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ばたばた……つけ睫毛の音ではなく……して出て来たから、ネコ(野良猫)にご飯を置いといてやらなかった。燕と入れ違いに現れた痩せて穢い猫だったけど、今はよく肥えてきれいになった。白に黒と茶色の牛柄で、人間に話しかけて貰ったことがないのか、人間語をほとんど解さないネコだ。飼っているのではないからなんの心配も要らないが、毎夕方表へ出ると何処からか現れて、じっと私を見ている不安そうな顔を思い出す。
ナビの予定到着時間は18時20分になった。雨の夜の高速道路というのは景色も見えず、追いかけられている夢のような恐怖感と焦燥感ある。ともあれCDもラジオも聞かず三ケ日まで無事に来た。あとは拗ねているナビ任せで、浜名湖畔のホテルに着いた。25、6歳の男性従業員が出迎えてくれた。 「確認の電話もらわなかったので、道、間違えました」 と、真っ先に言ってやった。「申し訳ございません」と、口先だけで言って頭を下げた。口先だけでも頭を下げたのだからまあいいか。荷物をフロントまで運んでくれただけで、従業員は消えてしまった。ショーは車を移動させているので、私がチェックインした。フロント係は女性で、プリントの管内地図で「こちらがお部屋、此処がエレヴェーター、此処がお風呂、お食事はこちらで和食をご用意させて頂きました。朝食は大浴場の反対側の食堂です」と説明し、さて、この後がビックリだった。フロント女性はニコニコ笑顔で言った。 「こちらのお部屋からはお風呂も食堂もかなり遠いですので、もう1200円割り増しのお部屋になされば、お風呂も食堂も近いですが……」 えー? ベッド、ウォッシュレット、露天風呂、景色、行き帰りも泊らなければならないので」高くない処と、あちこち比較検討して決めたのに、二人分で2400円も割り増しはひどい。こんなこと言うホテルは初めてだ。よほどお客が少ないのだろう。どうしようかなあと思っていたらショータンが来た。 「割り増しの部屋、言うてはんねんけど…」 「お取りしてますお部屋は、別の棟になっておりますので、お風呂も食堂も遠いんです」 とフロント係は特別のニコニコ顔でまた勧めた。 「ええやン。お風呂に近い部屋にして貰おう」 ショータンはあっさり肯いた。8万円も私から取ったもんナ。 「ではこちらのお部屋に。621号室でございます。エレベーターは、あの柱の後ろ側になっております」 従業員は見当たらなくて、誰もカバンを持って部屋までは案内してくれなかった。「ゆこゆこ」からの客は、扱いが悪いのかも知れない。 浴衣はロッカーではなく、大きな鏡の前の整理タンスの抽斗に用意してあった。サイズは思った通り『大』と『中』だけだった。慌てて出て来たから、腰紐を持ってくるのを忘れたのだ。ホテルによっては『小』の無い処がある。ショータンは『大』を着て、「長い」と言った。 「ほんならこっちがあんた」 と『中』を渡して、フロントに電話し、「浴衣の『小』ありますか?」と訊いた。いつも『大』で間に合うショータンが「長い」と言うのだから、背の高い人ばかりが来るホテルなのかも知れない。そういうこともあるから、いつもは紐もパジャマも持って来ることにしている。 「申し訳ございません。浴衣は大と中しかないんです。からげ用の紐を、もう一本お持ち致します」 とフロントの女性は答えて、2分も掛からずにドアがノックされた。小さく巻いた帯紐を差し出したのは、割り増し料金の部屋を薦めた従業員だった。 (あ?)と思ったけど、「貸し料100円でございます」とは言わなかった。1万5000円以上の部屋なら浴衣のサイズも大中小揃っていて、窓からの景色はいいのかも知れない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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