テーマ:詩&物語の或る風景(1048)
カテゴリ:詩・小噺
ああ、アンタこんな夜更けにここで一体何をしているのサ。 さっきの人?追いかけて来たって??そりゃあご苦労様。 あの人ァ、妾の常連さんだよゥ。 ・・・じゃなきゃこんな辺鄙な場所に来ないって? はん、余計なお世話さね。冷かしならとっとと帰りな。 何?疲れたからちぃと休ませとくれだって?しょうがないねぇ。 黙ってるのもなんだ、折角来て呉れたんだから妾が話でもしようかえ? そうかい。じゃあ「匣」の話でもしようかえ。 そうそう、「ハコ」だよ。ものをしまったりする。 それ以外のハコなんて妾は生憎知りんせん。 その「匣」はね、誰しもが深ァい場所に持ってるものなのサ。 形大きさ数模様、十人十色さ。 何?そんなハコ知らん?アンタ気付いてないだけだよゥ。 妾も持っているかって?勿論さ。 駄目駄目駄目教えらンないよゥ。教えちまったら匣の意味がない。 とてもじゃないけど御開帳は出来ないねぇ。 開けたら最後、色々な不利益が湧き上がって来るもの。 そうさ、だから匣に仕舞うのサ。 現し世にきちんと溶け込めるようにね。 ああ、でも妾のトコに来る常連さんは薄々勘付いてるかも知れん。 その匣の中身。 妾自身、これを隠しておくのは何か違うんじゃないかと思うんだよゥ。 え?じゃあ教えろだって??馬鹿お言いでないよ。 今はまだその時期じゃあありんせん。 大体、アンタとは先刻会ったばかりじゃァないかい。 長ッく付き合ってる、妾の数少ない友達にも殆ど言ってないンだから。 何を・・って匣の中身に決まっているじゃァないかえ。 どうなったかって?そのままの子も居れば、他人になった子も居るよ。 匣の中身を教えるって言うのはそう言う事さ。 ああ、ああ、何かぞぞ神が来たよゥ。ぶるっとしたさね。 匣を手放す・・・そりゃあ無理な話サ。 一個消えてもまたいつの間にか在るのさ。気味悪いッたらないじゃないか。 生きてる限り、匣はついて来るんだよゥ。 妾だけじゃあないよ。アンタにも。他の人にもだよゥ。 だから気付いてないだけだって。強情だねぇ、アンタも。 ああ、それはきっと見なかった事にしてるンだよ。 匣と向き合うには勇気が要るからねェ。 帰ったら見てみたらどうかえ? きっちり仕舞い込まれた頑丈な匣があるハズだよゥ。 おや、ぞぞ神がアンタにも憑いたみたいだねェ。 そんなに慌てる事ありんせん。 ほら、その道を真っ直ぐ行けば賑やかな場所に出るよゥ。 また来いなんて言いんせん。 お気を付けなすって。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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