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カテゴリ:敵対的買収防衛
1:Overview
9月4日の閣議決定で、経済産業省の「グローバル経済下における国際投資環境を考える研究会」で06/12月から議論されてきた外国為替法に基づく対内直接投資規制の見直しが9月28日に施行されることとなった。 これまで武器製造やその電子部品が規制対象の中心であったが、テロ対策(生物化学兵器等)向けの兵器やその関連素材、通常兵器関連の先端素材や電子機器なども対象となった。 また、規制対象となる外国人投資家に共同して議決権を行使することに合意している外国人投資家は株式数を合算すると規制した。これらの規制に抵触する投資については、財務大臣および所轄担当大臣は当該投資の中止・変更を勧告・命令できるとしている。規制の是非はともかく、マスコミ報道による過剰な国民感情への訴求など運用面においては慎重な対応が望まれる。 通商白書2007の俯瞰図を掲載しておきます。
今回の通商白書2007ではこのように述べている。 「近年、国際テロ組織の活動や大量破壊兵器の拡散問題等、我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変化していることを踏まえ、我が国の安全を脅かすような対内直接投資については、適切に規制する必要がある。例えば、安全保障上重要な技術を有する我が国企業が、特定の懸念国や国際テロ組織等に関連する外国企業に買収された場合に、企業グループ内の情報や人の移動を通じて、輸出管理規制等を潜脱する形で当該技術が海外に流出し、軍事転用されるおそれがあるためである。」 2:本件にかかるマスコミ報道
9月4日の報道で、「政府は9月4日、外国企業が日本企業を買収する際に、政府に事前の届出を義務付ける対象業種を拡大する国事の改正を閣議決定し、28日から施行される・・・。」と事実だけ報じられた(その他共同通信や毎日新聞も似たり寄ったり)。
「Tokyo faced criticism yesterday for erecting another barrier against foreign takeovers after・・・.」(東京は海外からの買収に対し、別の障害を立てたことで批判を浴びた)と報じ、サブタイトルも「Key technology rules added to poison pills」と劇薬扱いをしている。 同紙は、この種のものは16年ぶりの規制強化でかえって誠実な外国企業による日本企業の買収を阻害する要因にもなろう、と警笛を鳴らしている。 さらに、この規制強化の背景には三角合併解禁となり、外国企業による敵対的企業買収に恐れをなしている経団連の強い要望をなだめるための措置だとも論じている(確かに12月は三角合併に関する課税繰り延べが容認されることが決定的になっていたはずだ。経団連は「特殊決議」にしろっていっていたなあ) 特に、そもそも日本がこの新しい規制をフェアに取り扱わないのではないか、とはなから疑問の目で見られている(なんだか信用ありませんね。仕方ないですが。それにしても予想通りといいますか、いまだに1件もクロスボーダーの敵対的三角合併は実現してないのでは?)。 ちなみに、日本ではミネベア(東証1部6479)が1985年8月26日、英国のグレン・インターナショナル社)と米国のトラファルガー・ホールディング社が、ミネベアの株式、転換社債、ワラントを5000万株分、発行済み株式総数の23%を買い占め、敵対的TOBを仕掛けましたが、「国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになる」との理由で、政府が介入してM&Aをひっくり返したことがある(同社は当時の防衛庁向けにピストルの製造を行っていたようである)。 個人的には、フィナンシャル・タイムズが痛烈に批判するほどのことはないと思うが、運用面で政治力の臭いは完全に排除できないであろうとの感触を持っている。米国にもエクソン・フロリオ条項というものがあり、行き過ぎたクロスボーダーM&Aを規制しているし、規制基準も政治的、戦略的であった。 3:欧米のクロスボーダーM&Aに関する国家防衛上などを理由とした政府の介入事例
