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穏やかな爆弾

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カテゴリ:カテゴリ未分類
『毎度おさわがせします』と言う
ドラマをご存知でしょうか?

1985年から1987年にかけて
TBS系列で制作・放送された
テレビドラマで
「性」をテーマとした
コミカルな描写が話題となり
一大旋風を巻き起こしました。
           (Wikipedia調べ)

結果
エロガキの男子と…
耳年増の女子を…
大量に野へ放った問題作でもあります。

そりゃ…ゴールデンタイムに
中山美穂のセミヌード出したり
木村一八とデンカが風呂でエロ話してりゃ
ガキどもは影響されまくりですわ。



…………昭和って自由だったな。



そんなこんなで今日は昔語り。




使用上の注意

本編は100%下ネタです。



昭和の子供たちは総じてあほな子が多い。



もしかしたら3%ぐらいは
賢い子供もいたのかも知れないが
あほな子の周りには
あほな子しか集まらないので
そんな現実…僕は知らない。

田中。
藤井。
春岡。
小橋。

仲の良い友達だったが
皆あほな子だった。

学校脇の溝を流れるプールからの排水が
あまりにも透き通っていたので
「この水は飲める水だ」と
がぶ飲みする五人組だ。

食中毒者を一人も出さなかったのは
奇跡であろう。
それぐらい皆…オツムが弱かった。



『田中が物凄いブツを手に入れたらしい』



あほな子達に衝撃が走ったのは
土曜の昼下がりだった。

当時はまだ週休二日が導入される様な
ゆとり社会ではなく
炎天下を水も与えず走り続けさせられる
『根性』だの
『気合い』だの
精神論がまかり通っていた時代だったので
土曜は半ドンだった。

僕らは授業が終わると
奥歯に仕込んである
加速装置のスイッチを入れ
一目散に校門をくぐり抜ける。

自宅で昼飯を掻き込み
田中ん家でファミコンして来ます…なんて
普段使わない様な敬語で
親を煙に巻き
光の早さで田中の家に集まった。



それほど田中が手に入れた物はヤバいのだ。



田中は皆が揃うと神妙な面持ちで
部屋のカーテンを閉めた。
ガラクタばかりが押し込めてある
押し入れの中を
ひとしきりがさごそとした後
田中はニヤニヤと
気持ちの悪い笑みを浮かべながら振り返る。



「いいか…いくぞ。」



両親は共働き。
中学生の兄は部活で
田中家には誰もいないのだが
敢えて声を潜める。



固唾を呑むあほな子達。



「ジャジャーン!!」



田中が今
臆面もなくこっぱずかしい
セルフ効果音を発しながら
賢者の石よろしく
天高く掲げている物…。



ま…………



間違いない。



こ………



これは………



Hな本だ~~!!



たかがHな本と思う勿れ。
インターネットの存在していない時代。
ビデオの普及率も
著しく乏しい時代である。

『毎度お騒がせします』に感化され
大人の階段を登りはじめた
あほな子達にとっては
オオクワガタと同義なほどに
希少価値の高いものなのである。

僕らは田中の腕からHな本を毟り取ると
腐肉にたかる烏の群れの様に
一斉にそれに群がった。

背徳と好奇…
興奮と罪悪感に塗れながら
慎重な指先でページをめくる。



視覚に飛び込んで来る

官能的な世界。



左のページにもおっぱい。
右のページにもおっぱい。
おっぱい。
おっぱい。
おっぱい祭である。



横で藤井が『ぐへぐへ』笑ってる。

気持ち悪い奴だと思ったが

多分…僕も『ぐへぐへ』笑ってたと思うので

見ないことにした。



男女の身体の違いなんて
おっぱいぐらいしか分からなったが
僕らは胸の高まりを
押さえることが出来なかった。



他のトコロも高まった気もしたが

そこは内緒にしておこう。



とにかく
あほな上に気持ち悪い子供達は
浦安に建国されるよりも先に
夢の国を見つけたのだった。



「やったぜ!田中!」

「すげーぜ!田中!」



あほな子達は
偉業を成し遂げた田中を褒め讃えた。

お調子者で
面白いと思った事に歯止めが効かず
奇行を繰り返していた
キングオブあほな子・田中の人気が
ここまで高まったのは
後にも先にも
この瞬間以外、僕は知らない。

後日テンションが上がり過ぎた田中が
ヒーローになろうと
学級で飼っていた金魚の水槽に
墨汁をぶちまけ

『何故田中君はこうなのか』

…と学級会の議題にまで
取り上げられる事になるのだが
それはまた別のお話。



「昨日兄ちゃんと
 雷魚釣りに行って
 〇〇橋の横の草むらで拾ったんだ。
 ぐへへ…。」

かなり気持ち悪い笑顔だったが
僕らは気にならない。
あほな子達は田中の言葉を聞き
顔を見合わせた。



これを…



拾った…だと?



ただで手に入れたと…言うのか?



誰しもの耳にCCBの曲が聞こえた。



もうロマンチックが止まらない。



それから僕らの



Hな本探しの冒険は始まった。



東ノゴミステーションニ
エッチナ本アレバ
行ッテ大人タチノ目ヲ忍ビ
西ノ叢ニ
エッチナ本アレバ
行ッテヤブ蚊ニ刺サレナガラ拾イ…



僕等は純粋だった。



純粋なエロガキだった。



そうやって掻き集めたHな本の総数…



実に



100冊!!!






