弱法師 中山可穂 ★★★★
【内容情報】(「BOOK」データベースより)かなわぬ恋こそ、美しい―雨の気配を滲ませた母子に宿命的に惹かれ、人生設計を投げ捨てたエリート医師(「弱法師」)。編集者の愛を得るために小説を捧げ続けた若き作家(「卒塔婆小町」)。父と母、伯母の不可思議な関係に胸をふるわせる少女(「浮舟」)。能のモチーフをちりばめ、身を滅ぼすほどの激しい恋情が燃えたつ珠玉の三篇。 【弱法師】あらすじ的には一番惹かれたんだけど、決して悪いものではないし、世にはびこる様々な文学の中でも少なくとも並以上のものはあると思うんだけれど、中山可穂作品としては、個人的にはいままで読んだ中で一番のワーストでした。最初の妻、再婚した妻、そして3人目、ちょっとうまくいきすぎな感じなのと、未央って子と、あんな展開ありえない、うまくいきすぎ、な感じがどうしてもご都合主義な印象を受けてしまって、素直に受け入れることができなかったのかもしれない。サクヤくんの絶妙なキャラの立ち方はホント素晴らしいのだけれど。★2,5【卒塔婆小町】これはよかった。これぞ中山可穂というか、中山可穂だからこそ描けた作品で。美しくもの哀しい。婆の話になってからが長すぎてちょっと別の小説になってきちゃった感も否めないけれど、でももしも本当にこんな小説家が実在したらとても素敵だと思うし、是非とも読んでみたいと心から思う。100本捧げる―おそろしく長い歳月をかけて。こんな全身全霊の愛は想う側も想われる側も、生まれてよかったと生を噛みしめられるほどのことだと思うし、誰しもが秘めている情熱を思い出させてくれる熱く深い作品。短編でここまで強く印象付ける作品は類い稀ではなかろうか?これこそ読後の余韻が素晴らしく、だから読書は素晴らしく愉しいと思える。★4.5【浮舟】さすがに3話目ともなると脂の乗り方も違うような。中山節全開な感じがとても心地良く。著者ならではのテイストが端々に生きている。ここに描かれた4人のそれぞれの決別の仕方がとても巧みに描かれている、それはもう感心するほどに。薫子はどんな気持ちで譲った?ドライブした?文音はどんな気持ちで生きていた?父はどんな気持ちでトライアングルの中にいた?旅立った?娘はどんな気持ちで決着をつけた?それぞれの気持ちが行間から滲むけれど、それは読者側が察するしかなく、そしてそれは際限なく察することができるもので。これ以上ないほどに哀しみと強さの滲み出るような物語。絆って?愛って?情熱って?良くも悪くも同性愛者にしか描けない愛の形。4人は哀しみを背負って生きていくけれど、その哀しみが人としての深みを増すような、計り知れないような哀しみで、それはきっと私には経験できないであろうもので、経験したくないほどのもので、それなのにそんな哀しみを背負う彼らが羨ましくもあるような・・・・・。それぞれの「どんな気持ちで?」を振り切った、乗り越えたあとの、清清しさもまた、掴んでは消えるシャボン玉のように儚く美しいもので。★4.5