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品田知美の空中庭園

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Ayami0719

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カテゴリ:ニュース
 つい数日前、私は九州に出張していた。東京の雨はまだこんなに冷たいのに、あちらは、太陽の日差しもとっくに明るく、雨もまるで春のように暖かかった。
 地元の友人にご馳走になり心もお腹も温かくホテルにもどって、ふとテレビをつけると少年が教師を刺殺したというニュースが映っていた。ふだんの東京生活だったら、もっと身近に感じたかもしれない事件だが、遠い異国で起きているように感じる。ああ、そういえばあの日はバレンタインだった。とあらためて気づいたのは東京に帰ってからである。偶然にしては、できすぎたイベントの日だ。
 十代の男の子たちの競争は過酷である。背が高い、運動が出来る、笑いがとれる、勉強ができる、そしてチョコがたくさんもらえる、、、。とにかく彼らは常に競っている。そんな競争からはずれたって、かまわないじゃないかと親や周囲が思っていても、競争からはなかなか降りられない。その理由は私にはまだよくわからない。
 小学生の頃は、最新式のゲームを持っている、ゲームに強い、という競争で少年はいつも勝つことができたに違いない。でも、他の競争では勝てていなかったようだ。中学になり、「競技メニュー」からゲームがはずれかけたとき、少年は自尊心を保つのに苦労するようになったのではないか。彼は、勉強ができたという。でも、彼の姉たちはもっとできたのかもしれない。劣等感とは、意外に身近な関係から堆積してしまうものなのだ。
 そして、バレンタイン。彼にチョコをくれる女の子がいただろうか。きちんと通っていた塾を、その日彼は初めて無断で休んだという。塾だって、バレンタインには彼の自尊心を傷つける場所になる。
 問題はここからである。自尊心が少し傷ついたからといって、普通の少年は教師を刺しに出かけたりなどしない。その短絡のしかたを理解する鍵は、やはり彼が幼い頃から折り紙つきのゲーマーだったところにありそうだ。
ゲームを忌み嫌う人は多いが、私は子どもに禁止しなかった。あまり幼い頃からさせることもなかったし、いまでも、「ちょっとやりすぎじゃないの?」と文句はいう。家からゲームをなくすほうがたぶん簡単だと思う。でも、それよりもルールを決めて、適度に自分でコントロールできるようになってもらう、という道を選んだ。
 じつは、これが難しい。ゲームは子どもをまるで麻薬のように誘惑する。特にハマりやすい子は大変である。少年は、ハマってしまっても、まったく制限を受けなかった子どものようだ。親がコントロールする戦いを放棄していたんだろう。大変なのはよくわかるが、それでは子どもが可哀相である。ゲームは少しならば頭の体操にもなると思う。でも、子どもの時は身体をつかう活動も意識してさせたほうがいい。ただでさえ現実と仮想(バーチャル)の区別がつきにくい年頃なのだから。
 現実というものが、おぼろげながらみえてくる年頃になった少年は、バーチャルでない世界で自分の優越性を確かめたくなったのではないか。教師を殺すという、まるでゲームでやっているかのような情けない行為によって。
 こういう犯罪で、動機を追及するのは難しいだろう。供述がくるくるかわるのもいたしかたない。彼自身のもやもやを、体系だてて解釈できるとも思えない。最近ケガをしたこと。末っ子のかわいがられていた男の子の突発的犯行。98年におきた黒磯教師殺人事件と、少し構図が重なる。この事件も、よくわからないがゆえに親たちに不安を残した。
 気が重くなる事件のおかげで、まばゆい九州の記憶が少しだけ影のあるものになってしまったのが、残念である。





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Last updated  2005/02/20 05:03:56 PM



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