ハイブリッド
ハイブリッドカーと言えば、まず思い浮かべるのは、トヨタのプリウスだろう。「ハイブリッド」(木野龍逸:文藝春秋)は、そのプリウスの開発に挑んだエンジニアたちの物語だ。○「ハイブリッド」(木野龍逸:文藝春秋) ハイブリッドカーとは、一言で言えば、ガソリンエンジンと電気モーターが助けあって、車を走らせるというものだ。ハイブリッド方式にすれば、車の燃費を大幅に向上させることができる。その理由は二つあり、まず、ブレキーによる制動時に、通常なら熱エネルギーとして捨てられるエネルギーを電気エネルギーとして回収できるということだ。もう一つは、エンジンを一番燃費の良いところで回転させ続けられるということである。 このハイブリッド方式には、エンジン→発電→電池→モーターという流れの「シリーズ方式」と、状況に応じて、エンジンとモーターを使い分けたり併用したりする「パラレル方式」に分けられるが、プリウスの場合、両方のいいところ取りのできる「シリーズ・パラレル方式」を採用している。当然、制御の方もそれだけ大変になるだろう。また、軽量で容量の大きな電池の開発など課題は山積みである。 おまけに、このプロジェクトは、「クレージー・プロジェクト」だった。なにしろ、開発を始めてからたった2年で量産までこぎつけなければならなかったのだから。開発を始めてから半年も経たないうちに、スケジュールが当初予定から2年も繰り上げられたのだ。欧米のエンジニアは、誰一人として僅か2年でやりとげたことを信じてくれないらしい。「クレージー・プロジェクト」と呼ばれたプリウスの開発を成し遂げた、日本の技術者たちの優秀さには脱帽の思いだ。読んでいると、つい頭の中を「プロジェクトX」のテーマが流れてくる。もっとも、欧米人には、「プロジェクトX」は、いかに日本のエンジニアが虐げられているかに映ると言うことを聞いたことがある。グローバル化と理系離れの進む我が国にとって、日本の優秀なエンジニアの話が、過去の夢物語とならなければよいがと願う次第だ。 もう一つ思ったのは、こういった、画期的な技術開発には、やはり技術のカリスマと言った人が不可欠だろう。プリウスの場合は、「技術の天皇」と呼ばれた和田技術担当副社長だった。和田氏は、副社長という立場ながら、現場に頻繁に顔を出し、細かな指示を出したということである。若手の技術者は、彼のことを親しみを込めて「大係長」と呼んだそうだ。 我が国のものづくりの底力とエンジニアたちの優秀さを再認識させてくれる一冊である。このものづくりの伝統をいかに守っていくかが、我が国が優先して取り組まなければならない課題ではないだろうか。○読書ランキング 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)