ふ～みんの愚痴ログ

房総半島のほぼ中央に位置する千葉県君津市。東京湾に面した市の北西部には、
日本が世界に誇る製鉄所の一つ「新日本製鐵（せいてつ）君津製鐵所」がある
重工業地帯となっています。一方、市の内陸部東側は清澄山（きよすみやま）
の山系に連なる山々が峰を競い、小櫃川（おびつがわ）の流れを生み出す自然
豊かな丘陵地帯が広がっています。今回ご紹介する「生きた水・久留里（くる
り）」は、その丘陵地帯、小櫃川の中流に広がる城下町「久留里」に湧く名水
です。

室町時代に山城が築かれ、戦国～江戸時代には上総（かずさ）統治の拠点とな
り、久留里は城下町として栄えました。日本有数の多雨地帯でもある清澄山系
に降った雨は、地下水となって関東ローム層の地層に磨かれ、久留里一帯の井
戸から自噴しています。その昔、久留里城は別名「雨城（うじょう）」「霧降
城（きりふりじょう）」とも呼ばれていたそうです。

江戸時代末期～明治初期にかけて、久留里では豊かな地下水を生活用水として
活用するために、たくさんの井戸が掘られました。その井戸掘りには、この地
方で改良が進んだ「上総掘り」という工法が用いられています。現在、上総掘
りの用具は重要有形民俗文化財に、技術は重要無形民俗文化財に指定されてい
ます。

久留里の井戸は、深いものだと地下約650mまで達しています。その水はミネラ
ルや乳酸菌などの善玉菌を多く含む自然水だそうで、そこから「生きた水」と
呼ばれるようになったのだとか。「生きた水・久留里」は2008（平成20）年に
環境省の「平成の名水百選」に選ばれています。

久留里にはいくつもの井戸がありますが、そのすべてが一般に開放されている
わけではありません。君津市観光協会のWebサイトでは、現在一般開放されてい
る井戸として、「鳥井氏所有井戸」「藤平酒造所有井戸」「高澤氏所有井戸」
「川名氏所有井戸」「岡山さん宅横井戸」の5つを紹介しています。

このうち、「鳥井氏所有井戸」「藤平酒造所有井戸」「高澤氏所有井戸」「川
名氏所有井戸」の4つの井戸は、国道410号（久留里街道）沿いに面して点在し
ている掘り抜き井戸（元井戸）です。中でも「高澤氏所有井戸」は、地元の方
から「高澤家の水」とも呼ばれていて、水をくみに訪れる人が絶えない人気の
水場となっているとか。また、「川名氏所有井戸」は久留里神社の北側、久留
里城址入口のすぐそばにあって、通称「雨城庵の井戸」とも呼ばれています。

「生きた水・久留里」は透明度の高い上質の地下水で、飲料水としてはもちろ
ん、日本酒の醸造にも適した水です。そのため、久留里では古くからこの地下
水を利用した酒造りが盛んで、300年以上続いている千葉県最古の造り酒屋も
あります。見学が可能な蔵元もあるので、名水巡りのあとで地元の名酒を味わ
いに立ち寄ってみるのもいいかもしれません。

秋の訪れが感じられる房総半島を訪れて、久留里で名水を味わう休日も楽しそ
うですね。ひと夏を終えて渇いた体を「生きた水」が潤してくれることでしょ
う。ただし、「生きた水・久留里」は一般に開放されている水場でも個人所有
のものがほとんどです。現地を訪れて名水を味わう際や水くみに利用させてい
ただく際には、所有者のお宅や地元の方の迷惑にならないように十分配慮しま
しょう。井戸や水場を汚したり、周囲にゴミを残したりするのはもちろん、違
法駐車も厳禁です。

久留里では水道水を使わずに、湧き出す井戸水を飲み水や料理などに使用して
いる家庭が現在もたくさんあるそうです。「生きた水・久留里」がいつまでも
暮らしと密着した「生きた水」であり続けるように、名水を巡る際には地元の
方たちと同じ気持ちで、水を大切に扱いたいものですね。