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カテゴリ:作品紹介
今夜は第五夜です。
主人公は成り行きとは言え、数時間の内に二人の女性を抱く事になります。 それも何回もってか?若さって凄いねー! ボクなんか好きなくせに1回しか無理なのに・・・ってほっといて下さい。 そうですね。ボクの人生においては、今までもそしてこれからも 絶対ないシチュエーションだと思います。願望だろって?そうかも(照) といいますか、蒼井空先生の言いたいのはそこじゃないと思うんですけどー。 お楽しみ。 「今年もサクラ、やっと咲き始めたねぇ」 八重子は素肌にタオルケットを巻いて、窓辺で煙草をくゆらせながら、そう言った。 その二階の部屋からは、チラホラと咲き始めた駅の桜並木がちょうど見えていた。 私は八重子のそばに裸のまま寄っていき、身体を寄せた。 八重子はステレオに載っていたレコードに針を落した。 演歌か何か流れて来ると予感したが、思いがけなく、全く似合わぬ悲しいピアノ曲が流れて来た。 「なんて曲ですか」 「別れの曲。ショパンの」 「……俺、あと少しで、東京戻ります。就職が決まってるんで」 「あんた、もともと京都の人ちゃうもんな」 「わかります?」 「発音がちゃうから。そっか。お別れやな。じゃあこれは就職祝い……」 八重子は私の身体を押し倒し、覆いかぶさって来た。 一人寝床の中で何度も想ったその女性が、悲しい曲に合わせて、優しくゆっくりと、私の上でリズムを刻んでいる。 八重子の店を出た時は東の空がもう明るくなり始めていた。 左目はまだ痛んだし、鏡で見たらはっきりと目の回りが紫色になっていたが、その代償に素晴らしい時間を得た。 スキップしたい気分で下宿にたどり着き、部屋のそばまで来て、我が目を疑った。 ドアにもたれて、美代が眠っていたのだ。私の足音に気づいて目を覚まし、 立ち上がってGパンの膝やお尻を手で払いながら、半分眠ったまま、おかえりと言った。 「ずっとここで待っとったんか」 「うん。ずいぶん長い銭湯やな」 私の洗面器に気づき、美代はとぼけた事をいった。 石鹸箱だけがコトンと笑った。 私はドアを開けて、美代を中に入れた。 美代は敷きっぱなしの布団の上にちょこんと座り、改めて私の顔を見て驚いた。 「どうしたん? その顔!」 「ゆうべ、美代を殴った罰が当たった。ごめんな」 「何があったん? あれから」 美代を殴ってから、つい先程までの事は決して話せないと思っていた。 「今まで……あの人のとこ、いっとったん?」 美代は勘の鋭い女性だった。 最初に肝心な事を聞かれたので、私は動揺して否定すら出来なかった。 美代は情けない顔になると布団にそのまま倒れ込み、顔を伏せてしまった。 そしてしばらく声を殺して泣いていたかと思うと、いきなり顔を上げて言った。 「わかった。私も抱いて。あの人よりもイイって思わせてあげるから」 そう言うと、両腕を私の首に絡めて、唇を激しく重ねて来た。 美代は見た目と違って情熱的であり、そのギャップに嵌ってしまうのかもしれない。 私は先程、八重子に学んだ手順で美代を悦ばせたいと思った。 腕の中にいる美代を初めていとおしく感じ、目を閉じたままの涙で濡れた泣きぼくろにキスをした。 八重子とは違う、弾き返すような感触の若い美代は、私を再び興奮させ、簡単に虜にしてしまった。 寸時のうちに二人の違う女性を抱く罪を感じながらも、美代と一緒に深く解けて堕ちていこうと思った。 「ねえ、あなた。京都のマンション、あのあたりなのね? 懐かしいでしょ」 妻の美代が笑いながら言った。 美代は女子大の四年の冬に出産し、卒業すると同時に式をあげて、親子三人、東京で暮らし始めた。 美代から妊娠したと聞いた時は流石に驚いたが、その時は既に結婚の約束をしていたので、 その時期が多少早くなるという位で、激しい動揺などは一切しなかった。 その後は二人で一人息子の京一郎の為に一生懸命働いた。 その京一郎もすでに家を出て、近くに住んで自立している。 「うん。もう二十五年も前の事だ。忘れてしまったよ」 「そう? 会いたい人とかいるんじゃない」 すっかり関東弁になった美代だが、あいかわらず、勘の鋭い事を言う。 「そんな事より、お前は一人で大丈夫なのか」 「ご心配なく。テニスに水泳にヨガでしょ? スケジュールいっぱいよ。それに京一郎もちょくちょく来てくれるって言ってるし」 「そうか。それならいいが……」 あの一夜から八重子とは結局逢えず仕舞だった。 京都での残りの日々を美代と過ごしたからだ。 あれほど八重子に夢中だったのに、美代とずっと一緒にいたいと思うように変わったのは、純粋な愛ではなく、 無意識のうちに二人のいろいろなものを天秤に掛けて、実は計算高く選択したのだろう。 関係を持った時点で、今後どちらが自分に都合いいか、打算で選んだのかもしれない。 美代を選んで、八重子は捨てたのだ。八重子はあの後、私を待っていたのだろうか。 私は後ろめさもあったが、もう一度会いたいと思っていた。 あの頃会いたくて仕方なかった気持ちとは少し違う、 この歳になってやっと芽生えた純粋な感情なのかもしれない。 そして京都に着いて一番に八重子の所へ向かった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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