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カテゴリ:歪曲人生
僕が出身した小学校には
学期末ごとに、同じ町内の子供たちが一堂に集って 自分たちの登下校について話し合う・・ 『児童交通安全集会』 なるものが、学校行事として存在していました。 『自主性』と重々しく掲げられた校訓に則り 高学年を中心に、児童同士が意見を出し合って 議事を進めて行きます。 「より円滑で安全な登下校の有り方を導き出す。」 ってのが この反省会の趣旨だったようなのですが・・。 しかし・・ 実質、そこで繰り広げられていたものは・・ 大密告大会。 「まぐろくんは、先週の土曜日に通学路違反をしてました。」とか 「まぐろくんは、いつも田中君の家に寄り道しています。」とか こましゃくれた女子集団は 素行の悪い僕ら男子を吊るし上げるのが 何故か大好きで・・ 銀縁めがねの端なんかを、くいっと持ち上げながら ここぞとばかり次々と議題に取り上げてくれるのです。 その度、会を見守っていた教師一同は 大層ご立腹をし 『自主性』の校訓をどっかにうっちゃって 大変厳しい指導を、常習犯の烙印を押された僕らに ご教授し始めます。 おかげで、その集会は 屠殺場の様な惨劇の舞台に成り下がりっていました。 そして、当然のように 僕らと銀縁めがねの女子達との対立は この集会を経るごとに どんどん熾烈なものになって行くのです。 こんにちは。まぐろです。 今日は少し昔話。 現代とは異なり 子供達の男女間で大きな隔たりがあった そんな時代のお話です。 (僕らの住んでいた地域だけかも知れませんけど・・。) 僕の通学路には、樹齢何百年はあろうと思われる 『巨木』が聳える旧家がありました。 縦横無尽に伸ばされた枝は 脇を通る小道へと覆い被さり 真昼の明るい空を、鬱蒼と遮ります。 その風格は、まさに『御神木』と称しても 過言ではなかったでしょう。 あまりにも禍々しき雰囲気で 子供たちの、ちょっとした都市伝説の原因となりながらも 夏場などは、その枝木が ちょうどよく太陽の光を遮り 炎天下の帰り道に、そっと木陰を涼を施してくれます。 そんな、畏怖と恩恵を兼ね揃えた『巨木』は 自然と人間の共生の縮図を 子供達に教えていたのかも知れません。 いつの頃からでしょう。 その大木のある周囲の道に お米の『もみ殻』が撒かれる様になりました。 (もみ殻が分からないって都会っ子は、こちらを参照) 気付いた頃には まさに米粒大、米粒型の小さな茶色い抜け殻が アスファルトの地面を覆い隠して見えないほど 大量に敷き詰められていたのです。 それでも、当時小学生だった僕らは 「ああ・・このお家は(巨木のある旧家)は農家だから それでなんだなぁ。」 ・・と、何となく納得しながら 足元の『もみ殻』を踏みしめつつ 登下校する日々が、何日か続いていたのです。 ・・が、しかし 真実を知るときは突然やってきました。 ある日の帰り道。 方向の違う友人と別れた僕は とぼとぼと一人寂しく家路を辿っていました。 退屈さを紛らわせるために『給食袋』の 紐を手に持ち 袋の部分を蹴るという 絶対失敗しない「なんちゃってリフティング」の 一人遊びをしながらの通学路を進んでいくと・・ やがて、あの『もみ殻』の敷き詰められた 巨木のある小道に差し掛かりました。 その時です。 「あ!」 少しばかり力強く蹴りすぎたのか はたまた紐を持つ手が疎かだったのか 定かではありませんが サッカーボールに見立てた『給食袋』は 「絶対失敗しない」と豪語していた僕の手を離れ 勢い良く前方に投げ出されてしまいました。 解放されたそれは 放物線を描きながら、宙を舞い・・ やがて、あの茶色く敷き詰められた 『もみ殻』絨毯の上に「ばふっ」と着地します。 「あーあ・・。」 純白だった『給食袋』は、地面で二転三転すると 痛々しくも『もみ殻』に塗れ その色を、酷く曖昧な物に変えていました。 「あんまり汚すと、お母さんに怒られちゃうな。」 なんてことを思いながら 僕は、仕方なくその場にしゃがみ込み 『給食袋』を拾い上げると 大量に附着してしまった『もみ殻』を払いのけるために 手の平でパンパン・・。 その瞬間でした。 異様な感触が、僕の手の平を掠めたのは・・ なにか・・ 触れてはいけないものに 触れてしまった。 そんな戦慄が背筋を走りぬけ、全身を強張らせます。 「なななななな!?」 あまりにも不可思議な感覚に、恐れ戦きながら 給食袋に視線を走らせるまぐろ少年。 ・・そこにあったものは。 茶色いもみ殻。 否!! 今まで、足元にあったもので 風景と化し まじまじと観察することなんて無かったのですが 間近で見てみると この『もみ殻』には 一つ一つ模様があります!! そうです・・。 今までただの『もみ殻』だと思っていたモノ・・。 そしてまぐろ少年が、今正に踏みしめて立っている この茶色い絨毯の正体は・・。 虫!! 虫なのです!! 顕著な蠢動が見受けられなかったので 僕らは誰も気付かなかったのです。 この狭い小道のアスファルトが見えないくらいに 無数に犇めき合っている物体は 全て何かの幼虫でした。 「ぎゃああああああ!!!」 その時の衝撃といったら 筆舌に尽くしがたい物がありました。 半ば半狂乱になり、走り出したい衝動に駆られながらも 全方向を幼虫に囲まれ、歩を進めれば 改めて気付かされるジェノサイド。 全く身動きが取れないまま 子供だった僕は、ただ泣き叫ぶコトしか出来ませんでした・・。 どうやって・・その場から逃げ帰ったのかは 全く覚えていません。 しかし当然のように その日から、僕はその通学路を避けるようになりました。 下校時は勿論のこと・・ 近所の子供たちで同志で固まっての集団登校も 班長の高学年を説得して 迂回路を通るようにしたのです。 (無論、そんな事実を目の当たりにさせられれば 班長も気味悪がって通らなくなったのですが・・。) そんな状況が、何日か続いたある日の事。 迂回路である一本外れた道を通っていると 遠くで僕を呼ぶ声がしました。 ふと見ると、例の交通安全集会で僕らを吊るし上げる 銀縁めがねの女子集団がこちらに向かって 嫌味なトーンで叫んでいます。 「まぐろ君~!!ちゃんと通学路通りなさいよね~!! 先生に言いつけるから~!!」 リーダー格の娘が、意地悪そうな表情で気炎をあげ その取り巻きが、こちらを見ながら 「しょうがないわよね。男子は。」みたいな感じで クスクスと笑い合ってます。 まさに鬼の首を取ってやったというような雰囲気。 しかし・・無知とは恐ろしい物ですね。 彼女達が立っている場所は まさにあの巨木の下。 茶色い絨毯の上なのです。 親切なまぐろ少年は、ギリギリまで近寄って 何も知らず勝ち誇っいてる彼女たちに 教えてあげることにしました。 「きゃあああああ!!」 ・・いつも彼女らに屠殺場送りにされている僕には その時、聞いた彼女達の悲鳴が とても心地よいものだったのは、言うまでもありません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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