06年、ドバイ・ポート・ワールド(DPO)というUAEの港湾会社が英国P&Oという港湾会社を買収しようとした際に、P&O社の米国港湾権益について米国議会が強固に反対し、DPOはいったんP&Oの米国権益を買収し、即同権益を米国同業他社に売却することで解決した、という事例がある。理由は、UAEはテロを輩出する国家であり、アルカイーダへ送金する金融機関もある。そんな国の企業に米国港湾を経営させるとテロ危機が更に高くなるというものであり、国民的心情も大きく味方になった模様である(そもそもUAEと英国企業のM&Aなのに米国政府が強固に反対しています)。 また、下の通商白書の諸外国との比較表にもありますが、05年中国海洋石油が米国同業のユノカル社を買収する際にも「中国脅威論者」のプレッシャーもあり、中国側は買収を断念したいきさつがある。 しかし、一方で04年には、米国議会に反対されながらも中国のレノボ社はIBMのパソコン製造部門を買収したのは大きなニュースで報じられるなど、基準の一貫性が希薄にも思われる(中国のサイバーテロなんてよく言われていましたよね)。
フランスなどはもっと 「えげつない」 方法でブロックしている。仏医薬品メーカーであるサンフィ・サンテラボ社が同国内同業者であるアベンティス社を敵対的にTOBすると発表。アベンティス社はスイスの製薬会社のノバルティス社を「ホワイトナイト」 として担ぎ出し、ノバルティス社も経営統合に前向き発言を示す。 しかし、フランスは政府が直接介入を開始。なんと、サンフィ・サンテラボ社にTOB価格の引き上げを要請し、同社も受託した。フランス国内も労組もスイス企業よりフランス企業の方が好ましいとして支持。結局アベンティス社は白旗。ノバルティス社も撤退した。 この政府介入時点で、「スイス企業がアベンティスを買収すると、同社が持つ生物テロ対策に不可欠な世界有数のワクチン部門が失われ、安全保障上の問題がある」と当時の仏首相が発言。 さらに、サンフィ-アベンティス統合決定の発表後、「統合の仲介は政府として当然。自由市場を支持するが、自国産業が消滅してはならない」とサルコジ経済相(現在の仏大統領!)が発言。(永久中立国のスイスの企業がテロや国防上に悪影響を及ぼすのでしょうか?) 当時(今も継続しているのかな)のフランス政府の方針に「セクターチャンピオン主義」というものがあり、フランス企業は戦略セクターにおいて、ワールドクラスの企業を1社は持つべきだ、という基本構想である。かつ、そのターゲットセクターを輸送、航空宇宙、医薬、通信と定めていた。 (事例参考:「会社買収時代のサバイバル」 By 野間健)
4:各国のこの種の規制。通商白書2007より 少し読みづらいですね。文末に経産省通商白書のリンクを貼っておきます 5:私見です 各国は表面的に海外からの対内直接投資を歓迎し、一方では規制する。規制の基準が曖昧であり、ケースバイケースに応じた 「柔軟対応」 が事実上可能とされている。 外国に支配されるという国民的感情はどこの国でも同じようなものがあると思う。ある程度は仕方がないと思う。確かに、実際国防上の機密などを握る企業が外国に買収されると確かにリスクが高いですよね。さらに、歓迎されない投資はどう考えても期待リターンを生むとは思えませんね。 しかし、マスコミを 「運用」 した過激な報道は慎み、フェアな対応をしてほしい。 (こういうときは第三カ国からなる独立委員会みたいなものは組成されないのでしょうかね) 私はこの「歓迎されない投資はどう考えても期待リターンを生むとは思えません」という発想はかなり敵対的買収へのキーワードだと思っています(歓迎される高利回りの投資案件がBRICS諸国に転がっているのも事実)。それだけハードルが高いということ。 日本において、通常にOUT-IN M&A(海外企業の日本企業の買収)が行われていればこういう記事にもならないのですが、保護的なレッテルを貼られており、損ですね。
最後に通商白書2007に掲載された、日本が海外から 「投資してもらっていない」 証左を示す。 なぜ政府が海外企業の日本企業買収に熱心か理解が少しは出来る(今回の規制はある種妥当だと思われる。運用がポイントである規制強化。実際政府は海外企業による日本企業のM&Aを「歓迎」している。一度は事実上、「国外退去」を命じたシティーグループに日興コーディアルを買収させたのはその典型。みずほ証券が尻すぼみになりましたよね。小泉内閣のときに対内直接投資の体名目GDP比率5%達成を公言しています)。 白書では(たぶん3年ほど前から)、世界的にも対内直接投資の内訳では、クロスボーダーM&Aの金額が70%以上を占めるため、OUT-INのM&Aが日本に対する対内直接投資増加の起爆剤になると海外企業の日本企業買収を「歓迎」 する主旨の論調となっています。 対内直接投資が名目GDPに占める割合の推移
世界各国・地域の対内直接投資残高の推移
「伝家の宝刀」 となりますか。政府も板ばさみなんでしょうかね。 (第4章第4節の1を見てください)
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