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カテゴリ:敵対的買収防衛
以下の長々した意見は独断です(しかし、偏見はないと願いたい)。 (注:9月28日深夜修正加筆あり。赤字で示します。内容をわかりやすくする目的と、不適切な表現を訂正する目的です。お見苦しくなり、申し訳ありません) 「会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が毀損されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべき」 「本件議案は議決権総数の約83.4%の賛成をえて可決されたのであるから、ほとんどの既存株主がSPによる経営支配権の取得が相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害することになると判断したものということが出来る」 これはブルドック最高裁決定文を一部修正していますが、ブルドックの株主平等原則を擁護する基本ロジックになっているところです。 要するに大多数の株主自身が、スティールを「会社の利益ひいては株主の共同の利益が毀損」する買収者と認定したんでしょ。だったら、それでいいじゃん。かつ、あなた(SP)だって、「私はブルドックをこんな会社にしたい」、とか、「だからこの値段です」、とか、抗弁の機会があっても、十分しなかったじゃないですか。プロポーズが不十分で、本気で愛している(?)とはいえませんよね。 という解釈がされています。 最初は、「ふーん」 と思っていました(高裁ほど驚かなかった)が、今になって疑問。 「そもそも、『会社の利益ひいては株主の共同の利益が毀損される』のだったら、その判断を最終利益享受者である株主に判断させるだけでいいのか?」 だったら、会社の利益の毀損なんて回りくどく言わずに、株主利益を毀損する、とシンプルに言えばいいのではないのか? 企業価値というのはステークホルダーの利益でしたよね。この場合は株主以外のステークホルダーですかね。従業員とか取引先とか地域社会...(以下本文では「企業価値構成員」とします)。 共同の利益の毀損の有無を判断するのになぜ株主の判断だけで決められるのか? 頭の限界です。そもそもこういった株主と他の企業価値構成員は利益相反するのではないのか? 「企業価値報告書・買収防衛に関する指針」(別冊商事法務編集部 編)によれば、 株主利益を極大化するために、従業員から搾取するような「所得移転」はだめだ、とか、資産売却等で一時的な利益を得て、長期的な利益を損なわせるようなものもだめだ、という感じで例示しています(p44~45)。 <個人的感想:それ以前では企業価値を、まだら色の定性的に説明しながら、ここでは定量的に捕らえています。すなわち、BS自己資本の源泉である当期純利益について、短期的なリストラや資産売却などで、目先の純利益の増大だけを考えるものではなく、その結果、長期・安定的な純利益の成長を毀損するような方針の者はダメ、という風に解釈するのが筋でしょう> しかし、 会社の株を持つということはそんな「深読み」を伴うものなのでしょうか? そんな義務を負うものなのでしょうか? 一般投資家はそこまで深読みして判断できるのでしょうか?(持ち合い先は、互助会的な発想があるので「深読み」出来るでしょうし、先日ご紹介したハーミーズのようなしっかりした機関投資家なら別格ですし、そもそも余計なことを言われなくても、自ら合理的な判断をするはずです。いや、株主が株式会社の場合ははそういった合理的判断が出来る前提となっているんじゃなかったでしたっけ? 金商法でも考える時間は十分取れますよね。ということは個人株主程度がこんなややこしいこと考えないといけないのでしょうか) すなわち、いつかは「投資回収手段」として売却が許容されている株主が、「みなさん、私が市場価格より、XX%高い価格で、お宅の『不良資産』(基本的にはTOBの時点までは対象企業の潜在的な将来性に気づいていない株主が多数と思われる)を買い取ります。」とアナウンスメントがあったとき、仮に「不良資産」であれば、「ラッキー!」と思うはずだし、「潜在的価値がある」と信ずる株主がいれば、「安い!!」の一言で片付けるはずである。 M&Aには価格がすべてだ、とは言わない(コムスンでも一応建前はそうだった)が、かなりのものが価格に集約されるはずである。プレミアムが例えば70%とか80%ついたとしたら、売却後のこと考える余裕あるでしょうか?(ミタルのアルセロールの買収、ファイザーのワーナーランバートとの合併などの当初敵対的だったM&Aの最終的なプレミアムはこのレベル感です) 売却に応じようとひそかに考えているかもしれない株主に、「企業価値と株主価値の共通する利益を考えてください」などと訴えることは、株主の「投資手段の回収」に対する取締役会は重大な責務を背負い込むはずである(仮にTOB価格以上の株価を達成できなかったら、損害賠償責任になるのでは? 法律詳しくないので、少し自信ないが多分そのはず)。 要するに 「自分が株を売った後のことも考えて、うちの会社のことをよーく考えてくださいよ。あなたは株主なのだから、それぐらいの倫理観がなくちゃだめでしょう。」 と聞こえます(TOBでそこそこのプレミアムがつくことを前提としていますが)。 株式を売却した後の会社のことを「深読み」することの必然性というか、意味がわかりません。なお、これは、たまたま成蹊大学准教授田中先生が「ブルドックソース事件の法的検討 下 商事法務No.1810」で同趣旨のことを述べられています。もっとも先生は強圧的二段階買収の可能性が残るのなら理解可能とも述べられています。
