のらりくらりと行きたい

前オーナーのおかまっちがサロンを買う前、この場所はやっぱりヘアサロンだった。

昔ながらのパーマ屋って感じで、当時のオーナーのキューバ人のおばちゃんのイザベルは敬虔なカソリック。お客さんはアメリカ人やキューバ系のおばあちゃん達で、カーラーでセットした後逆毛を立ててスプレーでガッチリって感じの人ばかり。
内装も緑のじゅうたんに花模様の壁紙。おかまっちは全部とっぱらってコンクリート剥き出しの床に銀のフレームの鏡に取替え今のサロンが誕生した。
おかまっちが買った後もイザベルはしばらく働いていてクリスマスはおばあちゃん達がチェロを弾いたりしながらクリスマスキャロルを歌ったり、手作りのチキンスープやパイを持ってきてくれたり。あれはあれであったかい雰囲気であった。

そんな１９９９年当時、予約はもちろんデカイ予約ノートに鉛筆で手書き。変更があれば消しゴムで消し書き直す。カラーのフォーミュラ（配合法）や顧客の連絡先などもカードに書き込み毎回箱にしまい込む。
ミレニアムを過ぎしばらくした頃、おかまっちが一大決心してサロンの管理をコンピューター化することにした。そして搬入されたMac２台。今と違って分厚いブラウン管みたいな形のスクリーン。デカイ箱型ハードドライブ。これに１週間ほどかかってデータを打ち込み商品のコードを打ち込み、全部終了した日からキッパリと予約ノートとはおさらばした。

今は３台に増え、スクリーンも薄型。サロンの管理ソフトも何度もバージョンアップして情報量も以前とは比べ物にならない量になっている。

このサロンの命綱が昨日クラッシュした。
権造が４時半頃に仕事を終わってチビを迎えに行った直後だったらしいのだが、突然画面がパカパカした後３台すべてブチっと切れる。以前も停電の時に切れたりフリーズしたりはよくあったのだが、パカパカ→真っ暗というパターンは初めてで、鉄の女クラウディアはイヤな予感がしたそうだ。
予感は的中し、その後女王がカリスマ仕事を終了して帰る９時になっても依然として沈黙を守るMac。６時頃にさすがにヤバイとジョージはソフトの会社に電話してあれこれ試してみたのだが全くダメらしい。７時半頃にすでに諦めモードでとりあえず手書きと電卓の計算で売り上げ計算や伝票を作り、１０時半頃にやっと帰宅したらしい。

そんなことも知らずにふら～りふらりと権造は今朝８時半過ぎにサロンに到着。
おっはよーと元気に入っていくとすでにヨレヨレなジョージと眉間にシワを寄せているクラウディアの姿が。あ？お二人ご機嫌よろしくない？？？と事情を聞いていたら、フロントデスクの下からぬっと現れたのがジョナサン。権造のお客さんである。
この兄ちゃんは以前の日記にも登場した企業や個人のPC管理やトラブル解決に毎日走り回っているフリーのMacテクニシャンなんだが、飲んだ次の日なんかはカットのアポに寝坊して来れなかったり１０時の予約もモーニングコールしてたたき起こしたりする位の朝苦手野郎である。
ちょっと～～～～、この時間から活動できる体だとは知らなかったんだけど～～。
あ～～～ジョージが６時半に電話してきてね、、、。
電話いつも出ないくせにぃ。
ゴンゾウと同じで出るまで何度も鳴らすんだよ、、、。
元々クマのような風貌なんだが、こちらも本人的には真夜中タイムの６時半起床７時到着でヨレヨレになっている。

権造は昨日サロンを出るときに今日の予約にずらっと目を通して帰ったので、なんとなく誰が来るかは頭に入っていた。が、９時前に到着した女王と妃殿下はまだ直ってないの？？ダレが来るのよ今日は！とヨレヨレジョージとピリピリクラウディアに八つ当たり。
あ～～～今日は荒れるぞ、と思いつつ長い一日が始まった。

思ったよりも大変なトラブルだったようで、いまだに脳内アルファ波で一杯のジョナサンは悪戦苦闘していた。フリーズしたといっては呼び出されデータがどっか行っちゃったといっては呼び出され、いつもチョチョイと直してしまうのにかなり苦戦している。予約の合間にだいじょーぶかよ、と声を掛けるとヲタクライフにこの時間は辛いぜとめずらしくコーヒーを飲んでいる。

