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穏やかな爆弾

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父からの執拗な勧誘の末、ほぼ強引に決められてしまった。

かつお自動車教習所入校日、当日。

乗り込んだ『かつお自動車教習所』行きの
スクールバスには、僕以外、学生の姿はありませんでした。

学校案内にも、『閑散期』と
でかでかと書かれていた通り。
こんな辺鄙な時期、そして正午を少し回ったと言う時間帯に
教習所へ通う人物は稀なのでしょう。
通学用と銘打ったわりには、小さすぎるマイクロバスには
僕と運転手さんの二人だけ。
混んで来たら・・と気を使って最後部の一番隅に降ろした腰も
危惧に終わりそうな感じでした。

おはようございます。
無意味な徹夜明け、まぐろです。



さて、皆さんは、何か特別な予定のある前日は
ドキドキして眠れなかったことってありませんか?

僕の場合、その帰来が強いようで・・
「わ~い♪明日はデートだ~♪」とか
「明日からは、新しい職場だぞ・・。」てな状況に置かれると
脳のどっかから、いけない物質がドバドバ出てきて
「ぬ・・ぬおお。。眠れないぃいぃぃ。」なんて
パジャマを掻き毟ることもしばしば・・。

これは、一種の神経症なのでしょうか?



そんなこんなで、この日も三時間睡眠でありました。

昼下がりの安穏とした時間。
澄み渡った青空から降り注ぐ陽光が、秋口とは思えぬ暖かさを
車内に投げかけています。
僕の住んでいるトコロは、市街地より随分と離れた平野部分なので
窓の外には延々と広がる田園が見渡せ
それが長閑な雰囲気と共に流れて行きます。
カーステレオから響く女性DJの可愛い声が
陽だまりの様なスクールバスの空気を、更に和やかにしていました。

これは・・僕に「寝ろ」って神様が仰っているのでしょうか?

三時間の浅い眠りしか与えられなかった僕の瞼に
田舎町の安穏とした風景が優しく凭れ掛かってきます。

うとうと・・

うとうと・・

う~いかんいかん。

父の話では、ものの二十分で教習所に着いてしまう短い道のり・・

こんな所で、いびきをかいて
運転手さんに起こされるなんて・・恥ずかしい真似・・。
末代までの・・・。

ぐ~






不意に誰かに肩を揺さぶられたような感じがして
目が覚めました。

・・いったいどれくらい寝ていたのでしょう。

未だ、スクールバスには誰も乗り込んできてはいないようです。
人影は僕と運転手さんだけ。
目的地に到着していない所を見ると
眠っていたのは僅かな間だったのでしょうか?

なにげなく携帯電話で時間を確かめる僕・・

あれから・・






一時間も経過しています・・。

「なんで・・??」

はっと我に返り周囲を見渡したところで僕は愕然としてしまいます。

「ここ・・どこ?」

左手には、上るには装備が必要なほどの断崖絶壁。
先程までの暖かで燦々とした太陽は、右側から伸び周囲を取り囲む
鬱蒼とした樹木群の抵抗に遮られ
モノトーンの色彩をスクールバス車内に落としています。



山です。

もろ山中です。




もう一回、言いますね。

僕の住んでいるトコロは、市街地より随分と離れた平野部分なです。
こんな光景は、めったにお目にかかることは出来ません。

そう・・車で一時間以上走らないと・・。

ふと振り返ると、遥か遠方、木々の間から
もう、とてつもなく小さくなってしまった僕の住む街が見えました。

「あれ?確か・・車で20分程で着くはずじゃ・・。あれ?」

何処か遠くで『ドナドナ』が流れるのを聞きながら
寝ぼけ眼を右往左往させていると・・

再び、誰かに肩を揺さぶられました。

これが、曲りくねった山道が齎している遠心力だと気づいたときには
時、既に遅し。

「うえっ・・気持ち悪い。。。」

乗り物に酔いやすい体質のもやしっ子には連続する急カーブは酷です。
他人に邪魔にならないように・・と後部座席に乗ったことも災いして
瞬時に落とされる阿鼻叫喚地獄。
三半規管とストマックを、散々揺さぶり続けられ
寝ぼけ眼は、次第に死んだ魚ような眼差しへと変貌です。
一体、何処に連れて行かれているのかも分からない不安感も
より拍車を掛けてくれました。

「きっとオヤジは、僕をサーカスに売ったんだ。
 目的地に着くと、鞭を手したに燕尾服の団長が
 とんぼの切り方を一から僕に叩き込むんだ~!!」

などと・・既に冷静な思考が出来なくなった僕は
仕方なく窓ガラスに額を押し付け
薄暗い所を流れていく景色(主に緑)を
呆然と眺めていることしか出来ませんでした。

暫く行くと、不意に視界が開けました。

樹木の群生が隠していた太陽が、僕の瞳に飛び込みます。
急激に収縮された瞳孔に軽い眩暈を覚えながら
突然広がった白い世界に、目を細めます。

「つ・・着いたの??」




しかし、そこに広がっていた風景は・・




見渡す限りの・・




墓場。

墓場。

墓場。





それはもう、墓石・卒塔婆の原野。
あの冷たい石の下には、数え切れない数の・・




人骨。

人骨。

人骨。


「だから!僕は一体、何処へ連れてかれるんだぁぁぁぁ~!!」







・・教習所は、その墓場を越えた山の中腹にありました。




入校式を終え、脱兎の如く自宅に戻ると父親に詰め寄ります。

「お、おやじ!!めちゃめちゃ遠いじゃないかよ!!
 それに何!あの山!あの墓!!」

二十分と聞いていたのに、一時間以上も掛かるなんて
話が違うのにも程があります。
しかし、その事実を突きつけても、父はしれっとしたもので

「おお・・そんなに遠かったか。」

なんてあくまでもマイペース。
そして、続けざまに僕が気になって止まなかった
彼の画策の全容を僕に告げるのでした。
 
「実はな、あの教習所には同僚の娘さんが勤めていてな。
 お前の嫁さんにどうかなって。」

「はぁ!?」

「良かったら、食事にでも誘ってやってくれ~。」

み・・見合い?これは見合いなの??

「のおおおおお!!
 余計なお世話だ~!
 くそ親父~!!」





・・と、言うわけで

通学・片道一時間という非常に面倒くさい
『かつお自動車教習所』生活が始まりましたとさ・・。
はたして、どうなることやら。。





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Last updated  Feb 14, 2004 09:25:47 AM
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