コロッケ蕎麦10 ~大月編~
木曜日にJR大月駅で昼食をとることになる。せっかくの大月なので何か地元のものでもとは思ったが、時間が20分もない。うむ。仕方あるまい。挑戦的な眼差しを向けている立ち食い蕎麦に入ることにする。店内を見回すと客は一人。若い駅員さんだ。物凄い勢いで蕎麦をすすってる。眼差しは険しい。世の中に対して何か不満があるようだ。どうした。そうか。おそらく君は3年目くらいなんだな。この会社に入社したのもなんとなく成り行きで、同期のいわゆる鉄道マニア達とはイマイチ仲良くなれないんだな。そうこうしている内に鉄道について何も知らないチャランポランな新入社員が入ってきて、イライラしているんだな。で、その新入社員が昔の自分を見ているようで、それも何か腹が立つんだな。そうか。それなら仕方がない。存分に蕎麦をすすればよろしい。うむ。話を戻す。奥襟部長、おもむろに券売機の前に立つ。そして迷わずボタンを押す。そう、勿論、そのボタンはコロッケ蕎麦。イエス、コロッケ蕎麦。1年2ヵ月ぶりのコロッケ蕎麦である。久しぶりの対戦だ。結構腹が減っていたので、いなり寿司(2ケ)も買う。だって、おにぎりは売り切れだったんだもの。食券をカウンターに出す。おばちゃんが「コロッケいただきましたぁ~!」と威勢よく声を上げる。そうするともう一人のおばちゃんが「あいよ!」的な返しを曖昧な発音で返す。厨房の中は2人しかいないのに大したもんだ。席は、自分自身にいらつき、今まさに一皮むけようとしている駅員の横に陣取る。で、程なくして「コロッケ蕎麦といなりのお客様ぁ~!」と呼ばれて、カウンターに取りに行く。そしてお水を入れて席につき、マジマジと外観チェックから始める。ふむ。左側にコロッケ。右側にネギ。コロッケは後のせ型。ネギはちょんとつまんで集合体のまま置かれているちょい乗せ型。なるほど。パラパラ型ではなく、ちょい乗せ型だな。粋なことしやがって。汁をすすり、七味で味を調える。コロッケは後のせなので、一回沈んでもらう。また会おう。しかし、蕎麦の味普通。汁の味普通。ネギの量少なめ。いかん。早い段階でコロッケと対戦するしかない。コロッケを汁底から持ち上げ、がぶりとやる。うむ。冷たい。そして具は肉らしきものだけ。正しい。そこはかとなく正しい。ストロングスタイルだ。ストロングスタイルにはストロングスタイルで応えるのが礼儀というもの。ガツガツ一気に食べて留めを指す。トータル1分15秒。いい試合だった。最後にいなりを豪快に二口で食べる。ごちそうさま。気づけば駅員はいない。そうか。奥襟部長の食べっぷりで、何か生きるヒントが見つかったに違いない。カウンターに食器を返して、外に出て、空を見上げる。そうか、もう春か。気づけば奥襟部長の肩に桜の花びらが一枚乗っていた。