|
カテゴリ:ポートフォリオ分析
ポートフォリオ分析第2弾、フィリップモリス・インターナショナル(PM)です。きちんとした分析せずに投資しそうなので個人の備忘録が第一目的です。
業界動向は日本たばこ産業の分析も参考となります。 会社概要 PMは不朽のブランド、マールボロを擁する世界ナンバーワンの上場タバコ会社。ルーツは19世紀後半の英国。当時の英国王室にたばこを献上していたことから、この王冠エンブレムが許容されたとのこと。その後アメリカに渡る。 PMは2008年3月頃まで米アルトリアグループ(MO)の100%子会社でした。MOはもともとフィリップモリス社が持ち株会社化した企業ですが、80~90年代にかけ、クラフトフーズ、ゼネラルフーズ等を次々に買収し、巨大食品コングロマリットを形成していました。しかし、米国ではたばこ訴訟が頻繁に発生し、投資家は法的リスクのためMO株への投資に二の足を踏むことが多かったようです(しかし、ジェレミー・シーゲル教授の「株式投資の未来」ではもっともトータルリターンの良かったS&P500生き残り企業として紹介されている)。 MOは訴訟費用のねん出と株主価値の極大化の観点より、クラフトフーズのIPO、PMのスピンオフ等を実施し、米国内のたばこ訴訟とそれ以外の事業の法的リスクを分離して、株主価値を極大化する政策を取りました。 タバコ事業はPMとMO100%子会社であるフィリップモリスUSAに分断され、PMはフィリップモリス銘柄(マールボロ、パーラメント、バージニアスリム等)を米国外で販売することが目的の会社となっています。 世界約130カ国で販売されており、OECD諸国内で約35%、それ以外の地域でも20%、全世界で16%のシェアを持つ。
業界動向 政治的側面では、欧米では健康に良くないという理由で様々な規制がかけられています。米国では相変わらず訴訟問題やFDAによるタバコ審査制の導入、欧州では、たばこの宣伝を未成年に触れさせないような政策(広告宣伝禁止、公共の場では一切禁煙とか)が年々強大化しています。 が、各国ともたばこがもたらす税収の魅力が本音で、政治的には「生かさず殺さず」じゃないかと思います。日本もこれに倣おうとしているように見えます。 タバコの販売本数は、先進国減、新興国増、全体微増の傾向で来ていましたが、今回の不況で新興国でも減少となりそうです。これは各国の大幅なたばこ増税が影響しています(ウクライナでは約2年でマールボロの価格が1.7倍以上に跳ね上がった!)。 上記は米国と免税店を除く世界のタバコ本数ベースの推移(PMのIR資料から)。2004~2008年は年率0.2%で成長。しかし、2009年は-2.4%の数量減の見通し。PMによると、失業率の増大と増税がモロに数量減に響くとのことです。 規制への対応には膨大なコスト(政治献金を含む)がかかること、広告宣伝が大々的にできない(F1グランプリには広告できなくなった)ことは逆にブランドロイヤリティの安定化にも寄与し、結局は巨大企業が益々巨大化するという寡占化になりつつあります。 また、値上げができるので、数量減・単価増で売上がイコールでも(実際には売上増になっている)、数量減なのでコストも削減できるため、利益が増加するという現象が起きています。 新興国は数量増、先進国は単価増を基本的な販売戦略としています。
ボストンコンサルティンググループのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントによると、成熟産業でキャッシュフローが潤沢で、参入障壁が高くプレーヤーも少ない産業は 「Cash Cow:金の生る木」 と呼ばれています。たばこ産業はここに位置します。これがミソ!
