大前研一「東欧チャンス」
しばらく前に「チャイナインパクト」を書いた著書が今度は中・東欧をレポートするとは全く商売上手である。序章で中国一辺倒の危険性を説き、第1章で中・東欧を概観する。第2章でハンガリー、第3章でチェコ、第4章でポーランドの実情を視察を踏まえて紹介し、第5章でトルコ・ウクライナを含めて将来を展望する。読了して感じたこと:1.中・東欧は必ずしも中国の代替にはならない。地理的な面もあるがブルーカラーの労賃は中国のほうが安いからだ。むしろ優秀なホワイトカラーが比較的低賃金で雇えるところがメリットのようだ。ポーランドのように失業率が高いということは進出しようとする企業にはメリットである。また、EU域外からEU内に完成品を持ち込むと高額な関税がかかる(例えばテレビでは14%)が、EU内で生産すればそのようなことはない。EU市場に販路を拡大した意メーカーにとって中・東欧進出は重要であろう。2.旧ソ連圏のコメコン体制が崩壊した後、東欧各国はEU加盟をテコにして必死で経済発展に努力している。民営化も日本より進んでいる部分もある。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の拠点としても重要視されている。3.矢崎総業・トヨタ・サンヨーをはじめ日本企業がすでに果敢に中・東欧で現地生産している。トヨタが、チェコに進出するに当たってプジョー・シトロエンと合弁会社を作ったのは深謀遠慮を感じた。4.オーストリア・ハンガリー帝国の名残で、ハンガリー国外にもハンガリー語を話す人が多いことは興味深かった。共産主義になる前のハンガリーは先進国だったという認識も新たにした。5.米国の移民が故郷に投資をするというパターンも興味深い。ポーランド系アメリカ人はポーランドに投資するのだ。6.ポーランドは過去の因縁から隣のドイツよりフランスと親しい。どこでも隣国との関係はなかなか難しい面があると思った。