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カテゴリ:投資一般
非常に面白かった。
著者グレコリー・ザッカ-マンはウォールストリート・ジャーナル誌の金融記事の記者です。 阪急コミュニケーションズからの出版です。思ったより安かった。 NYのヘッジファンドマネージャーであり、サブプライムローンバブル崩壊で大儲けして名を馳せたジョン・ポールソン(JP)を中心に、サブプライムローンバブル崩壊までの一部終始について、さまざまな角度・証言者から取材して述べられています。 一世一代の大投資で一発当ててBigになりたいという純粋な野心と、他人の不幸で金儲けを行うことに良心の呵責を感じる投資家など、さまざまな心情が詳しく書かれています。 複雑な金融の仕組みがわからない人でも、要するに著者は、JPは掛け捨て保険に加入して、予想通り保険事故が発生して大当たりした結果儲かったのだ、というシンプルなロジックにとどめていますので、理解可能だと思います。
JP以外にも、複数の投資家、投資銀行家、個人投資家が登場してきます。彼らはみな、住宅市場がいつか崩壊する、という点では同じ予想だったのですが、それぞれの微妙な立場の違いや手の打ちかたから、違った結果や達成感・失望感を味わっています。
金融バブルという経済社会現象の発生と崩壊を通じ、慢心した金融業界、行政、また組織を守るサラリーマン心情、および大金を稼いだ男達のさまざまな時点における細かな心情変化を織り交ぜた詳細な人間模様が描かれており、 私はてっきり小説ではないかと思ってしまいましたが、読み終えたあと、ノンフィクションであったことを改めて知った次第です。それぐらい面白かった。 「まるで推理小説だ」(ニューヨーク・タイムズ)というのは、まったく同感です。
ヘッジファンドや空売りとか、金融は虚業だとかの給う人々こそ読んで欲しいという思いです。
サブプライムバブル崩壊に賭けて成功した投資家(注:立場によって達成感の自覚が違うところが面白い)に共通していたことは、住宅ローン証券化商品の専門家は誰一人いなかった点です。不動産投資で名を馳せた人はいましたが、みな感覚的に、「こんなことはありえない」という常識感からしっかりした調査に基づき、その調査結果を信じて、最後まで自分を守り通した人だけが成功しています。
ただし、ヘッジファンドマネージャーの中には、手を出すのが早すぎた人などは、自分の投資家から「住宅市場崩壊に賭ける取引に投資するために君に投資しているのではない。さっさと引き上げろ」といわれ、投資を縮小させられたものもいます。
ドイツ銀行のリップマンは顧客にサブプライムローンのCDS(ローンがデフォルトになれば価値が上がる掛け捨て保険)を販売し、自分でも会社名義でCDSを買っていました。一方、ドイツ銀行の隣のオフィスではサブプライムローン証券を保有しているといった有様でした。 銀行幹部は、「無駄な」掛け捨て保険の取引を早く辞めるように再三再四リップマンに忠告していましたが、かれは上司と対立してでも、立場を貫き、見事当てました(ドイツ銀全体の損失を相当カバーしていた)。 彼はベアスターンズ証券の破綻で、10億ドルぐらいの純利益を銀行にもたらしたおかげで、ボーナス5,000百万ドル(多分50億円ぐらい)をドイツ銀行株で得てしまったため、リーマンショック後に価値が70%も暴落し、上司から「扱いにくいやつ」というレッテルだけが残ったようです。
ベアスターンズが破綻して、リーマンブラザーズが破綻するまでの間、こういった投資家達は、金融アルマゲドンの始まりが必須である、と感じるようになっていて、若手投資家のアンドリュー・ラーデは、一切の取引を打ち切って資金を銀行口座から引き上げています。そのときの心理状態を著者は「チップを稼ぎすぎてカジノを破産に追い込みかけているギャンブラーのようだ」と形容しています。
この本を読んではじめて知った、ウォール街の一面 2005年ごろには各投資家は、住宅価格の上昇が終われば、延滞率が増加するだろう、という仮説をしっかり描いていた(延滞が始まれば、借入人は新規のローンに鞍替えするが、住宅価格の上昇が止まれば、担保不足で借り換えが出来なくなるから)。さらにバブリーな地域はカリフォルニア、ネパダ、フロリダとおおむね絞っていた。これはそのとおりになった。
したがって彼らは住宅価格の上昇率が頂点となった2006年ごろに、そういった地域で05年以降に組成された住宅ローン債権によるCDSを買うことにフォーカスしていた。彼らは、周りがみな住宅価格には強気で、ばか者扱いされていたが、2008年には決着がつくはずだ、と予想していたし、見事そうなった。 (ただし、そこまで持ちこたえるのには並大抵の忍耐力ではなかったようだ。誰もがみな「何か見落としていることがあるのではないか?うまく行き過ぎている」と不安に駆られていたようだ)
特にJPは、1970年代からの住宅価格の趨勢を調査して、住宅バブルの頂点の価格がどのくらいの割高感なのかをかなり正確に把握していた(彼は2005~2006年にかけた住宅市場は過去の持続的な住宅価格のトレンドから40%近く割高であると結論付けていて、バブル崩壊後、ほぼ彼の言うとおりの価格水準で今は推移しているといっていいかもしれない)。
まだ、ポールアレン、ジェイミーダイモン、ジョージソロスなど大物が登場して、いろんなことが述べられています。ベアスターンズやリーマンブラザーズの破綻は流動性危機なんかではなかった。これ以上はネタバレになってしまうので、控えます。
教訓を得るとすれば、自分なりの分析や考えをしっかり持って、取引に対峙すべし、という点とリスク管理は怠らないようにする以外にないだろう、ということか。あとは一歩引いて、一般常識に照らし合わせて物を考える習慣は重要だろう。サブプライムローンは、そもそもそういった観点で考えれば、絶対におかしかった。 お隣の国で起こっていることにも注意が必要だ。中国不動産向け貸付金のCDSがあったら飛ぶように売れるだろうか? みんなでわたる赤信号ほど怖いものはない、ということだろう。
(個人的には、サブプライムローンの存在は、絶対に理不尽だと思っていたが損害がこんなことになるとは想像できなかった)。
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Last updated
2011/01/23 10:45:07 AM
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