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カテゴリ:敵対的買収防衛
敵対的買収に関するM&Aの事例解説をかなり行っている当ブログで、このケースはあまり採り上げていませんでした。ポピュラーすぎて新聞で十分な解説がある、どうしてもマイクロソフトが好きでない、そもそもこういった業界に対する知見が極端に低い、などからでした。 しかし、このマイクロソフトがあの、「シリコンバレーのランボー」といわれた、オラクルの戦術を採用しつつあるため、ここでは少し紹介したいと思います。ちなみに、ヤフーは「ポイズンピル」を導入しています。 (以下、FT.comの記事から) マイクロソフトのスティールバルマーCEOは、ヤフーに対し「最後通告」とも受け止められかねない発言があった。彼は、今月末までにこのディールにけりをつける、場合によっては現在の買収提案価格を引き下げることになるだろうと含みを持たせている。「もし、株主に直接オファーをせざるを得ないのなら、我々の見通しから、undesirable impact on the value of your company となるだろう」。 バルマーの側近は「読んで字の如くだ」と突き放した。 ヤフーの関係者は、そういった行為は益々我々のスタンスが変更出来ない理由となる、我々の価値を十分に評価しないものには売却することは出来ない(安い)、とコメント。We will not allow you or anyone else to acquire the company for anything less than its full value. (以上FT.com) ブルームバーグでも、プロキシーファイトに持ち込んで、取締役を総替えする、株主に直接訴えた場合、提案価格の引き下げを暗示したと報道されている。 ポイズンピルが、企業価値を引き上げる道具ではなく、「引き下げる元凶」 となりかねません。 この戦術はマイクロソフトがオリジナルではありません。冒頭に記載したとおり、「シリコンバレーのランボー」ことオラクルが敵対的買収の際に採用した戦術です。 ちなみにオラクル社は企業価値報告書ではオラクルがピープルソフトを「非友好的」な買収提案を仕掛け、「ライツプランが買収交渉の時間を作り、買収条件を引き上げた例」として掲載されています。 もちろん、オラクル社は実際に当初提案価格を引き下げてディールをdone したわけではなく、きわめて狡猾な交渉戦術の一貫として採用しています。BEAシステムズの買収(07年~08年にかけて)時点での例を見てみましょう。BEAシステムズもポイズンピルを採用していました。
07年10月、オラクルはBEAに対し、1株17ドルで買収オファー。BEA側は拒否。 同年同月 BEAは1株21ドル以下では応じない、と表明。 同年10月下旬 オラクルの回答期限までに溝は埋まらず、一旦立ち消えになる 同年11月 オラクル「誰もBEAに対抗提案するものはいない。いまや17ドルは高すぎるのではないか?」 と発言。次回オファーは株価を引き下げる可能性を示唆。 08年1月 1株19.37ドルでオラクルとBEAが買収合意に至る。
とBEA側の絶対防衛ラインであった21ドルを下回る株価で成立してしまいました(結構話題となったが詳細は今回省略)。もっとも当初オファーの17ドルを上回ったため、一応2.37ドル分はポイズンピルの効果があったといえます。
しかしながら、独力で買収株価を達成出来ない場合でかつ、ホワイトナイトや対抗買収者が出現しない場合、こういった 「揺さぶり」 はある意味ロジカルです(日本だと「強圧的買収提案だ」といって、「ライツプラン発動」の大義名分を付与しかねない」。
なお、バルマーCEOは「株式市場、実体経済ともかなり弱含んでいる。特にインターネット企業は一般的に当てはまる」、と引き下げることへの外部環境の正当性をコメント。 まっ、マイクロソフトの株主から見れば、このダウンサイドの時期にこれ以上引き上げるなよ、って気になるのは当然ですかね。 経済産業省 & 企業価値研究会様ご一行が望むような結果になるのでしょうか? 対岸の例として。
ちなみに、経済産業省が主催する企業価値報告書で取り上げられたオラクル社は、「ランボー」 こと、エリソンCEOは 「自分で開発できなければ買えばいい」(It's crazy to say you will only grow through innovation,"、 「買収企業側で必要なものはエンジニアと顧客リストだ」(営業マンはいらない:ピープル買収時の提案内容)、 さらに、こういった買収を仕掛けない他社を"Others would be foolish not to try."ですって。CEOがこのように豪語する企業を経済産業省さんは事例として取り上げられていますね。 「技術立国、ものづくり国家ニッポン」の理想とは程遠い考え方の方が敵対的買収者ですね。
こわもてのエリソンCEO。実は親日家らしいが・・・。 霞ヶ関の高級官僚さんの「とても頭のいいかたがた」の発想に凡人である私には理解不能です。ランボーのような豪快なライツプランによる買収交渉を企画したのですが、現実は、サッポロ、日本ハウズイングを見てわかるよう、相手方には 「重箱の隅をつつく」 ような運用がなされています(実際は「玉石混合」というべきですが、私はあえて「重箱の隅」と表現したい)。 本来、弁護士のような専門職の方は、「縁の下の力持ち」的な存在であろうと思われますが、買収防衛に関しては主人公のような活躍をされています。 これは弁護士の方に問題があるのではなく、もともと企業価値というものにそれまで鈍感であった依頼主経営陣に問題があるのだと思います。 本来は経営者同士で話し合えばよいようなことまでも、経営戦略論争では買収提案者側に実は分がある可能性もあるため、リスクを避けるため、法的なこと以外にも「交渉のプロ」たる渉外弁護士に従わざるを得なくなる、などが要因でしょう(要するに力量不足で自分では手に負えないということ。もちろん最後の決断は経営者ですが)。 あまり良い傾向とは思えません。買収防衛策の導入に関しては、百歩譲ってよしとしても、 買収防衛策の導入は「保身ではなく、企業価値を高めるためだ」と仰せなら、なにかベンチマークでもつけて、日ごろ努力するような提案を株主総会にご提示されればどうでしょうかね。 また、ライツプランの「更新期限」が到来する企業さんには、過去数年間、企業価値向上のために何をやり遂げたかの説明責任を持って欲しいですね(配当や自社株買いを増やしたのは確かに回答の一部だけど、あれだけ従業員、取引先等一体となったものが企業価値だ、とのたまうのなら、その成果を見せて欲しいな。例えば従業員は給与が上がったのか?雇用者数は増加したのか、とか)。 企業価値研究会さんには、ライツプランを導入後、こういった 「すばらしい事例」 をご紹介願いたいものです(業績アップ、株価アップ、待遇アップ、配当アップなどを成し遂げた企業)。こういった企業が増えると買収防衛策も皆さん(市場関係者の方を含め)それなりに歓迎するのでしょう。 さらに、中途半端な買い付け条件を撤廃する努力をしてほしいですね。66.6%とか50.1%とかで成立するようなルールでなく、30%超の買い付けは、申し出があれば全部買い付け義務に応じるとか。 さもないと、「少数株主のため」といって、「重箱の隅をつつく」 大義名分を付与させていますね。買収提案されるまでロクに株主のことなどを考えなかった(と思われても言い返せなさそうな)企業が、突然、買収提案されたとたんに 「少数株主の利益確保のため」 言及するのは滑稽です。 そういう株主は実は持ち合い株主だったりするので、たとえ敵対者に買収されたとしても、実は取引が従前どおりに継続できれば価格なんてどうでもいいはずなんですけどね。 最後は買収防衛策に関し、つれづれに思うところを述べてみました。
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