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元・経営コンサルタントの投資日記

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2007/09/11
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カテゴリ:敵対的買収防衛
 先般、「日本の株主総会における議決権の行使状況の評価2」において、

「日本の現行法律は、外国人持ち株比率が28%(07/3現在。金額ベース)となり、30%を目前に控えた状況の中、実態にそぐわない条文となりつつあり、法律を守っても株主の賛同を得られないというやや時代にそぐわないものになりつつある。」

ということを書いたが、これは、1:定時総会の召集通知の発送期限が二週間前であること、と2:定時総会を決算日以降、3ヶ月以内に終わらせることが、会社法で定められているを前提とした、内容でした。このうち、後記2は私どもの「誤解」であったことを悟りました。お詫びします。この後、おおすぎBlogの大杉先生に質問したところ、ご丁寧にお答えいただき、早速自分で調べてみました。

浜辺陽一郎氏著「図解 新会社法のしくみ」(東洋経済新報社)によれば、「株主総会で決議すべき事項としては、取締役、監査役等の選任・解任、定款変更、資本金・準備金の減少、会社の合併・解散等事業再編に関する重要な事項がある」と記載されています(改めて読むと、確かに配当については触れていません)。

旬刊 商事法務2006/7/15、25号「新会社法の下における基準日の運用問題」(浜田道代 名古屋大学教授)の方の論文を以下にすこし紹介。

冒頭のお詫びであるが、正確には

法律で、制約を設けているのは、1:株主権(議決権)の基準日から議決権行使期日(定時総会を想定)を3ヶ月以内とすること、2:株主総会の召集通知を総会日の2週間前までとすること、だけであった。

したがって、会社法では、議決権行使のための株主の基準日(いつまでの株主が総会で物言える権利があるのか)と、配当を受け取る権利を行使できる株主の基準日が両方とも決算期末日でなければならない、ということは触れていない。

主に、配当受け取りの権利を得る基準日と議決権を行使できる基準日を、双方とも決算日とあわせているのは日本の慣行によるもの、ということである(正確には定款でこのように定めてしまっている)。

大杉先生、勉強不足でした。

浜田教授は興味深い示唆をしてくれた。

「会社の将来にかかわる重要な決定をする総会の場において、3ヶ月近く前に株主であった者しか議決権を行使できないといのは適切とは言い難い。また、配当受け取りは(これまでの)会社財産の分配をするものである」(主旨)。

また、大杉先生もブログでかいつまんで説明いただきましたが、基準日(日本の場合多くは3月31日、3月決算の場合)から決定日・行使日(6月第4週ぐらいが多い)まで約3ヶ月は長すぎる(浜田教授は世界各国との比較ということだと思う)。

したがって会社にとって、議決権行使は未来、配当は過去のことに対する決定権とも言える(配当は将来計画等にも左右されますが、極論)。

更に各国の配当と議決権行使の流れを説明されている。

各国の例

日本(一般例)

        3/31     6/10~13ごろ           6/27ごろ

イベント   決算日     召集通知(この間短いといわれる) 定時総会               配当     基準日                         決定   支払い      議決     基準日       (この間長いといわれる)  決定

不都合 A:3ヶ月前の株主が将来のことに口出す、B:4月から総会日まで配当落ちの状態が続くが、配当額が確定しないため株価によくない

(3/31~5月下旬ごろまでに決算の確定、会計監査人の承認を得る必要性あり)

米国

米国では、配当の決定は取締役の専決事項らしい。したがって、配当は配当で決定され、総会ではそれ以外(取締役を誰にするとか)を決めることとなる。

ダウケミカル社の例(03年度、04年スケジュール)

      12/31     1/28      3/13    3/24      5/11

イベント  決算日                               総会         配当    配当基準日 支払日

議決権                    基準日    召集通知    投票

配当の決定と総会議決は別行事になってますね

配当の決定は決算の前になる。召集通知から総会までゆっくり1ヶ月以上ある。決算日以降の株主に議決権あり。配当は決算日が基準日(米国企業は基準日がバラバラ)。

英国企業は結果的におおよそ米国と同じスケジュールと考えてよさそうだ(詳細省略)。

独・仏は配当の決定は総会でされるもの、と規定があるそうだ。日本の慣行に似ている。

ただし、フランス(ロレアル社が例とされているが)などは総会議決への基準日以後6ヶ月以内に総会を開くという規程があるものの、召集通知は事前に通信費用を納付した登録株主には送付され、総会当日に株主登録されていれば、総会に出席できるという。なお、同社は既に08年の年次総会の日程をHPで公表している。