また、先進国の一部ではスカンジナビア生まれのSmokeless Tobacco、SNUS(無煙たばこ、スヌース)が流行りつつあり、他人に迷惑をかけずにタバコを楽しむといったトレンドがあります。米国では、普通のタバコは年3~4%程度本数ベースで減少しているとのことですが、無煙たばこは逆に5%程度成長しているとSNUS世界ナンバーワンメーカーの、Swedish Match(スウェ-デン)はHPで述べています。 SNUSはティーバックのようなものにタバコの葉を詰めて、歯ぐきと口の間にはさんでタバコ味を楽しむもののようです。紙巻き、フィルター付、といった工程が不要なため、コストも低く、粗利率も高いため、フィリップモリスUSA、PMとも成長分野として攻勢をかけています。 こんなイメージの商品(Swedish Match HPより) 成長戦略 以下は当社の基本的な株主へのコミットメントです。 為替変動中立ベースにおける、年率ベースでタバコ販売本数1~2%増、税抜き売上4~6%増、営業利益6~8%増、EPS10~12%増を5年程度の平準化した年率業績目標としています。 販売本数1%は内部成長で、2%の場合はM&Aを含めるとしており、基本的に大型買収はしない方針です。 先ほどの世界のたばこ本数が微減のマクロ環境でも、しっかりやっていけるとCEOは述べていました。また、規制強化の動きについては、3~5年程度の見通しなら十分 「Manageable」だと自信を持っていました。 株主還元 前回のJT編でもお伝えした通り、PMのFCF創出能力はピカ一で、そのFCFの活用をわかりやすく述べています。約190億ドルの資金のうち、設備投資8%、買収14%、配当28%そして自社株買い50%となっています。株主還元率78%!
投資目的 増配による安定的なインカムゲインを狙っています。 当社の事業地域は米国以外ですが、NYSEにドル建てで決算提出を行っており、ドル安(結果的に円高)対策としての保有目的もあります。ドル指数が安くなると株価が必然的に上がりがちになると考えています。
簡易SWOT分析 強み : 世界一位のタバコメーカー。不朽のブランドマールボロを擁す。過去の株主リターン実績、FCF創出力は抜群!(「株式投資の未来」ご参照)。現地マーケティング力もついてきた。 弱み : マールボロ一本足打法で、同ブランドに万が一のことがあったら...(マールボロフライデー) 機会 : タバコは値上げが効く。規制のおかげで中小メーカーの市場撤退、M&Aチャンス拡大。特に新興国市場の参入余地は引き続きあり。スヌースの拡販など。ドル安傾向は歓迎。長期的には世界最大の市場、中国への参入チャンス。 脅威 : 経営陣の想定外のたばこ規制の高まり。 なお、当社CEO、ルイ・カミレリはNYSE上場企業の中でもトップ5に入る高給取りで、コーポレットジェットの私用利用などを含めると総額40億円相当の役員報酬を受けている。 強み×機会 = マールボロを柱にしつつも、現地事情に合わせたきめ細かいマーケティングで規模の経済を最大限に生かす。新興国市場へは、まずM&A、次にシェア拡大、最後に値上げという基本戦略。中国の市場開放が待たれる。
過去の業績推移
2007年までの過去実績はアルトリアグループ時代のPro-Formaベースです。 売上高、EBITDA、EPSともおおむね10%成長を遂げています。2009年はさすがに苦戦模様です。 日本ではJTの約65%に次いで約24%のシェアを持っており、「マールボロブラックメンソール」に対し現地マーケティング力の高さをPMは評価しています。このブランドは日本の全タバコでもシェア1.6%を持っているヒット商品。現在、香港・台湾等に拡販中。
2008年地域別販売実績 世界約130カ国で販売されており、広く分散されています。
期待リターン 安定増配(10%内外)を継続してもらうこと。出身会社アルトリアグループはフィリップモリス時代を含めて、過去43年で40年増配した実績がある。 リターンの試算
2010年、11年はやや低い成長率を見込み(2010年度の株価成長がない前提)、それ以降は会社コミットメントを固めに見て7~8%のEPS成長を期待します。DPSも年7%程度の成長を期待します。 期末EPSに実績PERをS&P500の平均実績PER15倍と見込むと、年間トータルリターンは10%台前半で推移するはずです(配当金税引き前ベース)。ちなみに09年はこれまでに30%近いリターンがある。 仮に2014年に予想株価65.85ドルで売却した場合は税引き前IRR16.5%となります(ただし売る予定はない)。 楽天証券には配当金再投資制度がないため、少し残念です。
目標リターンについては、将来のことを過度に保守的に考えても仕方ないため、理論的現実的なターゲットIRRを15~16%に置いています。リターンのリスクはPERが15以下になる場合ですが、当社は米国内の訴訟リスクがないことと、高目の配当利回りが株価下落を防止しますので、13~15の範囲内でいいと思います(ちなみにPER13倍でもIRRは13.6%)。 上記試算はEPS成長率を会社コミットメントの7割程度で見ています。 (投資判断は自己責任でお願いします) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/12/23 06:34:32 PM
コメント(0) | コメントを書く
[ポートフォリオ分析] カテゴリの最新記事
|