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カテゴリ:投資一般
この時期になると、投資先の評価替えを行って投資先企業の時価を通知するということが行われています。
当然のことながら、今回の不況の「直撃弾」を投資先も受けています。06、07年ごろの投資先は結構お山のてっぺんのお値段でのディールだったので尚更です。 しかし、投資家がプライベート・エクイティ・ファンドに投資するインセンティブはもちろん高い利回り期待がありますが、次に「市場価格のない投資資産」を持ちたかったんじゃないでしょうか?(他にもValue Addな実物資産を持ちたいとか理由はありますが) つまり、投資家(国内だと生保、信託銀・地銀又は年金、海外は大学、年金基金あるいは、ものすごい資産家の財団など)も自らの投資勘定のアセットアロケーションを多様化してポートフォリオを組んでいます。 それは株式、債券、不動産など様々です。PE投資はこういった伝統的な投資に対して「オルタナティブ」を与えるため、オルタナティブ投資の一部であります。 PEファンドの投資資産は、株式や債券のように日々価格がついている投資商品と違い、投資期間中は価格がない(非公開株式投資なので)ため、市場価格に晒されないという点があります。つまり現在のような株式相場の局面だと、株式ポートフォリオはマイナスXX%なんてのはザラでしょうが、オルタナティブ勘定は評価仕様がないということになります。 そうなると、投資家も自分たちの投資家(例えば年金連合会なら個別年金団体だったり、大学基金なら大学当局だったり)に嫌な報告も緩和されることになりますし、日々の市場価格からの一喜一憂からある程度解放されることにもなります。 が、それでも「途中経過」をお知らせする義務があり、場合によっては「評価損」の計上を迫られます。投資家サイドも今年(08年)なら多少評価損を出しても仕方がない、という空気があるようで、「前向きな対応」を望まれています。 当然、ファンドの経営者や投資先の経営者はその将来業績に対して「前向きな」見通しを崩しません。まあ、これも上場企業の投資家と経営者によくある話の類でしょうね。中間にいる担当者の苦労も似ていそう(ただし、業績回復に対する時間軸は違ってきますが)。 ではどうやって評価するのか。これは投資家と事前に評価基準を打ち合わせているようでして、おおむね型が決まっています。 いわゆるEBITDA倍率が基準になります。簡単には営業利益+減価償却費(償却前営業利益)をEBITDAと呼んでいます。これは、企業の年間キャッシュフローの簡易算出方式です。営業利益は減価償却費の評価方法やその時の設備投資などにより左右されますので、同額を足し戻すこととしています。 一方、投資先と類似する上場企業の企業価値(EV、時価総額+有利子負債±現金預金)およびEBITDAを求め、当該類似企業のEBITDAがEVの何倍であるかを算出します(これをEV/EBITDAと呼んでおり、EBITDA倍率と言います。つまり当該企業の企業価値がCFの何年分のCFで評価されているのかという意味合いです)。 類似企業数社について同様に評価して、その投資先企業の所属する業界のEBITDA倍率の平均値または中央値を算出し、同倍率を投資先のEBITDAと掛け合わせます。そうすると投資先の企業価値・株式価値がざっくり出てきます。
EBITDA(イビットディーエー又はイビットダーと呼んでいます) EBITDA=営業利益+減価償却費 EV=株式価値(時価総額)+有利子負債±現金預金 有利子負債と現金預金はネットの負債額ということになります) EV/EBITDA=EBITDA倍率
この方式にも長短あるのはみな分かっていますが、シンプルで客観性があるという点が一番ウケている要因ではないかと推定します(外国人の場合はこのシンプルさは重要)。一番の短所となる類似企業の妥当性や類似企業の個別業績の状況はこの方式の短所ですので、みっちり議論しています。 DCFだと将来計画や割引率で評価額が何とでもなりますので、投資家も「その計画の達成は確実なのか(いままで当初計画と違ってたじゃないかと暗示している)」とか「割引率の前提となるベータ値や資本構成の妥当性は」とか突っ込みどころが出てきます(そもそも、事業計画を一生懸命考えたところで、最終的なEVの8割前後がターミナルバリュー、終値で占められる)。 この時期の事業計画は得てしてホッケースティック(アイスホッケーのスティックのように、目先下がっても徐々に右肩上がりの形をとる)になりやすく、5年も10年も先のことなど誰にもわからないものです(だからと言って事業計画の意義を否定しませんし、我々も非常に重視しています)。その5年後の着地CFが価値の8割ですからね(これがM&Aにおける株価算定の主力の考え方というのはやっぱり疑問です)。 こういってしまうと、場当たり的にも見られますが、投資家もたくさんのPEファンドに投資しているためシンプルに管理したいということがあるのでしょう。 評価方法はシンプルでいいのですが、これでは途中経過も経過時点での株式相場に大きく左右されることになります。EVの大半が時価総額ですので、そこが小さくなると当然EBITDA倍率の分子が小さくなりますので、倍率も低く出てきます。 買収した時の倍率が高く、評価時点での倍率が低い場合、EBITDAの数値が同じでも評価が低くなってしまいます。何のための非公開化なのだ???
例;仮にヘルスケアメーカーAに投資していたとしましょう(この業界なら今の株価も巡航速度並みの評価をされていると思うから)。 こんな感じになります。
そもそも、EBITDAで50倍も規模が違う花王と比較して意味あるのかと言われそうですが、まあブログ上説明しやすいというのと、結局、みな「では業界1位の花王はどれぐらいで評価されるのだ?」と突っ込むのが実際ですので。 (細かくA社は非上場企業なので流動性ディスカウントを入れろとかもありますが省略します) この210が投資額と比較してどうなんだ、ということです。仮に投資金額が300だったとしたら▲90になります(これぐらいなら評価損は計上しないかも知れない。業績が悪いわけでもないし)。 比較的株価の安定している花王でさえ、1年前はざっくりと1.7兆円の時価総額だったので、仮に他の数値が同じとすればマルチプルは約9.2倍になります。マルチプルの平均値を9倍とし、EBITDA他が同じとすればA社の株式価値は270億円になります。60億円も違ってきます。
まあ、結局は売却価格がいくらだ、で最終評価が出ますので、途中経過にすぎませんが、ふと疑問に思ったので。
PEファンドの投資先は欧米ではめちゃくちゃになっているのも多く、そもそも借入金の返済や借り換えに大いに困っていることでしょう(先日も破たん先が相次いでいると書きましたが)。 日本でも昨年、MKSパートナーズという日本のPEファンドとしては草分け的なファンドがクローズしてしまうということになりました。投資家が次のファンドに投資しないと言ったそうです。初期のベンカンや福助などはディストレスト案件のターンアラウンドの成功事例として有名でした。家電量販店ラオックス辺りからやや下り坂になったようです。 今後も淘汰が進むことでしょう。
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Last updated
2009/01/24 01:09:52 PM
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