今日は弟の誕生日
今日で弟も十九だぜ。早いもんだわ。時がたつのも。
僕は、緊張が邪魔をして話したくても人と話ができないんだが、
弟はまるで話す気がない。
「憲作(弟の名前)、学校はどうだった?楽しかった?」
答えは三通りだ。
「ふつう」
「まあまあ」
「わからん」
どんな質問の答えでも、この3通り以外彼から聞いたことがない。
語り合った記憶などない。
この男が生まれたときの記憶が今でもあるんだ。ガラス張りの向こうに寝ている赤ちゃん。従兄弟と一緒に見つめていた。弟が出来てそれはそれはうれしかったな。
小さいときから、
一緒にニワトリを追っかけ回したり、
木上りをしたり、
一緒にドラゴンボールのフィギュアを集めたり、けんかしたり。
楽しかった日々。
でも、やっぱりこの男何も語ろうとはしなかった。
今から三年前。浪人時代を終えて、地元鳥取をあとに東京へと旅立つ僕に、その日いちにち弟は相変わらず何も言わなかった。最後の食事は鍋。そして食事後に家族全員で、駅までドライブすることになった。
車の中で、弟はふいに呟いた。
「さみしいな。」
ポケットからドラゴンボールのフィギュアを取り出して僕に渡した。いつも弟が大切にしていたフィギュアだった。
「あげる」
窓の外を見る弟。
弟の窓の外には、楽しかった思い出が広がってたのかな。
今でもフィギュアは自宅に飾ってある。
遠い鳥取の片田舎で、あの男は今何をしてるんだろうか。