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2009.08.03
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カテゴリ:作品紹介
こんばんは。ごんどうごんぞうです。
ボクは久しぶりに仕事が忙しくなり、またおらがのラジオ体操も
今年こそはぜひ続けねば!と考えおりまして
ブログが滞りそうです。そうなったら、ごめんね。
メッセージ、全員届いてましたよ。待ってて下さいね!
なるべく早く送らなきゃなぁ~。待たす程のものでもないし・・・

で。今夜はゆっくり時間がないと読めないように長い読み物にしました(笑)
しばらくは、これでご勘弁をー。では。


『最後のレースくらい当てて、気持ちよく花火を見たいもんだな』
私は、馬券をにぎり、煙草に火をつけた。
ターフビジョンには、夏の夕暮れの遅いレース中継が映し出されている。
いつもなら、観衆のたくさんのため息と、少しの歓喜の声に包まれるのだが
今日はそのため息も歓喜の声も、花火待ちの多くの客のざわつきに
すっかり飲み込まれてしまっている。
昼の客層とは少し入れ替わって、家族連れが増えている。
中には三世代で来て、花火を楽しもうという平和な家族もいる。
孫の事を気遣ってか、あからさまにイヤな顔をして、
煙草を吸う私を、初老の紳士がチラリと見る。
にらみ返すと、紳士は目をそらした。
『競馬場やパチンコ屋まで禁煙にはならねえよ。最後の砦だ』
私は、権利を主張するように、思い切り深く煙を吸い込んで
少し咳き込んでしまった。紳士が心の中で笑っている気がした。
咳き込みながら、『くそっ!』馬券をにぎりつぶながら
携帯用の灰皿で煙草をひねると紳士は今度は、なかなか感心と微笑んだ。

私は土日を、ほとんどここ中山競馬場で過ごしている。
中山でのレース開催に関係なく、他の競馬場のレースにも賭けて一日を過ごす。
一週間働いた全財産を持ってやって来て、負ければ
『また一週間仕事をすればいい』と、オケラ街道をとぼとぼ帰り
勝てば帰りにいつもよりたくさんの酒を飲んで帰る。そんな繰り返しだ。
中山競馬場の花火は「日頃の感謝を込めて」という事で
毎年、8月の最初の日曜日の夜に開催される。
近隣の住民には、週末の迷惑に対する「お詫び」も込められているのだろう。
私は毎年、大きな花火を2~3発上げれるくらいはJRAに「貢献」している。
同じ日の繰り返し、同じ週末の繰り返し、そしてこの花火大会が
私にとって、同じ一年の繰り返し地点となっていた。

私の席のとなりの2席は、ビニールシートが敷かれたまま、空いている。
チラリとその2つの座席を見ながら、缶チューハイのプルトップに指をかけた。
指先に力を込めて、プルトップを引き上がると
炭酸が「プシュ」と音を立てて、手の甲にかかった。
その手の甲が急に日陰になった。
陰の先をたどると、普段の競馬場には似合わぬ
向日葵のプリント柄のワンピースを来た女が立っていた。
大きなクーラーボックスをかかえた女は
「ここよね?」と連れの若い男に聞いた。
何も言わずに、若い男は首を縦に振った。
いつもの事なのであろう、返事を待たずに
女はクーラーボックスを両手でかかえて足元に置いた。
ノースリーブの二の腕は少しのたるみもなく、
汗は小さな粒のまま、キラキラ光るのは若い証拠なのだろう。
女は私の隣の席に座る時、小さな声で「すいません」といった。

女の向日葵柄のワンピースとは、とても釣り合いがとれない
病弱そうな若い男は、まるで昔の競馬場にいそうな若者だった。
買っても買っても当たらない、うつろな目でスタンドにへばりついているアレだ。
「早速ビール飲むけど、何か飲む?」
女は男にクーラーボックスの蓋を開けながら、尋ねた。
「いや。お茶でいい」
無愛想な返事をする男だ。女はそれでも笑顔で
「そう?じゃあはい。お茶」
と保冷剤をよけながら、ペットボトルを1本持ち上げ
水滴をハンカチでぬぐい、紙コップにそそいで彼にそれを渡した。
開いたクーラーボックスをチラリとのぞくと
おそらくおにぎりであろう銀のホイルに包まれたものが数個。
おかずらしきものが入った密封容器が数個。
そして、ビール類が6本パックがひとつ。
花火が始まるまで、あと30分ほどだ。
余計なお世話だが、おそらく二人では食べきれないであろう量が
そこに入っていた。