「おい……これどうするよ。」



僕等は途方に暮れていた。

どう考えても集め過ぎた。

山のように堆く詰まれたHな本は
煩悩の集合体に見えて
夜な夜な動き出しそうな勢いだ。

それまでは廃線になった線路にある
秘密基地に隠してあったが
すでにそこも飽和状態。

しかも
運が悪いことに
今年一番と予想される
巨大台風が近づいていた事が
事態をより悪化させていた。
強烈な風雨に耐えられるほど
基地の屋根は堅牢ではない。



僕らに残された時間は少ないのだ。



しかし…あほな子五人組には

これを破棄するという選択肢はなかった。



僕らにはとって
もはや…これは
Hな本などではない。

竹やりに全裸という脆弱な装備で
教師や親という名のモンスターの
目をかい潜りながら
集めたトレジャーに他ならない。

(みんなが敬遠してあまり見ないような
 SMちっくな本は捨てても
 良さそうなもんだったが…
 やはりトレジャーだったのだろう。)



そう…それは賢者への階段に

僕等を導いてくれる

正に

『さとりのしょ』だったのだ。



「取り敢えず台風の間だけでも
 誰かの家に避難させなきゃな。」

問題は誰の家に
この大量の書物を隠すか…

あほな子達に
労力を分散させる脳みそはない。
そして何かを決めるときは
論議などという難しい方法を用いない…。



いつもこれだ。



じゃんけんぽん!



出揃った拳を眺めて
正直まずいことになったと思った。

負けたのは小橋。

あほな子五人組の中では
一番身体が小さく気の弱い小橋だ。
お坊ちゃん育ちの小橋は
自分の部屋も持っている…確かに
隠し場所には最適だったが
気の弱い小橋に蔵書を押し付けるのは
何だか虐めているみたいで躊躇われた。

もう一度小橋抜きでじゃんけんをしよう…
そう誰もが心に決めかけた時
小橋が口を開いた。



「僕が引き受けるよ。」



男だった…。

小橋は男だった。

僕らは小橋の手を固く握り

友情を確かめあった。



あほな子達はそれぞれ持ち合わせた紙袋に
さとりのしょを詰め込み
秘密裏に小橋宅へ運び込んだ。
偵察役を立て
ハンドサインを決めて
事を運ぶ念の入れようだった。

小橋のベッドの下は
Hな本がぎっしり詰まり
入らない本はクローゼットを席巻した。
もはや小橋の部屋の雰囲気は
違和感満載の箱舟だったが
ジャンプとかコロコロなんかで
あらんかぎりのカモフラージュを施したから
一晩ぐらいは凌げるだろう。

仕事を終え…
全責任を背負わされた小橋に
敬礼とともにエールを送る。



小橋は屈託のない表情で笑っていた。


何故、この状況下で笑えるのだ小橋。


貴様…聖人か?



案の定。
翌日は台風の直撃に伴い
学校は休校となった。

僕らはヤキモキしながら
ドキドキの一夜を
モンモンと過ごし
グーグー寝て台風の通過を待った。



そして翌日…事件は起こる。



小橋が

みかんになって登校したのだ。



最初は新しい遊びかと思ったが
普段はうちらに声も掛けて来ないような
こまっしゃくれた女子が
大袈裟に心配していたので
頭にかぶっているネットは
怪我をした時にするものだと気づいた。



僕等も心配した。

頭の怪我なんてよほどのことだ。



しかし…違う意味での心配も

少しだけ脳裏を掠めた。



「ごめん…みんな実は…。」



少しだけ掠めた心配は見事的中した。

小橋の話では
僕らの集めた百冊にも及ぶ
『さとりのしょ』は
あれを運び込んだ嵐の夜
親に見つかってしまったらしい。

無論…全て没収され
あまつさえ小橋は
厳格な父親にぶっ飛ばされ
窓ガラスに頭をしたたかにぶつけ
大怪我を負ったというのだ。



あほな子四人は落胆した。

そして泣いた。

声を殺して泣いた。

僕らは無力だ。

大切なもの一つも守れない子供だ。

いや…なめくじだ。

おおさんしょううおだ。

すべすべまんじゅうがにだ。



しかし自分一人で集めた…と
両親に言い張り
仲間を売らず名誉の負傷をした小橋を
誰も責めることは出来ず
ただただ自分達の浅薄と無力を呪った。

地獄の釜の底まで蹴落とされ
絶望の土くれを噛み締めるのに
慣れ始めた頃…。



小橋が口を開いた。



「実はランドセルの中に
 一冊だけ隠しておいたんだよ。」

「な…なんだって~!!」



まさにカンダタの糸。

今まで三秒後に死ぬと告知された
スペードの様な表情を浮かべていた
あほな子達は一縷の望みに狂喜乱舞した。

これで再び、ダーマの神殿へ
近づく事も出来るというもの。



後日…。



秘密基地に小橋は

最後に残された

『さとりのしょ』を持ってきた。







SMちっくな本だった。





小橋よ……

何故……お前はこれをチョイスしたのだ。

苦虫を噛み潰した四人に向かって

小橋はただただ

屈託のない笑顔を浮かべていたのだった。



大人になりあの頃を振り返ると
いつも疑問に思うことがある。
小橋は何故ランドセルに
一冊だけ隠しておけたのか…

しかも何故
皆が敬遠していたSMの本を…。



もしかして小橋は

僕らとは違う

『さとり』を

開いていたのかも知れない。



昭和の子供たちは総じてあほな子が多い。



もしかしたら3%ぐらいは
賢い子供もいたのかも知れないが
あほな子の周りには
あほな子しか集まらないので
そんな現実…僕は知らない。


あほな子五人組は
他でも色々とやらかしているが
それはまた別のお話。





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Last updated  Dec 30, 2013 10:39:47 PM
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