『夏物語』川上未映子
命に対峙する川上未映子の表現からすさまじいエネルギーを感じる。物語の前半は、「大阪の姉が豊胸手術のために、娘を連れて東京の妹 夏子のアパートに泊まりに来る」あれ、なんか読んだことあるな、と思ったら、『乳と卵』と同じ内容だ。一転して後半は、その10年後の話。「夏子は自分の子供に会いたいと願い、精子提供を受けて、出産することを考える」物語を貫くのは、生命の誕生について、生殖医療について、真摯に多方面に切り抜いていく、あふれるエネルギー。そもそも、日本では父親のいない子が法律上認められている。父が空欄でも、出生届は提出できるし、「未婚の母」の戸籍は公然と存在する。世界では「事実主義」の国があり、「父がいない子供はありえない」ということで、出生届に必ず父の名前を記載させるそうだ。日本の民法では「婚姻中の女性が出産した場合、その配偶者が父と推定される」ので、戸籍上の父が子供に対する責任を負う。たとえ、精子提供で産まれた子であっても関係ない。法律上の父がいないより、血のつながりがなくても法律が保証する父がいるだけでもよいではないか、と思う。一方で「未婚の母」「父のいない子」が法律で認められている日本はやはり男性優位の社会なんだ、とも思う。夏物語 [ 川上 未映子 ]