「おにぎり食べて。玉子焼きも、ポテトサラダもあるから」
密封容器とホイルに包まれたおにぎりを出し、クーラーボックスの蓋を閉め
女は蓋の上にそれらを、キチンと並べた。
この女は、今時珍しい世話女房タイプなのかも知れない。
男は黙って指示通り、おにぎりを頬張り、密封容器の玉子焼きに箸をのばした。
「ダメでしょ?こぼしちゃ」
女は子供を叱るように、強く優しく男に言った。

『飯事のようなシアワセだな。これも若さの特権か?』
そんな二人を見ていて、私は思った。
花火打ち上げまで、もう少し。
ドドドンドンドン!まずは打ち鳴らされ始めた
和太鼓が空腹に響く。
「あのー」女が私に声をかけた。
「もし、よろしかったら、手伝っていただけませんか?」
と私の空腹を察したかのように
笑顔で割り箸を差し出している。
返事に困っていると、後ろで無口な若い男もこちらを見て微笑んでいる。
「花火、始まってしまったら・・・食べれませんし」
二人のあまりの優しい笑顔に、つい
「じゃあ、遠慮なく」と割り箸を受け取った。
玉子焼きを一口で頬張る。
甘さと塩加減が絶妙だ。こんなに美味しい玉子焼きを食べたのは久しぶりだ。
「これもどうぞ」と女はおにぎりも差し出してくれた。
海苔のしっとり感と、米の炊き加減、梅干しの美味しさ。
夢中になって食べてしまった。
「そんなに慌てて、食べなくても大丈夫ですよ」
女はまた、子供に言い聞かせるように、しっかりとそして優しく言った。
ちょっと喉につかえた私の様子を見て、
女は「大丈夫ですか?」と紙コップのお茶を渡してくれた。
お茶を飲み干してから
「いや。あんまり美味しかったもので・・・つい」というと
「ホントですか?よかった。お口に合って。ね」
と彼の方を振り向きながら笑った。

あたりはもうすっかり、夜のとばりがおりていて
観客もそろそろ落ち着いて、通路を動く人影もほとんどなくなっている。
「これは花火が始まっても大丈夫ですよね?」
と彼女は冷えた缶ビールまで手渡してくれた。
「すいません。なんか。そうだ!本当につまんないものですけど・・・」
と私は今日買った馬券の一枚を二人に差し出した。
「名前が面白いんで、100円だけ単勝を買ったんです。来ませんでしたけどね」
二人はその馬券をじっと見つめて男がいった。
「いいんですか?頂いて」
「ああ。そんなもんでよかったら、でも何回もいうけどハズレ馬券だよ」
「はい。ありがとうございます」
その時、花火大会の始まりの合図のファンファーレがなった。
G1レースのファンファーレである。
有馬記念と同じように、場内は拍手と歓声に包まれた。
音楽とともに花火が次々と打ち上がる。
直線のコース沿いにいろいろな色の花火が交錯する。
感動的な音楽と、花火の美しさに、自然と涙がこぼれそうになる。
花火を見て泣くなんて事は、他ではない。
きっとこの音楽と、間近な感覚のせいだと思う。
私は毎年、つい涙をこぼしてしまう。
そして「今年も来れてよかった」と思い、「来年も来れるといいな」と思う。
このオープニングのささやかな感動の為に
一年間過ごしているといってもいいのかもしれない。
何もない人生を過ごしている男の、ひとつの区切りなのかもしれない。
女の声がした。
「来年も頑張ってこようね」
彼の返事はなかった。
何かの事情は最初から感じていた。
それが何なのかはわからないが、私は二人に心の中で言った。
『頑張ってまた来年会いましょう』
打ち上がり続ける花火を見ながら、
二人にあげた馬券の馬の事をふと思い出した。
『今度は来るかな?〈ネガイハカナウ〉』


グッドラック。

※実は最後に来る〈〉内の馬名なのですが、なんかシックリ来ないのです。
あなたなら、どんな馬名にしますか?教えて下さい。
原作は〈リョウリジョウズハトコジョウズ〉だったんですが・・・
内容的にも、またJRAの馬名は9文字までですから。








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最終更新日  2009.08.04 00:16:28
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