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テーマ:株式投資日記(20516)
カテゴリ:敵対的買収防衛
日本の案件ではなく、時期が時期でもあるため、正直ややリラックスして書けるのですが、引き続きバド動向を。 ベルギーに本社を置くインベブのブリトーCEOはスタンフオード大MBAホルダーでブラジル人であり、今回の買収提案には、やはりアメリカ企業であるラザードとJPMをアドバイザーとして起用して、米国の象徴的ブランドであるバドワイザー(アンハイザーブッシュ)に米国風の買収提案をしています(要するに企業とCEO以外はよく見ると米国のM&Aと言いたい)。 今回は、なんと米国の首都ワシントンに乗り込み、ミズリー州選出の上院議員2名と個別に面会したとのことです(綿密に作戦を立てたのでしょう)。 2人の上院議員はその有権者から激しく「Stop lnBev Save AB(アンハイザーブッシュの略)」の陳情を受けており、ブリトーCEOには冷たい返事をした模様です。 「ABは数多くの中流の雇用を与えており、米国人の多<は今自分の雇用がなくなることを恐れている」 「アメリカは売りに出ていないし、これが破談になることばすばらしいことだ」 「l was passionately opposed to the sale」 など ただし、両名とも、これでディールそのものを食い止めることが出来ないし、議会が介入する必要もないことを認めています。感情論であることを容認したようなものでしょう。
一方、ワシントンの多くのマスコミにインタビューをされたブリトー氏は、「私は我々の提案がどれほどすばらしいものかを説明に来た」、「これはセントルイス市にとっても良いことだ。バドを世界市場に向けて販売することだから」、「我々はABの取締役会と株主が正しい決断を下してくれることを信じている」(注:メキシコのビール会社の買収を暗に釘をさしている)、「1株65ドルはすばらしい価格であり、FullPriceだ」(ただし、現状の資産状況の話)など従来の提案内容を再び説明しました。 さらに、地元セントルイスにも、コラムを寄稿し、インベブがセントルイス市に何が出来るのかを訴えているようです。セントルイスの市民センターや一定の公的機関を支援すると。そして何より、バドワイザーブランドの意思決定機関としてセントルイスを変えるつもりがないと。 (注:インベブはバドワイザーの「現状維持」を約束しているが、それ以外の事業、例えばテーマパークのようなものや、ビールとは直接関係のない加工工場のようなもの資産総額35百億円相当は売却すると推測されている) ただし、当のセントルイス市民は、まるで鯨かホッキョクグマを絶滅から守る動物愛護団体のようなこんな活動を繰り広げています。 SAVEABキャンペーンです。この書名欄には総勢3万人が署名した模様で、当然知事も市長も国会議員も署名したとのことです。
この人たちの赤いTシャツの胸にはSAVE ABと書かれ、背中には「This Bud's for USA!」と書かれています。実際写真を見ていただくとわかるのですが、平均年齢が45歳以上と思われ、こういった年齢層の方がリストラにおびえている状況がわかるかと思われます(単にビールを飲んで騒いでいるようにも見えなくもないが、それはきっとカメラ目線なのでしょう)。 (追記)単なるビール会社ではなく、米国そのものだという くだり は強烈ですね
一方、インベブのお膝元、ベルギーでは「あんなソーダ水のようなものを買収してどうするんだ。我々欧州ビールは米国の水のようなビールと差別化して成長してきたのだ。水の象徴がバドではないか」 個人的には非常に納得感があるコメントです。米国ビールは味がしませんからねえ、ヨーロッパ人が「アメリカンなテイスト」というのは理解しますねえ。
