カテゴリ:非常識系
先日、バスに乗っていたら、可愛い彼女を連れた20代前半とおぼしき青年がドカドカとシルバーシートに腰を下ろした。通常の座席は進行方向に向かって、一人がけか二人がけで並んでおり、シルバーシートだけが、バスの壁面にそって横向きに4人分くらい並んでいる、というスタイルのバスだった。
青年はシルバーシートの一番奥、降車口の隣のどっかと腰を下ろした。可愛い彼女はその隣にちょこんと座る。そのバス停からは、かなりの人数が乗ってきたので、それまで空いていた座席もどんどん埋まっていく。しかもお年寄りが多かったから、私は内心「バカだなぁ。後ろの方の二人がけ席に行った方が、ゆっくり座ってられるのに」と思った。横向きの座席だから、目の前にお年寄りが立つことになり、ましてやシルバーシートだから立たざるを得ないのに、と。 が、よけいなお世話だった。彼は降りやすい場所にあるシルバーシートを、ちらりと横目で見ながら渋々まだ空いていた奥の座席に向かった老婦人の背中を横目で見ながら、隣の可愛い彼女に向かって、 「おーおー、どけってプレッシャーかけやがってよぅ、クソばばーが」 というようなことを、大声で言ったのだった。隣の女の子は、カレシがとても気の利いたことを言ったかのように、にこにこ笑ってうなずいている(お似合いの二人…)。 その後、後部の座席の方から、お年寄り同士が「どちらまで?」「私は●●一丁目です」「あ、私は●●町なので」とやり取りしているのが聞こえてくると、その青年は 「おーおー、バスん中でローカルなコミュニケーションかよ。行き先語ってどーすんだよ、ばーか」 というようなことを、これまた大声で言う。「ばーか」はお前だ。二人がけの席だから、後から降りる人の方が奥に座るためのやり取りだと分からんのかっ このようなバカであるから、その後、目の前にお年寄りがよろよろしながら立っていても、結局、大股おっぴろげたまま、平然として座っていた。泣く子と地頭には勝てぬ、とかいうことわざみたいなのがあるが、21世紀ともなると「泣く子とバカな若造には勝てぬ」なのだなぁと思った。 人ごとながら「席、譲ってやれよ!」と思いつつ立っていると、そこへちょっと変な人が乗ってきた。近所を徘徊しているので、その路線ではちょっと有名な人なのだが、私は彼が知恵遅れな方なのか、精神異常な方なのかは知らない。ただ、バスの中で奇声をあげたり、空いていれば駆け回ったり、運転手さんの真後ろの席に陣取って「次は~、●●~●●~」などとアナウンスしたりする、という習慣を持っていることだけは知っていた。 で、その精神状態が常にちょっと異常な方が、大口を叩くバカ造の前に立ったと思いなさい。そのバカ造は当然、彼が精神の不安定な方であるとは知らない。だもんだから、目の前で突如として彼が「きいいいいい~~~~~~~~~」と奇声をあげ始めると、文字通り、座席から飛び上がった(たぶん3センチくらい)。ぐわっと開いていたヒザまで、女の子のようにピタッと閉じてしまったくらいだ。 先生に叱られた小学生のように、ヒザに手を置いてきゅうううっと小さくなった彼だったが、隣の彼女に対して粋がっていたことを思い出したのか、すぐさま、再び大股開き、座席から尻が落ちそうなだらしない座り方に復帰した。が、精神のおかしな方の方に神経を集中しているのはアリアリ。そのおかげか、次にその方が「きいいいいいいいいっ」と叫んだ時には、座席から飛び上がらずに済んだ。 が、精神の不安定な方を侮ってはいけない。その後彼は、ものすごく低い声で、念仏のようなものを唱え始めた。しかも、バカ造の座る真ん前に立ち、つり革にだらーっとぶら下がるようにつかまって、バカ造の頭上に顔を突き出すようにして… 人混みの隙間から、バカ造の顔を見ていると、だんだん青ざめてきたようだった。先ほどまでの威勢はどこへやら、少しうつむいたままじーっとしている。 と、やおら、精神の不安定な方が、くるりと私の方を向き、お辞儀をするようなポーズをとった。その直後、ベリッというような、ヘンな破裂音が聞こえた。見るとバカ造が泣きそうな顔をしている。精神の不安定な方である彼は、何と、尻をバカ造の鼻先に突き出して放屁したらしかった。 精神の不安定な方は「べりっ」の直後、まるでタイミングをはかっていたかのように、バスを降りていった。彼が何故あんなことをしたのか、よく分からないが、お年寄りが大勢立っている真ん前で、シルバーシートに座っている若者を見て、彼は彼なりに何か思うところがあったのかもしれない。 いずれにせよ、バカな若造に勝てるのは、精神状態があまり正常でない方だけなのかもしれない、と思った私だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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