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テーマ:株式投資日記(20510)
カテゴリ:敵対的買収防衛
このブログの中心話題の一つでもある敵対的買収関連。こんな景気低迷期でも、「やるときはやる」のでしょうね。
医薬品業界のM&Aが活発です。09年に入り、医薬品売上高世界1位のファイザーと同9位のワイス(ともに米国)が統合を発表しました。これは「友好的」な再編劇ですが、常にそうとも限らないようです。 (医薬品業界2010年の衝撃 酒井文義著より) 世界4位のF・ホフマン・ラ・ロシュ(スイス)が同16位のジェネンテック(米国)には「敵対的買収」を仕掛けており、TOBの最中で神経戦を繰り広げています。 そしてもう一社、世界20位(日本では2位)のアステラス製薬も米国のバイオベンチャー、CVセラピューティクスに対し、敵対的TOBを既に繰り広げていることは、知る人は知るところです。
上記2つの敵対的買収はかなり特徴的な面があり、米国のNYTなどでも話題となっています(その割りにアステラスの件はあまり大きく取り上げられない。日本企業が 「敵対的買収者」 の場合はあまり目立たず、「被買収企業」 となった場合は相当反響が大きいのだろう。日本人の性格の問題か。教科書問題もこういった偏向が巻き起こしたのかもしれない)。
ロシュの件で何が話題かと言えば、ジェネンテックはロシュが既に55.8%の株式を保有する実質的なグループ企業であり、今回経営権の完全掌握を目指すためのM&Aであるにもかかわらず、ジェネンテック経営陣は、そのTOB価格が低すぎる、と買収提案に「はむかう」姿勢を崩さないからです。 それどころか、ロシュは先週金曜日までに3回の価格提案をしていますが、第一回目の提案価格は08年8月に1株89ドルだったのが、2回目の提案価格を09年1月に提示した際には、86.5ドルと価格を引き下げたと言う点で話題を呼んでいます。ロシュの言い分は「市場動向の変化」とのこと。そして先週末、3回目の提案価格である93ドルを言い渡しました。 一方、それに対し、ジェネンテックの特別委員会は、現在のパイプラインを考えると提案株価は低すぎて、とても株主に推薦できるものではないと反発し、具体的に112ドル、と「適正価格」を主張しています。 昨年夏から、ロシュから執拗に買収提案を受けていたものの、ジェネンテックは拒み続けていたため、ついにロシュは「株主に直接真意を問う」行為に出たわけです。 しかしながら、ロシュの実質子会社たるジェネンテック買収に、子会社の「独立委員会」は少数株主のために、算出根拠が不明ながらも、「適正価格」を開示して、徹底的に拒み続けている姿勢は、日本の「独立委員会」の諸先生方は大いに見習ってほしいものです。 私は、実現可能性は不明ですし、空想上の話で身勝手なのですが、ロシュが61%保有する日本の中外製薬が仮にロシュからジェネンテックのような提案を受けた場合はどのように対応するのか見てみたいものです。既に昨年6月に50.9%から59.9%まで買い増しした際にTOBが行われていますが、この時は「たった11%」のプレミアムで、あっさり決まっています。戦略的アライアンスと少数株主の保護を履き違えないように既存少数株主の方は見た方がよいかもしれません。 さて、ジェネンテックへの買収提案は、ロシュが少数株主をスクイーズアウトするといって、さらに2段階買収をちらつかせるなど、佳境に入りつつあります。即ち、仮に93ドルでTOBに既にロシュが保有する55.8%を含めて90%を超えた場合、残りの10%程度の株主は93ドルで強制的に換金して出て行ってもらう、というもので、米国では90%もの株主が集まれば、「経営の迅速化」のために少数株主は「搾り出されて」しまいます。
一方、ご存知、国内2位のアステラス製薬も、日本企業としては珍しく敵対的買収を行うと言う点が米国でも話題となっています。さらに、相手側のCVセラピューティクスには「ポイズンピル」が導入されている、ということですから見逃すわけにはいきません。 ちなみにアステラス製薬は「ライツプラン」の導入はありません。したがって、個人的には「敵対的買収をする権利」があると思います。 米国でも「ポイズンピル」のことをNYTのDealbookでは「Just Say No Strategy」といって批判されています。日本のライツプラン同様の言われようです。 アステラスはこのポイズンピルの中、TOBを実施しています。 米国医薬品会社CV Therapeutics社に対する株式公開買付けに関するお知らせ 09/2/27 アステラス側は既にCV社の株式のいくらかを保有しているようです。したがって、このTOBを成就させるためにはさらに価格を引き上げて、CV側の取締役会を揺さぶるか、アステラス側は、プロキシーファイトに持ち込んで、アステラス側役員を送りこみ、新しくCV社の役員に選出された親アステラス側の役員がCV社のポイズンピルを取り消すことで解決するようなシナリオが考えられます。3月6日のブルームバーグでは、アステラスは後者の方針を固めたと報道しています。 事の発端は共同開発している製品の取り扱いのようです。 日本企業による徹底した敵対的買収ストーリーとなりますか。日本発プロキシーファイト?
