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「本当にゴメンなさい。嫌な思いをさせちゃったかもしれないけど、せっかくこうして話が出来たんだから暇な時があったらいつでも部室に遊びに来てね」
門の外まで出てきてくれたボーちゃんに彼女は再び頭を下げるが、ボーちゃんはそれに応えずジーっと何かを見ている 「・・・ボーちゃん?」 ボーちゃんの視線をたどると、そこには俺のバイク バイク乗りなら分かってくれるだろうが、自分のバイクを他人が見ていると妙に嬉しくなる 「ん?バイクに興味あるの?」 人目をはばからずニヤニヤしたいのを我慢しながら世間話のように聞くと 「あ・・・あまり近くで見た事が無かったのですが・・・走っているのを見ると気持ち良さそうだなと・・・」 「じゃあ乗っ・・・」 「あら、案外そうでもないのよ」 鼻の穴を膨らませながらボーちゃんに「乗ってみる?」と言おうとするのを彼女が遮り 「髪の毛はクシャクシャになるし排気ガスは吸い放題だし、それにこけたら危ないでしょう?」 ほ・・・ほう・・・そう思ってたの・・・ 「でもね・・・一番危ないのはバイクじゃなくて「振り落とされないようにしっかりしがみ付いて!」って鼻の下を伸ばす不心得者だけけどね!」 ほ・・・ほう・・・そう思っていたの・・・ 「という訳で、帰りは電車で帰るから私はここで失礼します」 プイッっと横を向き歩いていこうとする彼女 「ちょ、ちょっと!」 何?この急展開。俺が慌てて彼女を止めようとすると 「なんてウソです。今日はお母さんと駅で待ち合わせしてるので電車で帰ります。ビックリしました?」 ビックリするどころかオロオロいちゃったよ! 「・・・あの・・・でしたら駅まで送ります」 オロオロしている俺をよそにボーちゃんが見送りを申し出る 「え?でも悪いわ」 「いえ・・・わざわざ来ていただきましたから・・・行きましょう」 と、トボトボと歩き出すボーちゃん彼女もそれに続き、俺も慌ててバイクを押しながら後に付いて行った 考えてみればバイクを押して付いて行くぐらいなら俺が彼女を駅まで送って行けばいいのだが、せっかくボーちゃんが積極的に送ってくれると言うのに水を差す訳にも行くまい しかし、何で帰り道ってのは言葉数が少なくなるのかね。 別にそれで間が持たないって感じでもなく、何となく暖かいような気がして、ただトボトボと、日が暮くれ、街灯が灯りだした坂道を三人で歩いて行く 「ありがとうね」 駅に着着き、彼女がボーちゃんにお礼を言う 「・・・いえ・・・嬉しかったです・・・こう言うのってあんまりありませんでしたから」 嬉しかった・・・か 来た事なのか送ってくれた事なのか 彼女が手を振りながら改札をくぐりホームに消えた後、俺はまだ改札口を見ているボーちゃんに話しかけた 「ボーちゃん。、見送る方と見送られる方、どっちがいい?」 「え?・・・」 「俺は見送る方かな」 振り向いた背中に想いを抱く方が気が楽だ 「・・・どっちも・・・あまり経験がありませんから・・・」 「じゃあ、もう一度考えてみない?入部の件。別にスタッフでも構わないから」 「でも・・・」 「俺で良ければ毎日見送ってやるよ?」 少々キザなセリフだが、何とか気に障らない程度に言えたような気がする それでもボーちゃんは黙ったまま俯き、しばらくして 「・・・無理です・・・」 とつぶやく 「わたし人に合わせるのが苦手で・・・いつもそんな気は無いのに怒らせたり邪魔になったり・・・」 「お?奇遇だな。俺もいつもそう言われる」 あら?くすりともしない。まあ分かってた事だけど 「ですから・・・無理です・・・」 「そうか・・・まあいいや。ほら」 あっさり話題を変え、ボーちゃんにヘルメットを渡す 「・・・え?」 「送るよ。言ったろ?俺は見送る方が好きなの。大丈夫、なるべく鼻の下も伸ばさないようにするから安心して」 全然安心出来ないセリフだなと我ながら思うがヘルメットは差し出したままだ 「バイク興味があるんだろ?」 差し出したヘルメットを恐る恐る受け取るボーちゃん 「俺の腰を掴んで身体を安定させて。別にくっつかなくてもいいから」 もちろん彼女には「俺の腰に手を回して身体ごと密着して」と言ってるが、これもケースバイケースって奴だ 何とかバイクにまたがったボーちゃんを乗せ、ゆっくりとクラッチを繋いで行く 乗りなれている者からしたらアクビが出るような速度だが、車と違って身体を剥き出して走るバイクは始めて乗った者にすれば体感的に速度は早く感じる 例外に漏れずボーちゃんもそうらしく、俺の腰を掴む手に力が入っている まっすぐな道から山沿いの道に入るカーブに差し掛かりバイクを軽くバンク・・・しない! バイクが傾かない?!