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テーマ:大河ドラマ『風林火山』(345)
カテゴリ:敵対的買収防衛
私はかなりの歴史好きである。ただし、時代に対して好き嫌いが激しく、明治維新はほとんど興味がないが、戦国時代的なものは、日本、中国、欧州問わず本を読んだりする。最近、塩野七生さんの「ローマ人の物語」を中途挫折中ではあるものの、こういう本を読むと、イタリア人への認識を新たにすることがある。
戦国時代は生きるか死ぬかの領土の奪い合いであった。ここでは話をNHK大河ドラマ「風林火山」と敵対的企業買収をテーマとしたい。どうしてもオーバーラップしちゃうんですよね。 また、王子-北越のときは「日本人には敵対的企業買収という行為は向いていない」とする説も多数見受けられました。私は、当時なんとなく、そんなことはない、人間というものは歴史的に征服欲、支配欲の塊なのに、なんて感じていました。ここでは、そんな思いを少し、飛躍させて考えているかもしれません。(ここでは敵対的企業買収を王子-北越型の事業会社同士の「健全な買収動機」を前提としています) 同ドラマでは、侵略側(武田勝頼)と被侵略側(信濃の国、さしずめ村上良清か)、もう一方の侵略者(北条氏康)と被侵略側(上杉憲正)に対し、悠然とかっこよく立ち向かう(これは主観ですが)、「ホワイトナイト」の長尾景虎が一気に受けてたつ、という状況設定に見立ててしまうのは仕事のやりすぎでしょうか(笑)。ドラマでは実際ガクトさんは白馬にまたがっていますよね。この演出は絶妙!彼は「ベルサイユのバラ」か「エースを狙え!」のような井出立ちに見えます。 NHKさん、すみません 山本勘助や宇佐美定満なるものの史実性はさておき(さしずめ企業ではCFOか経営企画部長でしょうですね)、侵略された側の悲哀こもごもの状況が敵対的買収をいっそう否定しているような気がしないでもありません(雇用と人命を同一視することに非難をうけそうな気がしますが、この場限りの戯言として許容願いたい)。 諏訪の由布姫は、「私は一人の女性として生きているのか? 諏訪家のためにでもなく武田家のためにでもなく生きがいがわからない」(趣旨)という発言は、買収されてからの企業のリストラを免れたやや失望感の漂う元幹部の方をオーバーラップさせるには十分な演出と感じてしまいます。 また、小山田信有は側室となった美留姫に刺殺され、最後は姫自身も自殺し、亡き前夫の恨みを果たすシーンなんてのは「戦国版ポイズン・ピル」か?と感じでしまいました。 さらに上杉憲正の嫡子が部下の裏切りに会い、北条氏に突き出され、氏康が自らこれを斬り、忠誠心の厚い嫡子を往生させると同時に味方に忠誠をあおるシーンなんてのは、「断固として守るべき価値観」のために社長の独断でライツ・プランを発動した会社、といえば大げさかな。または買収後に非業のリストラをせねばならないゴーンさんのような(日産は友好的買収でしたが)毅然とした哲学のある買収側経営者と映ってしまうと同時に、戦国時代の生き残るすべのむつかしさも感じ、当時の厳しさを実感しました。 一方、買収側の武田家側からすると、「所領安堵」(当面の雇用と既存取引の継続を約する、みたいな感じでしょうか、王子製紙みたいな感じですかね)という「買収提案」を盾に、調略(調略が成功すると、結果的に「友好的M&A」となる)を繰り返し、当該「買収提案」に反した村上側を侵略する(敵対的TOBにかける)・・・。 さらに、隣国今川家や北条家とも、利害関係だけで同盟を結ぶなどの「資本提携」を築き、自らの「買収防衛策」「持合株式関係」を着々と進めていきますね。
当然村上側は侵略者・権威主義反対などと武田晴信に対し大義名分を盾に抗戦するのですが、戦国時代というグローバル化時代に規模のメリットを出さないと生き残れない(成長戦略なくしては、自らが座して死すのみ)とする武田家側の主張も迫真迫るものを感じます。 そこに「ホワイトナイト」を買って出る、長尾景虎はとてもかっこよく映るのは日本人であるがゆえんでしょうか。「何ゆえ他国の領土を奪おうとするのか」というせりふは、多くの日本人の敵対的買収に対する気持ちを代弁しているような気がしてなりません。とても頼もしい存在ですね。 ドラマの前半では武田氏憎しを増幅させる設定が多かったが、武田晴信は自身の精神的成長と供に、信玄堤(完成したのかな)を作ったり、家臣を思いやったり、侵略国の姫君を側室にして、男子を設けるなど「従業員・取引先のみならず、買収先とも共存を図る企業価値向上策」を打ち立てていますね。晴信自身もパワーゲームの頃(上田原の合戦前後)から、硬柔織り交ぜた戦略に切り替わります。さしずめ、マネーゲームのM&Aから「圧力と対話型」の戦略的M&Aみたいな感じでしょうか? その晴信もなくなった、大井夫人(母親)には弱く、さしずめオーナー株主には弱い現代企業経営者を髣髴させます。 ただし、侵略者武田晴信は善政をもってしてでも、他国からは侵略者扱いを受けたり冷たい目で見られることが多く、主人公側でありながら、敵対視される役割も担っており、侵略者側への評価は簡単に覆りません。この辺も今とあまり価値観がかわらなそう。 ドラマの最期には、川中島の合戦No.4で、山本勘助は景虎(この頃は上杉景虎かな?)に「きつつき戦法」を見破られ、討ち死して終わるらしいですが、「それぞれが夢に賭ける覚悟や無念、その美しさをダイナミックに描きます。」(風林火山HP、企画意図より)とあるのですが、ホワイトナイトが戦術的勝利を納め、敵対的買収者が戦略的勝利を納めたこの合戦、勘助の死を立場によってどのように捕らえるのか興味深そうです。 キャスティングも面白い。超大物は千葉真一さんと緒方拳さんが交互に努める(横内正さんがちょこっと出演されますが)程度ですが、濃いイメージの武田家側(千葉真一さんや内野聖陽さんは非常に濃い容姿と演技)と、あっさり系の長尾家側はガクトさんの少女マンガの男子役のような容姿端麗さが際立っています。 また、ガクトさんも含めた全体のせりふのしゃべり方、特に、晴信役の市川亀次郎さん、が肩に力が入った迫真迫るしゃべり方に対し、緒方拳さんは、かなりあっさりとした口調で非常に大事な状況判断や意見具申をするのですが(このこと事態は内野さん演じる勘助とまったく同じ状況なのですが、緒方さんの場合)、これが、言葉の重みとは裏腹に、あっさりとした語り口で、ややぬくもりのある印象と、緒方さん以外の俳優とのコントラストを視聴者に与えているのが特筆ものですね。緒方さん、存在感大有りでさすがですね。 本当は、サラリーマン視聴者には、経営企画部というか戦略的経営の重要性みたいなものを訴えるのかなあと示唆する、このドラマ。敵対的買収と絡めると、こんな味方もありでしょうね。いろいろ非難されるNHKさん。がんばってくださいね。受信料はBS分含めて満額支払っております。 PS ウイキペディアによると甘利虎泰(竜雷太さん演じた)の子孫が甘利経済産業大臣だそうです。
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