１０時に定時出勤組のスタッフもゾロゾロやってきたんだが、全員すっかりロスト。
何時に誰がやってくるのか、さっぱり見当もつかない者が多く　ドアの方を見ながら『オレ、誰が来るんだっけ、、。』『ヨランダはカットだっけカラーだっけ、、。』『カラーのフォーミュラ忘れちゃったんだけど、、、。』『ワタクシはいつも忙しすぎるんだけど今日はさらに輪をかけて忙しくなりそうだこと、、。』サロン内は一気にギャンブル的な要素ふんだんになり、妃殿下は１０時半に○○さんの名前が書いてあったような気がする、女王の３時は△△さんだったような気がするとテキトーに人のスケジュールを乏しい記憶に基づき好き勝手に推測、混乱はますます深まっていった。

ジョージ、バックアップしてなかったっけ？？
とふと気付く権造。そして権造はラップトップ持参。せめて予約だけでも見れたら混乱は少しはマシになるのでは。。。
あ～～～車の中にある！！と走っていったジョージ。帰ってこないのでアシスタントにパシらせてみると、どうやら車の中引っ掻き回して探してるが車内に置いてあった鞄の中に無いらしい。。家に電話し家人に家宅捜索させ、クラウディアはオフィスを捜索。が、消えてしまったバックアップメモリ。
こんな時に限って。。。。

ジョナサンは１１時半頃になりようやくアルファ波とおさらばしベータ波におはようさんしたようで左手に自分の携帯（Macと連絡中）右肩にジョージの携帯（ソフト会社と連絡中）を挟んで右手でキーボードを打っている。よくもまー目と耳と口と手がバラバラに動くもんだと感心しやっぱりあの脳内回路はスゴイんだなぁと再確認した。真剣に仕事してるのは初めて見る。見かけはクマだがなんだかカッコイイ。

活力みなぎるヲタクってのはすごいパワーを発揮するようでその後３０分で少しずつ回復。１２時過ぎにすべて復帰。ああ～～～終わったよ～～とジョナサンはヘタリ込み、クラウディアは勝利の一服に外へと出、ジョージは朝来てそのまま放り出したフロントデスク上の自分の上着やらファイルやらを取り上げた。
そしてその下には２本のUSBメモリ。。。。。。
あああぁぁぁぁ～～～ジョージ定番で床に崩れ落ちる。
そんなジョージをよそにとりあえず帰って寝たいとジョナサンは電話で午後に入っていた自分のクライアント廻りをずらしてもらい、早々に退散していった。

昨日の夕方の時点でクラッシュしたので昨日のバックアップはしておらず、昨日は入った予約はすべてどこかに吹っ飛んでいる。クラウディアが着信履歴の名前と記憶を元に出来るだけ思い出したお客さんには電話をし、『いつ何やりたいんだっけー？』と確認。
その後、昨日の伝票の打ち込みなんかの打ち込み、昨日出来なかった分の予約の確認などなどフロントのクラウディアとジョージには大量の仕事が残されて、権造が帰る頃にはこの２人は廃人のようになっていた。

一体何がどうしてクラッシュしたのか、全く権造には見当もつかないが、こういう『普段フツーに使っているが実は全く分かっちゃいない』モノが壊れたり使えなくなってしまうのは本当に不便であった。電話が鳴っても予約も取れず全てノートに手書きで書いて復帰後にかけ直してやり直し。クラウディアは今日一日でタバコ何箱吸ったんだろう。。

初めてサロンにPCがやってきた時は予約ノート無しでどうやっていくんだろうと不安になったが慣れというものは恐ろしい。スタイリストの場合、カラーのフォーミュラが分からなくても実際にお客さんの髪をみれば確実にフォーミュラは出来る。が、フロント業務は全く麻痺状態で今後のドデカイ課題になりそうだ。
古きよき時代とは違って今はスタッフもお客さんも比べ物にならないくらい多い。予め便利に作られているソフトで管理するのはいいが、実はすっかりこちらが管理されているようだ。トラブル時に電話で対応してくれるテクニシャンも１分何ドルとかしっかり有料らしい。今日と昨日でジョージは何時間喋ってたんだろう。。。
結局、あれだけ楽しみにしていたマッサージにも行けずに泣く泣く来週木曜日に予約取り直していたが、初のトラブルにジョージもヘトヘトであった。
みんなお疲れさんの一日であった。

はぁ。。そして権造の一日はまだ終わらない。
明日はチビのクラスでバレンタインのパーティがあり、今からそのとき持って行くグディーバッグというお菓子やオモチャの袋詰めを計３８個作らねばならない。
１時頃には終わるだろうか。。。
ああ、１１時だ。。。今からお仕事始めマス。