『だまされ屋さん』星野智幸
他人から親切にされたら、詐欺かな?と思ってしまう。人間関係が希薄になっていて相談する人が誰もいなければ、騙されていると思っていても家に招き入れてしまうかもしれない。この物語は登場人物がそれぞれ個性的で、同じ環境で育ったはずの親子兄弟でさえも、違う問題を抱えてすれ違っていく。長男の妻は在日韓国人で、妻の気持ちを理解するために相手の立場になりきってしまう。次男はゲーム依存症で、借金までしてしまう。それを知らずに結婚した次男の妻は「騙された」と思い込み、姑に対し「夫の製造責任者として責任を取ってください」と言う。長女は両親と離れたくてアメリカへ留学し、プエルトリコ系アメリカ人との子供を未婚で出産する。それにしても、一つの家族にこれだけ多彩な設定をしたものだな、と感心した。そこに、絶縁状態になった家族を元に戻そうとするおせっかいな人が登場する。その人を詐欺師かもしれないと思いながら待っているのが兄弟の母だ。そこには、現代人が抱えている、すぐには解決できないような問題が凝縮されていて、頭の中はごちゃごちゃ。でも最後には、閉塞的な社会に少しでも光が差すような気がした。だまされ屋さん (単行本) [ 星野 智幸 ]