雨月物語
上田秋成により、江戸時代末期に書かれた怪異物語の傑作である「雨月物語」(上田秋成/雨月洋:角川学芸出版 )。○「雨月物語」(上田秋成/雨月洋:角川学芸出版 ) この物語を構成する怪異話は次の9編。○白峯(しらみね)・西行法師が、讃岐の白峯稜で崇徳院の怨霊と出会った話。○菊花の約(ちぎり)・義兄弟との約束を霊魂になって果たした男の話。○浅茅が宿・戦乱のため家に帰れなかった夫が7年ぶりに帰ってみると、妻は・・・○夢応の鯉魚・夢の中で鯉になって、散々な目にあった僧の話○仏法僧・高野山で豊臣秀次一行の亡霊に出会った父子の話。○吉備津の釜・不誠実なため、ついには妻に呪い殺された男の話。○蛇性の婬・蛇神に付きまとわれた男の話。○青頭巾・禅の高僧が、寵愛していた美童の死が原因で鬼となった住職を教下した話。○貧福論・金を大事にしていた男が、金の精と金談義で盛り上がる話。 読んで感じたのは、まず、人の心と言うものは、時代が変わってもあまり変わらないものだということ。怨念を抱いたり、約束を守ることを何よりも大切だと考えたり、愛する者の死を悲しむあまり鬼となったり。前述したように、江戸時代に書かれた物語であるが、古臭さは感じない。もっとも、言葉自体は、現在とだいぶ変わっており、本の構成としては、まず前半に現代語訳が掲載され、後半に原文が載っているという形となっている。古文の素養のある人は、原文で読むのもいいだろうが、普通の人は現代語訳で楽しめば十分だと思う。もちろん私も、現代語訳で読んだ口である。 それほど怖くはないので、怪談と言うよりは怪異譚といったところだ。異色なのは最後の「貧福論」。「武士は食わねど高楊枝」と言う言葉もあるように、何かと武家社会では、金は卑しいものとされていたようだ。しかし、本来金は倫理とは無関係で大事にする人のところに集まってくるものだと、金の精と話が盛り上がっているのが何とも面白い。ちゃんと大事にするから、私のところにも集まって欲しいものだ(笑)。 表紙のイラストは、鏑木清方による「雨月物語 8.蛇身」。これがまた、すばらしく、読書心をくすぐる。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)