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品田知美の空中庭園

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Ayami0719

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カテゴリ:メディア
 きのう自転車で大学に講義にでかけた。通いながらつくづく思う。東京は、いやおそらくこの国ほど、歩く人や自転車に乗る人が脇に追いやられている場所はないのではないか、と。
 ガードレール内の歩道を自転車で通ると、数メートルおきに、大きな電柱があらわれる。そのたびに、ハンドルが引っかからないよう、減速して真ん中を注意深くとおる。人がいたら、道路にはみ出すか脇をおりて歩く。時には郵便ポストやバス停が目の前に現れ、最悪の場所ではポストと電柱の間をS字に通行する。この地区が都内でも屈指の住環境を誇る場所と考えると、本当に絶望感にみまわれる。
 以前、都市計画にも携わる研究所で仕事をしていた時に、痛感した。どんなにすばらしい計画を提案しようと、それが実現可能でなければ意味がないこと。よい計画が日の目をみるのは、稀であること。都市計画そのものが、この国では市民権を得ていないこと。その後私は、計画を作る仕事をやめ、その理由を探す仕事をしている。
 下北沢に信じられない都市再開発計画が持ち上がっているのを知ってから、ずっと気にかけている。ちょうど、「現代思想」5月号に特集が出ていたので、興味深く読んだ。計画見直しを提言しているグループSave the 下北沢のメンバーによる考察で、いくつかの謎が理解できた。
 なぜ、地元の人を含めて誰も望んでいない、60年前(昭和21年)決定の道路計画が突然ゾンビのように出てきたのか。ひとえに、お金の拠出に関わる要件を満たすためである。下北沢の再開発計画では、住民との懇談会とかパブリックコメントとか、住民の意見、といった最近トレンドの都市計画プロセスを経ながら、全く無視されている、という情けない現実が繰り広げられている。私たちは、いつまで「お上」に無力なのか。
 じつは、下北沢という街は、私にとって東京生活の原点ともいえる場所なのだ。上京して住んだ女子寮(!)から出たあと、初めて自分でアパート契約をして住んだのが、下北沢だったからだ。それから4年間、私はここで思い出深い時間を過ごした。私の大学生活は街とともにあった。そんな感覚を持てる場所に出会えて幸せだったと思う。だからこそ、この再開発の話題は自分の痛みとして、受け止めてしまう。
 市民参加の「まちづくり」といえば世田谷というほどの場所で、なぜこういうことが起きているのかという理由も少しわかった。計画の規模が大きすぎて、決定権が区にないのだ。大きいことを、区が決められないという仕組み自体が、すでにオカシイのだが、、、。都や、国レベルでこの計画を動かしている人々は、たぶん、下北沢などに興味のない人々なのだろう。自動車を保持し、ごみごみしていない街が好きで、広い道路と高層ビルが好きなのだろう。残念だが、そういう人の方がたぶん多いのだ。だから、最近都心には虫食い状態のように高層マンションが立ち並び、空を占拠しはじめている。空が残っているのが味わいの生命線であった東京は、再開発で激変しつつある。でも、「売れる」のだから、しかたがない。市場化された社会とはそういうものだということも、私は学んだ。
 でも、お願いだから下北沢ぐらいは違う趣味を持った人々のパラダイスとして残しておいてほしい。駅ビルとバスロータリーのあるありきたりな街など、もう十分あるではないか。駅周辺に多数の車が入らない、歩く人のための街が1つくらいあってもいいはずだ。どうしても車でのりつけなくてはならない弱者のためのスペースぐらいは、今でもあるだろう。バリアフリーは、とってつけた理由の1つにすぎない。
 計画を推進している人と、街を味わう人の間には気が遠くなるほどの距離感がある。もしかすると、これが「格差」というものなのかもしれない。自分の感覚を信じること、上司の方を向かずに仕事をすること、違うテイストを持つ人々に耳を傾けること。いま、直ぐに担当している人ができることも、本当はあるはずだ。JR西日本で事故を起こした運転手が、いくらしめつけの厳しい会社にいたにせよ、彼が怯えなければ事故は起きなかった。下北沢計画だって、関わっている人がいまこそ見直す決断をしてほしい。そういう1つ1つの決断の積み重ねが、社会を変えていくのだから。





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Last updated  2005/05/15 12:45:12 PM



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