しかし、セントルイスから距離の離れたニューヨークでは、ニューヨークタイムズでも、こういった発言やキャンペーンは感情論であり、ビジネスとは区別すべきである、と冷静な分析をしています。 ABの現在のCEOブッシュ4世は、子供の頃から手の付けられないやんちゃで、学生時代には交通事故で当時のガールフレンドを死に至らせ、一家の弁護士の力で無罪にねじ込んだ過去がある。 ヤフーのジェリー・ヤンCEOなんかよりもはるかに少ない保有株(一族合計でAB株最大4.5%程度)、で米国のThe Corporate LibraryはABのコーポレートガバナンスをDランクとして問題があると永年評価していること、など同族経営の弊害というべきか、経営者としての適性に疑問点を呈しており、この経営体制で、がっちりスクラムを組んでいる新進気鋭でM&Aに精通したインベブには歯が立たないだろうと、「身から出たさび」という感じの論調をかもし出していると感じました。 さらに、ヤフーVSマイクロソフトとダウジョーンズVSニューズコーポレーションを引き合いに出し、単に意固地となったり、パニックに陥るとヤフーのように「獲物を逃す」(株主訴訟の対象になりかねない)かもしれないし、逆にダウジョーンズのように賢明な選択をしたケースもあると解説しています(当然、過小評価されていると訴え、インベブの資金調達が限界に来るまで「兵糧攻め」は出来ると指摘)。 そしてベルギーの新聞社は情報源を明かさなかったが、あの、ウォーレン・バフェットがインベブを支持していると報道したといわれています。投資家からは現代株式市場の神様の様に尊敬を集めている氏の動向は単に彼の持ち株5%以上の影響力があるだろうと早い段階から動向が注目されていました(注:米国紙では今週中にブッシュ一族と会う予定と報道されている)。
要するに株主だけが買収に前向きだという捉え方を欧米各紙は伝えているように個人的に感じました。 ABはゴールドマンサックスとCitiグループをアドバイザーに起用した模様。 ただし、インベブ、ABともアドバイザーのフィーは公表されていません。あしからず(買収者側はこの金額だと総額の1%程度が相場らしいです。このケースだとザックリ500億円!) 政治家を巻き込んで、感情論に訴えるところは日本でも見られる光景ですが、政治家も頭では理解を示しているところを見ると、それぐらいの感情コントロールが出来ないと政治家が務まらないということでしょうかね。そう考えると日本国内の論争は中途半端にも見えます。「腑に落ちる説明」も何もなく、単に嫌といっているのですから。 CSXというフロリダの鉄道会社があのTCIから取締役の数名の交代に関するプロキシーファイトを受けました。このときも「公共事業を外国人のしかも投資ファンドに経営させるとは何事か」という意見が米国議会まで巻き上がりました。 しかし、冷静に考えると、TCIのホーン代表はハーバード卒で、推薦した取締役候補5人のうち4人は米国人だったようで、ほとんど米国人同然じゃないか、という意見とかみ合っていませんでした。
敵対的買収となると、日米を問わずこういった社会論争になるということが言えそうです(英国は違うと思うけど)。買収者はリストラしないというものの、被買収者はリストラにおびえます(既に労働組合の一部が反対声明を出しています)。 企業価値推進派の方の意見を勝手に肩代わりいたしますと、「アメリカだってえらそうなこと言えないじゃないか。」ということになるかもしれません。確かに米国人はあまり他人のことや外国に関心のない人たちは多いように感じますし(米国が世界一とふつうに感じている)、自分たちの価値観を押し付ける嫌いがあります。そのくせ、外国人に何か欠点を突っつかれると、「愛国的」になったりします。 まだ、提案発表後間もないので、事態の推移を見ていかないといけないと思いますが、私もバランスよく様々な事例を伝えることで、よりよい判断をしていただく一助になればと思っております。 日本の社長さんも仮にも相手が嫌がっている会社を買収するのなら、ブリトーさんのように、提案発表後10日ぐらいで 「敵地」 に乗り込む勇気がないと、と感じてほしいものです。数十ページに及ぶ資料をダウンロードして類推するより、明確なメッセージを社長自らの口で聞きたいものです(案件のインパクトにもよるかと思いますが)。 それと繰り返しになりますが、本件、成約すると市場最大の現金買収(買収価格5兆円弱を全て現金支払い)ですので、FXファンの方も為替に影響を与える可能性があるそうですので、要チェックですね。それだけ、対ユーロから見れば、ドル安で買収しやすくなったということも言えなくもないですが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/06/19 11:54:30 AM
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