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専門家はどこまで社会的責任を負えるのだろう。姉歯建築士による構造計算書の偽造問題は、ずっと考えてきた疑問を思い出させてくれた。この舞台に登場する役者は、販売会社ヒューザー(他)、ゼネコン木村建設、検査機関イーホームズ、建築設計元請け(平成設計ほか)。姉歯は1下請け建築設計事務所で、マンションを購入するとき、彼の名前は消えている。つまり、端役にすぎなかったはずだ。常識的に考えれば、主な役者の誰かが気づくはずである。
ところが、現実には彼の偽造計算して整えた書類をもとに、巨大な建物がつぎつぎと建てられてしまった。恐ろしいが、いかにもありえることだと思う。建築物という目に見えるもので、書類も正しい/正しくない、という判断がはっきりできる今回の事件は、責任の所在がまだ見えやすい。 これが建築物とちがって目にみえにくい社会政策だったり制度だったらどうか。たくさんの粗製濫造の政策が「建って」いるとしたら。。。自分だって、いつその一端を担うかもしれない。他人事ではない大きな問題がここには隠れている。 若い頃行政の政策を支えるシンクタンクに勤務していた。つくづく思い至ったのは、責任の重さに見合った仕事を与えられる環境が、この業界(あるいはこの国)にいる以上は構造的に得られにくいということ。私は個人で負える責任の範囲を拡大するために大学院へ行き、力量に見合った分以上は仕事をしない、というやり方でこの問題に対処する道を選んだ。こうすると仕事量と得られる収入は確実に減る。 専門性を尊重される待遇はないのに、責任だけは発生する可能性にさらされた仕事の現場が、日本中に蔓延している。その分、だれかが責任を負うことなくよい待遇を受けていることになる。今回でいえば、姉歯以外の役者たちがその待遇を享受しているはずだ。一見まったく関係ないかのように見える、銀行の派遣社員による横領事件ともつながりがある。非正規雇用化が進むなか、信じられないほどの責任を派遣社員やパートに丸投げしている現場が増えている。 姉歯氏は構造設計を一件100万円で請け負ったという。この仕事をこなすのは、普通は年に3件くらいがやっとだそうで、彼は10件やったらしい。単純計算すると1000万円だが、経費を考えると苦しいだろう。3件では確かに食べていけない。彼が「生活のためにやった」というのもあながちウソではないだろう。だからといって許されるはずもないのは当然だが。 そこで踏みとどまらなくてはならないのが専門家なのである。姉歯氏の「専門家として大変申し訳ない」という言葉は、すずめの涙ほどは残っていたモラルから出たものだろう。だが、違法建築物をなくすための「建築Gメン」を立ち上げた建築士は「仕事が減った」という。ひどく貧乏でも、仕事がこなくなっても、良心にしたがいつづけるのが専門家に課せられた社会的責任でありつづければ、今回のようなほころびが、どこかで繰り返されるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/11/29 08:08:11 PM
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