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2005年08月15日
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To: ??????@s5.dion.ne.jp>
Sent: Monday, August 15, 2005 11:02 AM
Subject: 15日の日記



「ワーイ、お坊さんだぁ。」

インターフォンで来意を告げると、家の奥で幼い子供たちの声がはじけ、玄関に小さな足音が駆けてくる。

「ネェ、お坊さん、遊ぼう」

「ウン、ちょっと待ってね。おじいちゃんにお経を上げるから」

「ネェ、ネェ、ナムナムしたら遊べる?」

「ちょっとだけね」

「ワーイ、やったぁ」

「今度来たらまた遊ぶって言ったから、ぼくプラレール全部つなげといたよ」

一年前の約束を子供たちはしっかり記憶している。仏間の隣の八畳は、部屋いっぱいにプラレールがひろがっている。

お盆に檀家を廻っていると、何軒かで、私は俄か保父さんに変身する。

でも八月十四・十五日の二日間の中で、いちばん楽しい時間だ。



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「少しはわずらって寝込んでくれたら、親孝行の真似事ができたのに」

この春、お姑さんを見送ったお嫁さんは、読経の終わるのを待ちかねたように、胸のうちを告げる。

「ああ、まだまだお気持ちの整理がつく訳がありませんよね」



ちょっと近所へ行ってくると言った姑の声を、掃除機をかけながら見送った筈が、門に手をかけたまま息絶えているのを小一時間後に発見したお嫁さんの後悔は尽きない。

ひとしきり彼女の嘆きを聞く。



「そうそう、お義母様は、『うちは息子で外したけれど、嫁で当てたんですよ』って、いつも自慢しておられましたね」というと、こらえきれなくなったお嫁さんの目からは涙が噴き出るが、やがて明るい表情を取り戻される。



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「その後、お加減いかがですか?」

「ええ、おかげさまでギブスはとれたんですが、湿気の多い日は痛むんですよ。」

「そうですよね。骨はつながっても疼いたり、しびれたりしますよね」

「あら、お坊さんも腕を折られたんですか?」

「いいえ、私は足ですが・・・」

「やっぱり庭で滑って?」

「いいえ、スキーで」

「あら、お坊さん、スキーをなさるんですか?」



対話のような、でもその実、この一年の間にご自身の身に起きた事ごとを報告するきっかけを待っていただけのようなやりとりもある。

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墨染めの法衣を着ると、カウンセラーになったり、看護士になったりするけれど、私の来訪を待っていてくださるお宅がある。

いちばん好きな役回りはなんといっても保父さんだ。



師匠の寺のお檀家は約五百軒、そのうちこの二日間にお尋ねするのは三百二十軒、私の担当分はそのなかの六十軒程。一軒のお宅にかける時間は最大で二十分にしないと回りきれない計算になるが、三十分を超えるお宅もだいぶある。



とにかく、年に一度お目にかかれるかどうかのお宅である。この機会を大切にしないわけにはいかない。



でもついつい小さいお子さんと遊ぶ時間が長くなる。

「キリン作って」って折り紙を差し出されれば、折り方なんか知らなくても、それらしい形を作らなくてはならない。

粘土をもってきて「鶴折ってよ」と、さっきの子のハトコが言う。「エッ?粘土を折るの?」鶴とキリンが逆だったら簡単なのに、と思うが、子供たちにとって、こちらの都合はお構いなしだ。



リクエストに一通り応えた後の別れ方がまた難しい。大抵の場合、高く抱き上げて空中で手を離し、着地前に抱きとめるパターンが、子供たちの満足度が高い。

昨日と今日で、二十数人の子供たちと来年の約束をして、そうして別れた。



奥から若いお父さんが出てきた。そうだ、得度を受けて初めてお盆に読経に伺ったとき、このセイちゃんが何としても「帰っちゃ駄目だ」ってすねて、私を困らせたんだ。

でもあの時、「三つ高い高いをしたら帰る。でも必ず来年も来て遊ぶからね」って約束して、以来お坊さんが来たら遊べる、って待っていてくれる子供たちと楽しい時間を過ごしてきた。



あのとき四歳だったセイちゃんが、もう二人の子持ち。



子供らと 手まりつきつつ このおかに 遊ぶ春日は 暮れずとも良し




良寛様もこんな気持ちだったのかな。



ともかく私の二十四回目のお盆も無事に終わった。





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最終更新日  2005年08月16日 02時18分10秒
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