤツのファンクラブを結成するとかで、あのあと家出騒ぎを起こした」 作務衣から、鎌を取り出す者もいた。 「今は小夜さんも滞在の折だけに、注意を怠るわけにはゆかん。今度来たら、腕の一本は切り落としてやらねば」 秀美がうなずく。 「もうひとつ。麓に停めてある車だが、陸運局に問い合わせたところ、持ち主はタナカという名らしいが」 豊が手を上げた。 「はいはい。おれがタナカですッ」 「それならばいい。あやうくレッカーされるところだった。県外のナンバーは自殺者と間違われてレスキューに捜されることもあるんだ」 「はーい。気をつけまーす」 図太く、豊はうそぶいた。 タイトロープな団欒を終えて離れの自室に戻ると、小夜はガマンの限界を超えた顔色でその場にへたり込んだ。 「綾一郎に車借りててラッキー♪ 斬りつけられちゃ、たまんなかった」 ノーテンキに笑う豊だが、 「でも、ちょっとだけ・・・・小夜が疲れる気持ち、おれにもわかる。寄ってたかって大事にされてるの、うらやましいと思う人もおるやろうけど」 それまでと数パーセント増し、神妙な面持ちで言い添えた。 「わかったら、あたしがもっと疲れる立場にならないように、おとなしくしてて欲しいよ」 二組の布団を整え、ぐったりともぐり込む小夜に、 「それでも小夜は今、自由だから、ええやん」 豊がつぶやいた。 「・・・・・・え?」 見張られた小夜の瞳。 「兄の和(のどか:兄弟たちに押しつけられて不二屋敷を継いでいる)なんて、あの親戚筋から実権もぎ取るの、あと二十年はかかりそうだっちゃ。二十年後でも、和は元気やろけどさ。なんか・・・・もったいない。一族で駆け落ちなら、いつでも手引きしてやるのにな」 「そういうことはここだけの話にして・・・・・相生村の人には余計なこと言っちゃだめだよ」 小夜を見つめてくる豊の瞳が、深い水底の湧き水に似て、かすかにさざめき立った。 「よく考えてみたら、今の天皇家は北朝の家系なんやろ。でも、歴史的に言えば、後醍醐天皇の南朝が正統や。もし後醍醐天皇の末裔が楠木正成の子孫に守られてほんにでこの土地に隠れ棲んだのやったら、時代が時代なら、小夜とわしは対立の構図、ってのもアリなんやなって。この山のどこかに、三種の神器なんか隠されてたりしたら・・・・」 またこれだ。昔からそうだが、豊はわずかな情報をもとに、物事を自分の都合のいいように、自分が面白いと思う方向にスラスラこじつけるヤツなのだった。 そんなタイプでなければ、世の中、トレジャーハンターだとかユー・エフ・オー研究家はつとまりはしない。 「世が世なら・・・・って言うのなら、世が世なら兄さみたいな御人はとうに皇族から除籍か排籍処分になってたと思うよ。それに歴史に‘もしも’はないって、いつも言ってるでしょ」 「そうだけど、なんで自分の家系のことは誰にも・・・・おれにも言わんの」 「それが余計なことだって言ってんの。特に聞かれないかぎり、自分からわざわざ言ってまわることじゃないでしょ」 ほんのりと血の気がさした小夜の耳元で、豊は声のトーンを落す。 「ところでさ、『金井戸文書』って何?」 それを聞いた途端、また小夜のテンションが冷える。つっけんどんに言い返す。 「聞くと思った。絶っっ対に教えてやらない」 「ええっ? えーだが、けち」 「聞いたでしょ。大学のエライ先生が見たがる、ただの物置の肥やしだよ。兄さは兄さのやり方で、お宝探すんじゃなかったの!」 つんとくちびるをとがらかし、毛布にくるまって背を向ける小夜。 その様子をしばらく眺めやっていた豊は、やがて我が意を得たかのごとくうすくほほ笑んだ。 (では、遠慮なくぼくのやり方で──) すっと左の薬指を差し、小夜の枕に流れる黒髪の上に滑らせる。 そして気取られないよう──なにごとかを書き取った。 しばらくして、髪の一筋から、かの懐かしくも不可思議な文字が立ちのぼってきた。 Θфлзб Э¬∂∠ι∝ ζλησδ いざ語れ、石たちよ、われに──。 本日の日記----------------------------------------------------- 我が家の宝探しといえば、こんなことがありましたよ。 (以下、絵本風に) 小学校時代のある年の運動会の日──。 待ちに待った楽しいお昼の時間、 お弁当箱のフタを開けてみて、小夜はびっくりしてしまいます。 だって、なかには真っ白いごはんだけが敷き詰められていたのですから。 けれども、ごはんの上には海苔でこう書いてあるのを、 小夜はすぐに見つけました。 「たからさがし」 なんのこと??? 小夜がいぶかしげにおはしをつけてみると── 白いごはんの下から、でるわでるわ。 から揚げ、ポテトサラダ、ハンバーグ、スパゲティ、うずらの卵・・・・・ おかずがたーんとうずまっていたのでした。 めでたしめでたし。 明日は●ぼくと寝てください●です。 なんとま。そのまんまのタイトルですな! 『鳥取物語』始まって以来の描写に挑戦致します。 きゃーっ!!! ◆お読みいただけたら人気blogランキングへ 1日1クリック有効となります。ありがとうございます。励みになります! 追:ううう~(泣)。 舞夜じょんぬさま、本日は本当に本っ当にありがとうございました。 PC、ぜんぜんダメなのです。 じょんぬさま、いつも小夜子が泣いているときに、 神さまのように降臨していただいて。 このご恩、どのようにお返しすれば天に報いることができるのでしょう。 これも昨日いただいた「カネフクキタル」の恩恵なのでしょうか。