093823 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

芒洋の日々 

芒洋の日々 

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
December 21, 2006
XML
イスタンブール郊外にあるSabiha Gokcen空港は、アジア側の街・カドキョイからバスで45分ほどのところにある。主要な航空会社の便は、利便性に富むヨーロッパ側のAtaturk空港を離発着しており、新しくできたこの空港はヨーロッパの格安航空会社によって使われている。交通の便は悪く、情報も少なかったため、私は途中何度も人に尋ね、一隻の船と二台のバスを乗り継いで空港までたどり着いた。アジア側は観光地化されてはおらず、日本語はおろか英語を話す人も多くないので、重い荷物を持ちながらの移動は困難だった。それでも、既にトルコに一週間も滞在しているということが私にタクシーを使わせることを躊躇わせた。

二台目のバスの中で、同じように空港に向かう若者と乗り合わせた。オランダからの彼女を迎えに行く途中で、昨夜遊びすぎて寝坊して30分遅刻しているらしい。カドキョイに住んでいるのだが、独学で身につけたという流ちょうな英語を話した。彼の話では、イスタンのヨーロッパ側の人間は自分のことしか考えず、他人とコミュニケーションを取ろうともしないが、アジア側ではまだ人々がお互いを支え合いながら暮らしているのだそうだ。私がヨーロッパ側を好きになれなかったのはたぶん同じような理由からだが、とっくに無くしてしまった素朴さへの郷愁や憧れを旅先にまで持ち込むのは卑怯である気もしていた。EUへの加盟交渉も大詰めだが(実は、このゼミ合宿のテーマの一つだったのだが)、もしトルコのヨーロッパ化ということがあるのだとすれば、一体それはこの国に何をもたらすのだろうか。

空港で彼と別れ、小さな建物のチェックイン・カウンターに向かったのは、10時半を過ぎた頃だった。それから4時間もの間、私はこの街から隔離された空港で過ごさなければならなかった。Sabiha空港の前に拡がる荒涼としたトルコの大地は、ここがヨーロッパ大陸、そしてまたユーラシア大陸の果てであることを雄弁に物語っているようであった。ヨーロッパあるいはアジアからやって来、ここを越境していったかつての冒険者たちは、この土地に何を見、何を考えただろうか。その旅の後継者ではない私は、大陸の反対側の端にあるイギリスへと、これからわずか数時間で飛んでいく。しかし、そこで再びまみえるのは、世界の中心を誇った植民者たちの子孫ではなく、その帝国に従属させられ辛酸を嘗めた人々の子孫であることが不思議だった。

フライトは予定から一時間遅れの2時40分にトルコを発ち、3時間半でイギリスのLuton空港に降り立った。イギリスの空は厚い雲と霧で覆われており、雲の層を抜けたと思ったその次の瞬間には、滑走路に機体が足を付けているほどだった。この濃霧が遅延の理由で、ヒースローなどの空港では、多くのフライトが欠航になっていたとのことだ。また、この半月のうちにイギリスは本格的な冬の季節を迎えており、機内から一歩外に出ると身を切るような寒さに襲われた。この時初めて、鞄の中に詰め込んだホッカイロの束の存在を、これは友人たちの置きみやげであったのだが、この上なく頼もしいものとして思った。濃霧、極寒、それから空港のバーガーキングで食べた1400円のファーストフードは、イギリスに帰ってきたこと実感させるのに十分だった。

空港からコーチでバーミンガムの家にたどり着いたのは、夜の9時半だった。正直に言えば、機内の中で夢うつつになりながら、次に目が覚めた時には成田空港に着いていればいいのに、と少し思っていた。ゼミ生との共同生活は、日本での多くのことを私に思い起こさせた。それに、日本語での会話が普通になってしまった頃には、母語のようには使いこなせない言葉で意思を疎通していくことを、すっかり億劫に感じるようになってしまっていた。それでも、遅く家に帰り着いた私に、夕食を用意しておいてくれたフラット・メイトの優しさは、そんなことをすぐに忘れさせた。期限付きの仮住まいであることには変わりはないが、ここが私の第二の“家”だと思った。

背負ってきた鞄を部屋に置くと、文字通り肩の重荷を下ろすように、ホッと気が抜けたようだった。しかしそれと同時に、また別の高揚感が湧き上がってくる。帰ってきて気がついたのだが、16日間というのは、私の人生の中でも最長の旅行の一つだった。これから、この旅で経験したこと、出会った人たちのことを記録し、少しずつ自分の中で消化していかなければならないが、それにしても学ぶことの多かった日々であったと思う。最初にベルリンでゼミ生たちに会った時、4ヶ月の不在の間の成長ぶりを感じたが、この旅を通して彼らが吸収していったことの大きさはそれにも増している気がする。それは、私も然りだ。ただそれでも、旅行中にずっと感じていたことは、私のフィールドはきっとベルリンでもイスタンブールでもなく、今いるバーミンガムにあるのだということだ。そういう意味では、今回の合宿は彼らの“旅”ではあっても、私の“旅”ではなかったように思う。

新たな決意を抱えて、新たな旅路を夢見て、その日私は眠りについた。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  December 23, 2006 07:11:24 AM
コメント(2) | コメントを書く
[ゼミ合宿(ベルリン・イスタンブール)] カテゴリの最新記事


PR

Calendar

Recent Posts

Category

Archives

July , 2024
June , 2024
May , 2024
April , 2024
March , 2024
February , 2024
January , 2024
December , 2023
November , 2023
October , 2023

Freepage List

Comments

ldnebf@ YPRqLZevqIHzQita pg6c60 <a href="http://temxnil…
どぴゅ@ みんなホントにオナ鑑だけなの? 相互オナって約束だったけど、いざとなる…
らめ仙人@ 初セッ○ス大成功!! 例のミドリさん、初めて会ったのに、僕の…

Profile

gotakuya

gotakuya


© Rakuten Group, Inc.
X