しかしながら、企業価値構成員は倒産法上(会社更生法、民事再生法を前提とする)においては、租税公課(地域社会としましょう)や従業員の未払い給与・退職金等は優先債権とされ、弁済財源から優先的な弁済を受けます。取引先・金融機関は一般債権(担保があればその部分は回収が保全される)として優先債権の次に弁済を受ける権利があり、その後に株主に弁済が回ります。 一般的にこういった再生法を申請する企業の最大の条件に債務超過というものがあります。 債務超過はこの場合、株主価値はゼロとみなされ、大半は株主への弁済はありません(再生企業は弁済額を低くする誘引があるので、倒産専門弁護士が処理している場合は、99.9%出資金が弁済されないと覚悟すべきでしょう)。 但し、上場企業でも1期程度の債務超過で上場廃止にもならない(すなわち市場株価がある)のに、無理やり整理ポスト・上場廃止、株主価値ゼロとされ、再生(更生)計画が出てきたときは、裁判所の許可があれば株主総会なくとも100%減資が出来ます。 また、株主の意見を聞かずとも、事業譲渡や100%減資の上、第三者割り当て増資が出来るなど、株主は無視されます。 だからキャピタルゲインという特別な果実を得られることで、こういった企業価値構成員とは一線を画していたはずです。 よって、投資資本の回収チャンスが来たら他の企業価値構成員のことを考えなくともいいような気がする。 単に、「今売った利益と、長期的に保有したときの利益とどちらが株主にとって有益か」(個々の株主が、現在価値ベースで考えるかどうかは別ですが)と考えるだけで十二分ではないでしょうか? 個々の株主の判断基準として、持ち合い先なら、「情けは人のためならず(互助会的発想)」というのも「今の社長の方が取引条件がよさそう」という判断もやむなしかと思います。 やはり、全ての矛盾の根幹が取締役会というものの存在や義務・責任および訴訟制度しいては報酬水準、報酬体系、さらには労働市場の流動性も含めると、制度やコーポレートガバナンスおよび社会も含め前提が日米では根本的には違うのに、ライツプランというなんとなく、敵対的買収されたとしても日本の取締役会も納得せざるを得ないだろうと思われる手段だけを米国から輸入しているからではないでしょうか? 米国の取締役は、かりに十分なストックオプションやゴールデンパラシュートがあって転職できるとすれば、クラスアクション等膨大な訴訟リスクを抱えているため冷静な判断が出来るが、日本の取締役はこうした米国よりは軽めの訴訟リスクしかないため、会社人生をかけて防衛するわけですよね。 ただし、株主に取締役の会社人生を考えさせるのは酷というもので、株主に求めるものは、「今売ろうか、後に売ろうか、どちらの経営戦略が株が高くなりそうか」それだけでいいのではないでしょうか? そういった意味では、英国の制度は参考になるはずです(TOBが始まると、取締役会にはその防衛権限は一切なく、TOBの結果がすべてを左右する。但し、買収希望者は、30%以上の株式を買い集める場合、募集に応じた株主の株は全部買い取る義務がある。このため、中途半端なTOBはかけられず、100%買い取る気構えがないと予算的にも躊躇してしまうだろう)。 しかしながら、日本の実務要請上は、あいまいなコーポレートガバナンスの上に成り立った、取締役会の権限を剥ぐようなことは簡単ではないでしょう。皆さん人生かかっていますから。もう1,2回ブルドック的事件が発生すれば、内外の論者に屈して英国制度が真剣に議論されるのでしょうか。 英国制度がダメなら、京都大学森本教授説の、取締役の選任案・改選案に、「買収防衛の導入」という説明を取り入れて総会の承認を取るようなやり方に対し、「『こういう経営方針をします。私を支援してください』とそれで選任されたのだから、取締役会が責任持ってやれば(防衛策の発動可否判断)いいということです。そしてそれが会社法のルールに不適合だったら指し止められるに過ぎません」(商事法務 No.1807)。 これは潔い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/09/28 01:02:07 AM
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