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2009年09月13日
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カテゴリ:雑談
先日、検診に行った時、待っている間に雑誌を読んでいてなかなか素晴らしい記事があった。
『More』という雑誌に載っていたその記事、全部読み終わらないうちにアヒア先生が登場となったのだが、本を閉じかねていた権造を見てナースがコピーしてくれた。

ユタ州のソルトレイクシティでノンプロフィットビジネスを持っているデニスさんと言う47歳の女性の話だった。
この人は元々鍼灸院を経営していた針師だった。一日20人から25人も患者を診るという忙しくも安定した生活を送っていたのだが、41歳にして急に今のままでいいのだろうかと悩みを持つようになる。診ている患者の多くは病気と言うよりも孤独だったりストレスを抱えていたり精神的に病んでいる人が多いように感じられる。
『孤独感と言うものはこの国で「病気」と診断の下される事のない病気なんじゃないだろうか。自分に何か変えられることはないのだろうか。』と思ったデニスさんは、そんな人達に社交の場を提供しようと、飲食業の経験がまったくないまま小さなカフェを自分の診療所の入っている建物にオープンした。

が、カフェの経営は全く上手くいかない。掛け持ちで出来る事ではないと思い鍼灸院の方を閉め、5人雇った従業員にも去ってもらい営業時間を延長して買出しから調理や片づけまで一人でやる事にした。
先の見えない状態は続き、鍼灸院での蓄えはあっという間に底をつき、クレジットカードは限度額一杯になってしまい、家賃も滞るようになり、ついには自分の車まで差し押さえられてしまった。

そんなある日。
もはやサンドイッチに使う肉類も底をつき買うお金も無くなってしまい途方にくれているところに一人の男の人が入ってきた。ドジャースと名乗ったその人は『自分は今現金を持っているが料理をする場所が無い。お金を渡したら何か作ってくれるか?』と50ドルを彼女に差し出した。ドジャーズと一緒にスーパーに向かう途中自分の現状を話したデニスに、ドジャースはサンドイッチ用のロースとビーフとターキーも買ってくれた。
それから1ヵ月後。過去の色んな経験から自分の直感を信じる事にしていたデニスにある考えが浮かんだ。
値段と言うものを取っ払って、客に『自分が払いたいだけの金額』を払ってもらったらどうか。
その考えは頭から離れず、デニスは実行してみる事にした。
記念すべき第一号の女性は『自分で値段をつけてください。』と言われ、一瞬うろたえたものの笑ってお金を籠に入れて帰っていった。

それが大きな転機となった。
レストランの常識をくつがえしたこのカフェは口コミで人が集まるようになり、サンドイッチとコーヒーを出していただけのカフェは、地元で取れた素材を使った料理を出すようになった。
そして2003年に『ソルトレイクシティの「ワンワールドカフェ」は飲食業界の最も基本とされる二つのルールを打ち破った:メニューも無し値段も無し。』という見出しで記事になり、地元の人達のほかに遥か遠方からも人が集まるようになった。

それから2年かけて途方も無い負債を返し、2006年にノンプロフィットビジネスとして許可を受け、デニスは『飢えを無くす』と『浪費を無くす』という二つの目標を掲げて、レストランでもカフェでもない『コミュニティキッチン』として新たなスタートをきった。One World Everybody Eats Foundationという財団を立ち上げ、ボードメンバーを集め、自分は一従業員となる。その後はデンバーで同じようにSAME café(So All May Eat)というカフェを立ち上げた人達を助け、2008年には姉妹キッチンを開店し、確実に成功していった。
規模が大きくなる過程で採算合わなくなり再び負債を負ったり財団のボードにより長年一緒に働いたスタッフやマネージャーが解雇されたりとトラブルはあったのだが、スタッフ達が解雇された時は昔のように一人でキッチンに入り乗り越えた。

そして今年の6月に6年目を迎えたOne World Everybody Eatsでは、オーガニック製品を使ったバフェスタイルで相変わらず客が思った金額を払うというシステムで続いている。
『食べられる以上の食べ物を皿に乗せない。』というのが唯一のルールだそうだ。
そしてお金の全く無い人は『一時間の労働=一食』として、サラを洗ったり野菜を切るのを手伝ったりフロアの片づけをしたり外の芝刈りをしたりして労働を提供しているそうだ。
常連であるソルトレイクシティの市長はじめ、ビジネスマンからホームレスまで知らないもの同士が相席して食事をする、まさにコミュニティキッチンとなった。
ここは素材を使い尽くし無駄なものは一切省き、同じ規模のレストランと比べると遥かに出るゴミの量も少ないらしい。食材の残りは堆肥にして有機農業に使っている

いくつか数字が出ていたので書いてみると:
$370,000.00―――2008年に食事と引き換えに受け取った『寄付』
$288,000.00―――1年にかかる維持費
2000人以上―――2008年に一時間労働と引き換えに食事をした人の人数
200ポンド―――毎月堆肥にしている食材の残り
$15,000.00―――デニスさんの一年の給料

鍼灸院をしている頃とは比べるべくも無い収入のデニスさんだが、やっと自分の求める道を見つけたそうでとてもシアワセに毎日を送っているらしい。
『もし私達が、レストランや農業やスーパーなどの全ての「食料」が提供されたり栽培されたりしている場所において浪費や無駄を省く事が出来たとしたら、世界中が食べていけるだけの充分な食料が手に入るに違いないと信じている。』
と言っているようにこれからも『飢えを無くす・浪費を無くす』という活動を続けるそうだ。

そして最初に出てきたドジャースさん。今はこの人は永久に好きなときに無料で食事できる待遇だそうだ。



記事自体は結構長いものだったので他にもエピソードはあったのだが、大まかにまとめてみた。
権造はこういうお話が大好きである。記事として美化されてる部分もあるかもしれないが(いやになる程クリティカル思考の自分)、それでもどん底から上を向いた瞬間の話が好きだし、お金以上のものを得たという話も好きである。
よってプロジェクトXもヤラセだなんだと言われたけど大好きだったし、プロフェッショナルも感動してオイオイ泣く事が多い。
自分はまだまだ『もっと金が欲しいぃ~~。』と頭を抱える一極小市民の域を出ないので余計に憧れるのかもしれないが、こういう前をむいて生きてる人達の自分を信じるメンタリティというものをちょっとおすそ分けしてもらうのはそれだけで励みになるような気がする。



オマケ。
検診時の診察室の目立つところにこんな張り紙があった。
非常時の電話番号がずら~っと並んでいる。
photo[1].jpg
上から:
緊急-警察・消防・レスキュー
フロリダ毒物情報センター
保健衛生局
フロリダ虐待ホットライン
ドラッグ(薬物)ヘルプライン
精神状態危機サービス
レイプホットライン
危機情報ホットライン
CDC
CDC国家救援ホットライン
CDC国家免疫ホットライン

ドラッグやレイプや虐待のホットラインの番号があるのがアメリカらしいな~と思う人も、イヤそれ以上にこんな番号を堂々と目に付くところにデカデカ貼ってるところがもっとアメリカらしいと思う人も、クリックよろしくお願いします。
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最終更新日  2009年09月13日 13時55分13秒
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