日本企業のIn-out M&Aが盛んになっていますが、医薬品業界はその中でも主役に近い状況です。大手4社(武田、アステラス、第一三共、エーザイ)は全てここ数年間で海外企業のM&Aを経験しています。 これはひとえに「医薬品業界の2010年問題」と言われる問題から来るものです。2010年に大手4社(特に武田とエーザイは死活問題)の主力医薬品の特許切れが迫っていますが、それを引き継ぐ新薬の開発が遅れていることが原因となっています。 また、国内医薬品業界は少子高齢化の中、薬価改定で薬の単価が下落することが確実で、それほど成長性が望めない状況になっています。「高齢化社会となれば需要は増加するではないか」という意見がありますが、日本は国民皆保険制度を採っていて、肝心の保険料の納入者たる労働者の比率が低くなってしまうという皮肉があります。要するに、全体の納入される保険料の伸びが限定的で、したがって使える医薬品代もいきおい制限されざるを得ません。 日本の医薬品市場は6兆円ほどあり、世界2位とのことですが、世界1位の米国は50兆円と言われています(注:オバマ大統領の「選挙公約」である医療制度改革の行方が話題となっており、業界にダーク色をもたらしています)。 したがって、今のうちに世界に通じる製薬会社となることに大手4社は必死です。海外売上高比率も大きくなり、為替の影響を受けやすくなっているので、「ディフェンシブ」銘柄とはいえなくなってきています。
また、新薬の開発も年々難しくなっており、米国FDAの承認時間の長さや承認基準の厳格化(年々医療技術が進んでいるため、ちょっとした開発だと「特許」を与えるまでに行かないということで、承認基準が高跳びのバーのように高くなってしまう皮肉な現象)されており、あのファイザーですら画期的な新薬が出せない状況です(といってもファイザーの単独での画期的新薬ってあの「バイアグラ」ぐらいじゃないか?)。これが、大手同士がくっつけばいい、という再編から、武田のミレニアムファーマや今回のアステラスのCV社のTOBまたはエーザイのMGIファーマ買収など、自社の開発の不足を補完する中堅医薬品ベンチャー企業の取り込みが主流となっています。 一方、外資が日本の医薬品メーカーを買収するか、と言う観点は既に古いようでして、世界的大手は皆日本にしっかりした拠点を設けていて、日本企業をいまさら買収するメリットはほとんどないようです。
医薬品業界ではないですが、住友重機械工業は結局アクセリステクノロジーズ社への敵対的買収は不発に終わったものの、その買収目的だったSENという半導体製造装置会社を100%子会社化にすることに成功したようで、あの騒動は何だったんだという感じでしょうか。SENに「住友の精神」とやらを叩きつけてくださいな。半導体製造装置なんて不動産に次ぐ不況業種なので、エコノミーな価格だったんでしょう。 参考 住友重機械工業 VS アクセリス・テクノロジーズその4 アクセリス社「防衛成功」 08/09/18
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