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それから彼女を後ろに乗せ走る事一時間。バイクは町を見下ろす高台にある住宅地に着いた。
いや、言い直そう。海を見下ろす高台にある高級住宅街だ。 メモしてきた番地を頼りにボーちゃん宅に辿り着く 「え~と・・・ここだよな」 「ここ・・・ですよね・・・」 唖然とする俺たちの向こうには、車が同時に何台も通れるぐらいのガッシリとして洒落た門がそびえ立ち、その奥には歴史を感じさせる洋館がたたずんでいる。 「と、とにかくインターホン鳴らしてください」 「お、俺がぁ?」 風邪で休んだ好きな子の家に連絡プリントと給食の三色ゼリーを届ける小学生の気分である。 「なに意気地のない声してるんですか」 そう言われても由緒正しい貧乏人のコセガレの俺には、それこそ敷居が高い所の話じゃないぞ。 「そう言う君こそ鳴らせばいいだろ」 「私だって自慢じゃないですけど、成り上がりの小金持ちの小娘ですよ!家がセントラルヒーティングだって自慢したところで、リビングに本物の暖炉がある屋敷の前では成す術もないですよ」 それで唯一の暖房器具が600Wの電気ストーブの俺にどうしろと? 「もう!情けない事言わないでください!苗字だけをたよりに電話帳を片っ端からかけたガッツはどこに行ったんです!」 ガッツと無謀を一緒にしないでもらいたいが、そこまで言われれば仕方が無い。 俺は意を決しインターフォンに指を伸ばした。 ピンポ~ン 案外一般庶民的なインターフォンの音に気を殺がれながらも返事を待つ。 ・・・5秒・・・10秒・・・15秒・・・返事がない。 「ふー どうやらいないようだね」 健康診断に異常が無い事を告げるイケン若手医師のような爽やかさで不在を告げる 「なに安堵感に満ち満ちた顔してるんですか」 と彼女は不満げにつぶやくが、小学校の頃、同級生の誕生日会の席にカップと共に備えられた一人一個のティーパックに心底驚嘆した俺にとっては致し方ない話だ。 「だってさ、もしインターフォンを押してロマンスグレーの執事が出てきて「どのようなご用件でしょう?」なんて聞かれたら「すみません間違えました」って即背を向けるしかないだろ」 「そんな事ありませんよ」 呆れた声で彼女は言うが、この門構えと言い奥にそびえる洋館といい、無いと言いきれるのか? 「そ、それは・・・」 「あの・・・羊はいませんが犬ならいます・・・」 「「ひいっ!」」 いつの間にかボーちゃんが後ろに立っていた。くうっ!一度ならず二度までも後ろを取られるとは! しかも、見事な程のうつむき加減にツッコむ事もままならない空気。 何だか分からない口惜しさに身もだえしたくなる俺をよそに 「ボーちゃん!」 彼女がボーちゃんに駆け寄る。 「え?・・・あの・・・」 「覚えてない?演劇部の林よ」 と言う彼女をボーちゃんは数秒ボーっと眺めた後 「・・・あ・・・奇遇ですねこんな所で・・・」 奇遇って、こんな奇遇なんて20年前の少女マンガにだってないぞ。 そんなツッコミもせず彼女は 「ボーちゃん。この2,3日学校休んでるって」 「・・・は、はい・・・」 彼女は意を決したように 「それってもしかして・・・わたしのせい?」 「・・・え?・・・おじいさんが亡くなったのは先輩のせいなんですか?・・・」 なんと言うサスペンス展開。 街を見下ろす小高い丘に立つ古びた洋館の前に対峙する二人の女。 まあ昔から推理小説の犯人なんてものは「いかにも」って奴より薄幸の美女と相場がきまってる。 でも安心して。俺は君が罪を償うまで何年でも待つよ! 「誰が幸薄そうなんですか!人を殺人犯扱いしないでください!」 美女のくだりには言及しないんだ。 「ボーちゃん。もしかして学校休んだのってお葬式で?」 「・・・ええ、そうですけど・・・」 「そ、そうなの・・・」 彼女は安心したと言うより拍子抜けしたようにその場に立ち尽くしていると。 「あの・・・もしかしてわたしの事を心配して来てくれたんですか?」 「・・・ええ」 まあ、半分は罪悪感だが。 「 ・・・あの・・・よろしかったら・・・中にはいりませんか・・・」 中に!?・・・キタ!本格的洋館ミステリーが 「始まりません!」 彼女の小気味の良いツッコミを後におれと彼女はボーちゃんに連れられて家・・・いや屋敷の中に入った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 6, 2014 11:21:35 PM
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