私が『ミトン』に出逢ったのは、一昨年の暮れのことだったと思う。
[赤い犬] 私は『ミトン』のことを そう記憶していた。
本当は上映開始と同時に行きたかったのだが、観に行く余裕すら失っていた。もちろん、仕事上の理由が大きかったのかもしれない。
そして、東京での上映最終日前日。
どうしても落ち着かない私は、雨降る渋谷に独り『ミトン』に逢いにでかけた。
映画館は流行(はやり)のミニシアター。受付の女性はちょっと元気がない。人々の心はもうすでに、上映が始まった『チェブラーシカ』に移っていた。『ミトン』は、もう過去の作品という空気さえ流れていた。パンフレットも売り切れ、『ミトン』を感じることの出来ない空間に私は苛立ちを感じていた。
『ミトン』上映開始とともに、そんな小さなことは一気にふっとんだ。
優しい映像美に幾度となく心を奪われ引き込まれる。衝撃的だった。短い10分という時間なのに、こんなにも引き寄せられてしまう。時間とかそんなものは所詮 人の心を動かすのに関係がないものだと。
本質は作品に込められた気持ちだろう。
こんな優しい気持ちになれたのは久しぶりだ。 癒し系? いや、私にはそんな言葉で『ミトン』を一くくりに出来ない。 『ミトン』は『ミトン』、ただそれだけだ。
心に残る作品は、いろんな人に知ってもらいたい。独り占めなんて出来ない。『アメリ』を観てから私は 独り占めを嫌うようになった。 (『アメリ』の話は、また次回にしよう。)
良いものは良いと人に勧めるべきだと思う。
あなたの心に『ミトン』が残って下されば、幸いに存じます。
メール記事転送 2004/9/1
『ミトン』 ロマン・カチャーノフ監督作品/パペットアニメーション
製作年:1967年
製作国:ソ連/時間:10分