カーブに突き刺さりそうになり慌ててブレーキを掛けバイクを止めた 後ろを見るとボーちゃんは目をギュッと閉じて身体を硬くしている なるほど・・・バイクは車体を倒してカーブを曲がる乗り物 目を閉じているボーちゃんは怖さが増し、きっと傾むく方の逆に力を入れていたのだろう 「あのねボーちゃん」 俺の言葉にやっと目を開けるボーちゃんに冗談まじりに話す 「ボーちゃんのバランス感覚ってたいしたもんだと関心するんだけど、バイクって傾かないと曲がれないんだ。」 「・・・え?・・・すみません・・・」 訳も分からず謝るボーちゃん 「いやいや、先に言っとかなかった俺が悪いから。で、一つ頼みがあるんだ」 「・・・頼み・・・ですか?」 いや、心配しなくてもギュッと身体を密着させろって言うんじゃないから 「怖いかもしれないけどさ、目を開けて前を見て欲しいんだ。後は俺に合わせてくれればいいから」 「・・・合わせる?」 「バイクが傾きたいのを邪魔しちゃダメなんだ。だから前を見て、俺の背中に合わせて傾いて欲しいんだ。大丈夫。絶対転んだりしないから」 なるべく安心感を与えようと精一杯微笑んでみたが、ヘルメットを被ったままなので通じたかどうかは分からない。 まあ、そんなにスピードをだす訳じゃないから大丈夫か 「さあ、もう一回行ってみようか!」 不安を払う為の景気づけの言葉と共にバイクは動き始める 今度はちゃんと前を見てくれているようで、バイクは何の障害もなくカーブを曲がりボーちゃんの家の近くまで来た。 いったんスピードを落としウインカーを出しかけたが思い直し、後ろにいるボーちゃんに大声で言う 「ぼーちゃん!せっかく慣れてきたんだ。どうせだからもうちょいツーリングしてみようか!」 「・・・・・・・・・・・・・・」 ボーちゃんは何か言ってるようだが風切り音とエンジン音でよく聞こえない 「え!何だって!」 「・・・お願いします!」 OK今度はハッキリ聞こえた スロットルをしぼり、さっきより少しだけ早いスピードで街を見下ろす住宅街をすり抜け、山道らしい曲がりくねった道に入る ボーちゃんもすこし慣れてきたようで、右左に迫るカーブに対して自然にバイクの動きに身体を合わせて、初めは力が入っていた俺の腰を掴む手も力が抜けて行くのが分かる 俺はボーちゃんに見えるように左手でガードレール側を指差した そこには夜も眠らぬ工業地帯の、オレンジや白色の灯りで埋め尽くされた夜景が広がっていた まあ近所なんだからそれに近い物は毎日にように見てるんだろうけど、少しの間、風を受けながら漆黒の闇の中のバイクのライトで浮かび上がるアスファルトだけを見つめていたのだからつい見入ってしまうだろう スピードを落としゆっくり走らせた後、適当な所でUターンしてバイクは無事ボーちゃんの家の前についた 「どう?怖くなかった?」 バイクから降りヘルメットを脱ごうと四苦八苦しているボーちゃんに聞くと 「・・・初めは・・・でも気持ち良かったです」 気のせいか、無表情に近いボーちゃんの表情が少し彩が添えられた気がする 「なあボーちゃん。さっき人に合わすのが苦手って言ってたけどさ、ちゃんと合わせる事が出来るじゃん」 「・・・え?」 なかなか外れないヘルメットのストラップをボーちゃんの代わりに外してやりながら話を続け出来なける 「バイク、ちゃんと走れたろ?ボーちゃんが合わせてくれなきゃ曲がる事もできないからさ・・・だから自信を持っていいと思うよ」 「・・・は・・・はい・・・」 別に入部してもらおうと思って言ってるんじゃない。そんな事は自分で決める事で、無理なら無理でかまわない。 ただ、さっきまで無理だった事が、怖くても目を開けて前を見つめれれば無理が無理じゃなくなる事もあって そして、それが出来た人には、やっぱり言ってあげたいわけだ・・・「なんだ、出来るじゃん」って お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 10, 2014 08:53:24 PM
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