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2010.12.22
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カテゴリ:コラム・えっせい
---続き-----
 
 8つのベッドにそれぞれおばあさんが並んで座っているなんて、ちょっと恐ろしい光景です。
「カンゴフさんが車の付いた台で、ボールに入ったもんを運んで来てな、端っこのおばあさんの前でサジで掬って、口のとこへ「はい」と出す。おばあさんはアーンと口開ける、サジの中のもんを口へ入れる。すぐに隣のおばあさんとこへ行く。『はい』、アーン。すぐにまた隣へ行って『はい』。誰のお茶碗もサジもないねん。順番に口へ入れて行って、初めのおばあさんのとこへ戻る。エサやな。こっちにも同じ数のベッドがあって、やっぱりおばあさんが並んで座ってるねんで。お母ちゃんと隣の人は一人前のお膳持って来てくれたけど……お粥さん……(ああ、こんなんになったらあかんわ)思うて、二日目にお姉ちゃんに『帰る』言うた。ほんなら怒るねん。『帰ってどうするのん!? もうちょっと良うなるまでおらんとあかんわ』言うて……。そやから病院のつんつるてんの寝巻の上から自分の服を着て、エレベーターで一階へ降りて、そこにとまってたタクシに乗った。怒りながらお姉ちゃん追いかけて来て一緒に乗ったけど、家へ着くまでずーっと怒ってた。
 家に着いて、ネマキ脱いで畳んで、『このネマキ持って行って私の荷物持って帰って。支払いもして来て』言うて5万円渡した。お姉ちゃんも仕様ないから、言うた通りにしてくれたけど、そんな病院もあるねんでェ。コワイやろ」
 母の声は小さかったけれど、ほかのおばあさん達に食べさせていたナースには話が聞こえたかも知れません。
 おばあさん達に早々と食事を終らせると、ナースは一斉にいなくなりました。母は戦前に住んでいた家の近所の話をしました。
「松原さんはお米屋の奥さんで、私と松原さんが婦人会の役員してた。○○さんと××さんと△△さんも婦人会。ほかに誰がおったかなあ。松原さんの隣は松本さんで、その隣が吉田はん。宮本はん、森さん。森さんはあとから来はってん。上田、砂田さん、イワモトさん、あっちの端っこは、忘れた。こっちは煙草屋、シモガイさん、村上さん……森さんのぼんさんの寮。加古川はん、加古川さん、日和佐はん、岡本さん、岡本のフクちゃんから手紙が来た、言うてたなあ。田舎にずっと暮らしてるのやろか? 岡本も日和佐も、ようけの子供やったなあ」
 65年も前の話です。加古川はんは、私と同い年で別の小学校へ通っている女の子がいました。それで加古川はん。隣はお兄さんの家で、加古川さんなのです。
「もう何時や? あんた、時計持ってないのん!? うちにたんと時計あるのになあ」
 ケイタイのデジタル時計を見せてやりました。携帯電話

「13時25分か? 13時て、何時や? むつかしいなあ」
「1時。1時25分」
「ふうん。みな寝てはるやろ。よう寝るでェ。ご飯も自分でよう食べんと、ほかになんにも考えることないから寝てるしかないねんな」
 ナースが4人入ってきて、一人が「おむつ換えますから、外へ出ていてください」と私に言いました 私は廊下の端の椅子へ行きました。すぐ前の部屋は、空きベッドが3つもありました。整形と違って内科はあまり評判が良くない病院なのでしょう。
「おわりました」
 と言われて病室へ戻ると母はうとうと眠っていて、ベッドの足元に水枕が置いてありました。少し熱があるということで、母はアイスノンを枕の上に乗せて貰っていました。母は目を開けて、「何処へ行ってたん?」と言いました。
「おむつ交換しますから、外へ出ててください、言いはったから…」
「ふうん。もう帰ったんかと思た」
「水枕、それと換える?」
「これでええ。要らん、いうのに置いて行った」
 母の額に手を当ててみると、熱はないようでした。
「みんなベッドの足元の柵に乗せて行ってはるわ」
「要らん、言うのに置いて行った。ちっとも言うこと聞けへん」

-------------続く----------






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Last updated  2010.12.22 23:40:13
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