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不肖、焼酎アドバイザーですが、泡モノも好きです。
泡モノをおススメする時には、やはり当人の体験というものがモノを言います。スティルワインほどセパージュ(ブドウ品種の配合)や産地、造り手、ヴィンテージなどで想像しながらこういう味だろうと言い切ってしまうことは出来ませんし。
それを口実に世界の泡モノを飲みまくる、という日々です。

泡モノの頂点に君臨するのは、もちろんシャンパーニュです。
美味しいんだけど、普通のスパークリングとシャンパーニュと何が違うかと訊かれても、
「フランスのシャンパーニュ地方産のもので、ガス圧が5気圧以上で……」というソムリエ教本そのままの説明ではイケてません。
こんなとき、シャンパーニュならではのうってつけの説明方法があります。

ザッツ・エピソード語り!

「G.H.マムはF1の表彰台で使ってる公式シャンパーニュです(もしくは「君の瞳に乾杯」のアノ映画で出たシャンパーニュですとか)」
「ランソンは英国王室御用達ですよ」
「パイパー・エドシックはマリリン・モンローが大好きだったシャンパーニュなんです」
とかなんとか。
ほとんどのグランメゾンと呼ばれるメーカーで生まれるシャンパーニュには、そういうセレブ絡みの逸話があります。
今年のホワイトデーにシャンパーニュをお返しにしようと計画されている皆様には、ぜひそれぞれのシャンパーニュのエピソードをソムリエやアドバイザーに聞いてみて応用して下さい。
ひと味違う楽しみ方にもなります。

さて。
今回は、私の好きなシャンパーニュの一つをご紹介させて頂きます。
まずシャンパーニュの前に一冊の本のご紹介です。

梨木香歩訳『ある小さなスズメの記録』(クレア・キップス著 文芸春秋 2010.10)

第二次大戦下のロンドン。
傷ついた野生の小雀を拾った老婦人が、あふれんばかりの愛情で育て、共に暮らし、最期をみとるまでの実話記録。

文章そのものは、淡々とつづられていて、まさしく「記録」なのですが、そこに描かれたキップス夫人のクラレンス(スズメ=イエスズメ)に対する愛情は、見返りや依存などこれっぽっちもない、偽りない尊いものだとわかります。
それに応え続けたクラレンスの12年というスズメにしては非常に長い生涯。
たった25グラムしかない小さな命が私達にもたらしてくれる感動は、涙なしには読み終えられませんでした。
仕事で電車に乗っていた時、この本の前の訳本を読んでいたのですが、ぽろぽろ涙がこぼれ出て来て、周囲の人に不審がられる有様でした。
法律では禁止されているのですが、私の実家でもスズメを7年ほど保護していたことがありますので、思い入れはひとしおなのです。スズメの賢さは、当時一緒にいた犬以上で、ケータイ動画も見て喜ぶし、果物の皮を剥いて欲しいと言って甘えて来たり、かわいい存在でした。

晩年のクラレンスが軽い脳梗塞や便秘を患ったとき、キップス夫人が獣医師に言われて与えたのがシャンパーニュ。
何と、クラレンスはシャンパーニュのみ受けつけたのです。
(理由は知りませんが、鳥の外傷や内臓疾患にはワインはよく効きます。実家でもよく飲ませていました)
写真が残っているのですが、そこに写っているボトルは、

「ポメリー・ブリュット・ロイヤルブルー」

贅沢かもしれませんが、理由があります。
ポメリーといえば、ブリュット・ナチュール。ブリュット・ナチュールといえばポメリー。
というように、19世紀前半までは甘口が主流だったシャンパーニュに「辛口革命」を起こし、一大消費国である英国にあっという間にブームが広まりました。
つまり、「辛口シャンパーニュ=ポメリー」という構造が出来あがっていたからです。
現代の我々が辛口ビールといえばスーパードライという感覚と同じです。
ポメリー・ブリュット・ナチュールは、スタンダードな辛口といえども味わい深いシャンパーニュで、和食にも合います。
人間だけでなく、スズメも愛飲したシャンパーニュ。
ぜひ、未読の方はクラレンスの物語と一緒に味わってみて下さいませ。





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最終更新日  2012年03月02日 18時55分09秒



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