ドイツ(ダイムラークライスラー:06年当時:が例)の場合も定時総会で配当額を決定する。ただし支払いは翌日であり同社の場合、定時総会(06年の場合は4月12日)の日付の株主に対して、翌日に配当を支払う、という手際よさであった。

一方、議決権は3月13日に召集通知(約1ヶ月前)に発送し、3日前(一般的には7日前とのこと)までに、出席または議決権の行使をするかの決定を会社側に通知し、総会でモノを言うそうである。

したがって、日英米独仏では過去の話である配当と将来の議決が同一基準日であるのはかえって日本ぐらいになります。

ここまで書くと、「日本では、一般例をだして、欧米はグローバル巨大企業を例にすれば日本が劣って見えるから不公平だ」 とお思いの方に、最後にソニーの例を出すこととしましょう。

ソニーといえども日本企業であり、3月31日決算、同日が議決権行使基準日であり、かつ、配当基準日となっており、ここまでは日本企業の一般的な流れに同じである。

しかし、(07年、06年度)ソニーは電磁的方法による議決権行使を実施し、かつ、召集通知の電子公告についても実施している(定款変更済み)。また、総会を6月21日とかなり早めに集中日を避け、召集通知の発送日を5月31日とし、インターバルを3週間設けている。まあ、ルールと慣行の中ではほぼ完璧ではないでしょうか。

なお、浜田教授は配当金の基準日が期末日となるのは、福沢諭吉が『西洋事情』で株式の「配当は債権の利子のようなもの」と紹介したことが発端である、と興味深い分析をしておられます。こんなところで福沢諭吉が出てくるとは思いませんでした。

株式という概念がまったくない日本でその配当というものの理解がなかなか出来なかったのでしょう。(この辺から「株主がモノ言わない」という暗黙知のようなものが形成されたのでしょうか?)

欧米は大航海時代のヴァスゴダガマかもっと以前からか、配当が獲得財産の分与という概念があったのでしょうね(航海者への出資に対し、コショウの貿易権などを国王が独占したとかそんなのが発端だった気がします。これらの経験から英国東インド会社が設立されたと本で読んだような)。

さて、電磁的方法、ソニーなどその気になれば、改善できる日本企業のガバナンス(人という経営資源も必要ですが)、浜田教授はこんな提案をされている。

配当基準日を期末日にとらわれないように変える。この決断には理性をもって決断を下し、(期末分は総会で)配当額の決定後、基準日を到来させ、配当を払うようなスケジュールを組むべきだ(6月下旬総会で決定、6月末日が基準日、配当支払いが7月上旬という感じ。 「脱、福沢諭吉からのススメ」 との解釈をいたしました。議決権の行使の基準日も決算でなく、もっと総会直前にするという提案です。

しかしながら、現実には

「配当を受け取る人と配当決議で議決権行使をする人がずれるのが(違法ではないが)気持ち悪い」(大杉先生の客観的観察)が多そうです。

確かに福沢諭吉以来の「慣行」を覆すのは勇気が要りますね。福沢説は「株主は長期的かつ安定的に株を保有し続ける」という隠れた前提があるような気がします。

これに関し、時折、経営者の方から「長期的に株を持ってくれる人には配当をたくさんあげるのに抵抗がないが、『にわか株主』のようなものに、偉そうな口を利かれると抵抗感がある」(主旨。といいつつ、そのような企業の過去の配当性向も同業他社比較で高いともいえないし、株の売買回転率も低いケースが往々にしてあるのですが)ということを聞きます。

一理あるような気もしますし、「株主履歴」が浅くとも意見を聞くときは聞きますし(M&AなんてDay1といいませんが、臨時総会で、すぐ役員総とっかえ、というのもありますし、「株主履歴の浅い人は配当が少ない」となると、株価に影響を与え、余計に狙われやすくなるような気もします。

この辺は難しいですね。伊藤園の優先株式の上場みたいなケースが増えるのでしょうか。配当を受ける権利とモノ言う権利の分離化というのも選択肢の一環でしょうか(年金基金的にはモノも言うし、配当にもモノ言う、という立場でしょうか、支給額増加で大変でしょうし)。

最後はすこし話がそれてしまいました。

いつもながら長文、ご愛読ありがとうございます。字ばっかり・・・。






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Last updated  2007/09/12 12:57:15 AM
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